ひとりで生きるってこういうことか

ひとりで生きるってこういうことか

朝起きて、誰とも話さず始まる一日

目覚ましが鳴る。反射的に手を伸ばして止める。その瞬間から一日は始まる。誰かが「おはよう」と言ってくれるわけでもなく、布団の中で独り言のように「ああ、今日も始まった」とつぶやく。話し相手がいない生活に慣れすぎて、言葉の温度を忘れそうになる。昔は出勤前にテレビの音で気を紛らわせていたが、今はそれすらしない。無音の朝。湯を沸かす音と、歯磨き中の自分の息の音が、唯一の「生活音」だ。

挨拶の相手は湯沸かしポットだけ

ポットに水を入れてスイッチを押す。それだけの行為なのに、なぜか「よし、今日も一歩だ」と思ってしまう。これが毎日の「ルーティン」だ。誰かに「おはよう」と言われることが当たり前だった頃の記憶が、ふと浮かぶ。そしてすぐ消える。今はもう、挨拶は自分の中で完結するものになった。ポットのランプが赤く光るのを見て、妙に安心する。

ラジオの声が、少しだけ人間っぽさを補ってくれる

朝のニュース番組すら見なくなった。代わりに流しているのはラジオのトーク番組。パーソナリティの軽口に笑えるほど余裕はないけど、「人の声」を聞いているだけで少し落ち着く。スマートスピーカーに「おはよう」と言われるより、人間の会話に近い何かが欲しいんだと思う。

「おはよう」と言われるだけで泣けそうになる朝

先日、コンビニのレジで高校生バイトの店員に「おはようございます」と言われて、不意に胸が熱くなった。たったそれだけの言葉が、染みる。ひとりで生きるって、こういうことだ。誰かの何気ないひと言に、過剰に反応してしまう自分がいる。

昼休み、スマホとにらめっこして終わる

昼ごはんはだいたい決まった店か、コンビニのイートインで済ませる。スマホを片手に、無言で食べる。LINEも通知が来ないから、適当にニュースアプリを眺めるだけ。たまに画面が真っ暗になって、自分の顔が映ると、ひどく疲れてるように見えて驚く。

コンビニのイートインが、意外と落ち着く場所

最初は落ち着かなかった。視線を感じる気がして。でも今は違う。まわりもスマホに夢中で、自分を見てる人なんていない。むしろ、誰にも干渉されないこの空間が心地よくすらある。たまに同世代の夫婦が隣に座って、軽く談笑してたりすると、ちょっとだけ羨ましいとは思うけど。

周りは誰かと一緒なのに、こっちは一人で味噌汁

あちらは夫婦弁当、こちらはレジ横のおにぎりと味噌汁。味噌汁の湯気がやけに物悲しく見える日もある。人と食べるごはんって、特別だったんだなと、今になって気づく。誰にも話しかけられず、ただ咀嚼して飲み込む。空腹は満たされても、何かが足りない。

仕事があるだけマシ?本当にそうか?

「忙しそうでいいね」と言われることがある。確かにありがたい。でも、それが全部、自分で抱えるべき案件だと思うと話は別だ。ミスできない、遅らせられない、そして誰も代わってくれない。そんな日々をこなしていると、忙しいことがもはや呪いのように思える。

依頼は来るけど、感謝の言葉は届かない

たとえば登記手続きを完了させても、「終わって当然」「早くて当然」という雰囲気がある。お客様に悪気はないんだろうけど、こちらの努力や工夫は表に出ることが少ない。「ちゃんとしてて当たり前」なんて評価されない。だから、ときどき空しくなる。

「ちゃんとしてて当たり前」の世界に疲れる

電話が鳴れば即対応、書類にミスがあればすぐ修正、役所に走るのも自分、締切も自分。全部自分。これが「信用」ってやつなんだろうけど、重い。どんなに疲れてても、どんなに眠くても、書類だけは完璧でなければいけない。これがこの仕事の宿命なのかもしれない。

無理してる自分にすら気づかなくなる瞬間

ふとした瞬間に「あれ?自分ってこんな顔だったっけ」と思う。無表情がデフォルトになり、声を出す機会が減り、気づけば疲れた顔つきが日常になっている。笑顔って、どう作るんだったか。冗談抜きで忘れかけている。

夕方、事務員さんが帰ると世界が無音になる

17時半、事務員さんが「お先に失礼します」と言って帰る。そこからが本当のひとりの時間。電話は鳴らず、事務所の空気は静まり返る。コピー機の音すら、もう鳴らない。キーボードを打つ音だけが、空間を埋める。

「おつかれさま」の一言が今日の最後の会話

人と話したのが、今日これで最後だと思うと、なんとも言えない気持ちになる。ありがとう、とか、また明日、みたいな言葉が続くわけでもない。ただ一言、「おつかれさまです」。それで終わる。

急に訪れる、音のない空間の重み

無音の空間って、心がざわつく。さっきまであった気配が急に消えると、自分だけが取り残されたような気になる。テレビもラジオもない、音のない事務所の中で、タイピングのリズムだけが支えになっている。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。