分割で…って言われた瞬間、少し心が揺れた

分割で…って言われた瞬間、少し心が揺れた

登記費用は一括で、が当たり前だった

司法書士として独立してから、登記費用は「一括でいただくもの」という前提でやってきた。誰に教わったわけでもないが、開業当初に参考にした先輩たちの事務所もそうしていたし、業界の暗黙のルールのようなものだと思っていた。金額が高額になる案件では、説明を工夫するなどの配慮はしてきたけれど、あくまで「一括」が前提だった。

「そういうもの」と思っていた開業当初

右も左もわからないまま開業して、最初の頃は依頼があるだけでありがたかった。報酬の請求についても「相場」らしきものをなぞるように設定し、支払い方法にも柔軟性を持たせる余裕はなかった。そもそも、こちらが頼み込んで受任してもらうわけではない以上、費用についてはプロとして毅然としていようと、自分なりに覚悟を決めていたのだ。

分割相談なんて想定してなかった頃の話

ところが、開業して数年経つと、たまに「分割でもいいですか?」という問い合わせが現れるようになった。最初は驚いた。「え?分割?」と思わず聞き返してしまったほどだ。もちろん依頼者にも事情があるのは理解しているつもりだ。でも、こちらも生活がかかっている。支払いが滞ったときのリスクを考えると、手放しで了承するわけにはいかない。その葛藤が、ずっと自分の中にくすぶり続けている。

「分割でもいいですか?」その一言に戸惑う

ある日、電話口で若い依頼者が言った。「すみません、登記費用って分割でも大丈夫ですか?」と。相続登記で、依頼者は兄弟と連絡も取れていない状況で、手元に資金も乏しいという。こちらとしても事情を聞けば断りづらくなる。声のトーンが真剣で、心のどこかで「助けてあげたい」という気持ちが湧いてくるのが分かる。でも、それとこれとは別だと自分に言い聞かせるのも、正直しんどい。

事務所の運転資金のリアル

登記費用というのは、単に報酬だけではなく、登録免許税や交通費、印紙代などの立替金も含まれる。受け取れないとこちらが一時的に全額を負担することになる。それが1件2件ならまだしも、重なると事務所のキャッシュフローに影響が出る。とくにうちのような地方の小さな事務所では、そのダメージがじわじわと効いてくる。

感情よりも先に損益が頭をよぎる

情に流される前に、まず頭に浮かぶのは「これ、赤字になるんじゃ…」という計算だ。悲しいかな、士業であっても経営者としての視点を持たざるを得ない。心のどこかでは「人助けがしたくてこの仕事を選んだのに」と思う一方、現実はそんなに甘くない。綺麗事では事務所は回らない。

それでも「断る」とは言いづらい自分

「すみませんが、分割は対応していません」と言えたらどれだけ楽か。だけど、電話の向こうの相手が切羽詰まっていればいるほど、その言葉が口にできなくなる。結局「では、初回に◯万円、残りを来月中に…」などと自分から提案してしまっている。情に流されるというより、断れない自分が嫌になる。

お金の話が一番しんどい

正直、お金の話をするのはとても気が重い。見積もりを出す段階で「高いと思われるかな」と気を使い、請求時にも「これで揉めませんように」と祈るような気持ちで送っている。特に分割の相談があると、依頼者との関係性も一歩踏み込んだものになってしまう気がして、ますます疲弊する。

士業=お金に厳しい立場なのに

本来、法律の専門家として毅然とした態度を取るべき立場なのに、自分が一番グラついている気がする。料金表も、実費込みで明記しているのに、それでも「分割できますか?」と聞かれると、自信がなくなってしまう。厳しく言うと「ケチ」と思われる、優しくすると「なめられる」、そんな二択を毎回迫られているような気分になる。

「いいですよ」と言ってしまう弱さ

つい言ってしまう。「今回は特別に」とか「できる範囲で」と。これが一度や二度ならまだしも、繰り返すうちにそれが“当たり前”になるのが怖い。こちらの基準が曖昧だと、次に同じような相談が来たときに、さらに苦しむことになる。わかっているのに、なかなか断ち切れない。優しさって、時に自分を苦しめる。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。