誰にも褒められないまま、積み重ねた毎日
司法書士の仕事って、よく「堅実な仕事ですね」とか「安定してていいですね」なんて言われるけど、実際のところ、毎日が地味で孤独だ。登記の書類を淡々と作り、ミスがあれば自分で責任を背負う。誰かに「よく頑張ってるね」なんて言われた記憶、正直あんまりない。気づけば十年以上、一人で事務所を守ってきた。でも、その「一人」が想像以上に重たく感じる日もある。書類の山に埋もれながら、ふと、誰かに一言「頑張ってるね」と言ってもらえたらな、なんて思うのだ。
「先生って、楽でいいですよね」と言われた朝
ある朝、近所の人に言われた。「先生って、楽でいいですよね〜。机に座ってるだけでしょ？」って。笑って流したけど、内心は結構グサッときた。彼らに悪気はないんだろう。でも、朝から晩まで神経すり減らしながら仕事してるこっちからすると、その一言が虚しく響く。前の晩は深夜まで抵当権の抹消書類を確認していて、ミスがあれば信頼にもかかわるような案件だった。それでも「楽そう」と見えるんだから、なんだか報われない気持ちになる。
本当は、休日も頭の中が仕事でいっぱい
休日って言っても、正直なところ完全な休みなんてほとんどない。依頼者からのLINEが来れば対応してしまうし、気づけば事務所に戻って書類を触っていたりする。気を抜いた瞬間に何かを忘れてる気がして、不安が押し寄せてくる。旅行なんてここ数年、行った記憶すらない。事務員さんには「先生ちゃんと休んでくださいよ」なんて言われるけど、結局は「自分しかやる人いないしな」で動いてしまう。そんな自分に少しだけ嫌気がさすときもある。
登記の準備で深夜に独りごとを言ってる自分が情けない
先日、夜中の1時にひとりで「えーっと、これは乙区で…」とか呟きながら登記簿をにらんでいた。ふと我に返ると、静まり返った事務所に自分の声だけが響いていた。なんだか無性に情けなくなって、急に涙が出そうになった。誰に強制されてるわけでもないのに、ここまでやる必要があるのか。でも、やらなきゃならない。それが今の自分の仕事であり、生活のすべてなのだ。
「頑張ってる」と言われない仕事ほど、地味にしんどい
司法書士って、世間的には「ちゃんとしてる」仕事に見えるけど、その実態は「結果が出て当たり前」の世界だ。何も言われなければ合格点。でも、ちょっとしたミスがあれば一発で信用を失う。だから常に緊張感の中にいて、自分の仕事を疑いながら進めていくことになる。ミスを恐れ、褒められず、ただ正確さだけを求められる日々。それが積み重なると、心のどこかが少しずつすり減っていくような感覚になる。
終わって当たり前。間違えたら大ごと
たとえば相続登記ひとつとっても、戸籍の読み間違いや関係者の取り違えがあったら致命的だ。だから何度も確認する。確認して、また確認する。でも、完璧にやっても「ありがとう」ではなく「それで、いくらですか？」と返されることがほとんど。別に感謝されたいわけじゃない。でも、「終わって当然」で扱われると、自分の存在そのものが空気のように思えてくる。仕事としては当たり前なのかもしれない。でも、気持ちの面ではちょっとしんどい。
ありがとうより先にクレームが飛んでくる世界
「こんなに時間がかかると思わなかったんですけど」――そんな電話がかかってきた日には、胃が痛くなる。実は提出先の法務局が混んでいたり、先方の書類が揃っていなかったりするのに、それはこちらの責任にされる。謝るしかない。たとえ理不尽でも、依頼者との信頼関係が壊れるのが怖いから。そして心のどこかで、「本当はちゃんとやってるのに」と呟いてしまう。誰かに気づいてほしい。こっちは真剣にやってるんだよ、と。
電話の第一声が怒鳴り声だった日も、こっちは頑張ってた
ある日、朝イチでかかってきた電話が「なんでまだ登記完了してないんだ！」という怒鳴り声だった。事情を説明すると「そうだったんですね、すみません」と言ってくれたけど、その一瞬で1日のやる気が削がれた。心はガラスのように繊細になっていて、小さなひと言でひびが入る。でもそんな気持ちは誰にも見せられない。事務員さんの前では平気な顔をして、またPCに向かう。そんな毎日の繰り返しだ。
誰かに認めてほしいだけなのに、それすら難しい
人は誰しも、どこかで「あなたはよくやってるよ」と言ってもらいたいものだと思う。でも司法書士という立場になると、なかなかそんな言葉をかけてもらえる機会がない。むしろ、淡々と働いているのが当然とされる。だからこそ、たったひと言の「頑張ってるね」がどれほど心に響くか、自分が一番よく知っている。そんな言葉がもらえないことに慣れすぎて、自分の努力を疑い始めるときもある。
事務所の静けさに、寂しさがしみる
昼休み、事務員さんが出かけていて、ひとりで食べる弁当の時間。時計の音が妙に大きく聞こえる。静けさに包まれると、不意に寂しさが胸に迫ってくる。何年もこの部屋で働いているのに、この感覚には慣れない。独り身のせいなのか、性格のせいなのかはわからないけれど、ふと「こんなに頑張ってるのに、誰も知らないんだよな」と思ってしまう。そんな午後もある。
依頼者に感謝されても、そのあとには「料金が高いですね」
「ありがとうございました、本当に助かりました」と言ってくれる依頼者のあとに、「でも正直ちょっと高いですね」と言われたことがある。嬉しさと悔しさが入り混じって、なんとも言えない気持ちになる。こちらは適正価格でやっているし、何時間もかけて丁寧にやった仕事だ。それでも“高い”と言われると、「自分の仕事って、そんなに価値がないのかな」と思ってしまう。そんな言葉が、後を引くのだ。
事務員さんのひと言に、思わず泣きそうになったことがある
ある日、繁忙期で心がささくれだっていたとき、事務員さんがポツリと「先生、ほんとによく頑張ってますよね」と言ってくれた。その瞬間、思わず涙が出そうになった。誰にも言われなかったそのひと言が、胸にしみた。普段は気づかれないけど、ちゃんと見ててくれる人がいる。それだけで、もう少し頑張ってみようと思える。人の言葉って、こんなにも力を持ってるんだなと思った。
それでも、今日も机に向かってるあなたへ
この仕事が好きかと聞かれると、正直よくわからない。だけど、誰かの困っていることを解決できたとき、「やっててよかった」と思う自分もいる。誰にも褒められなくても、ちゃんと見てくれる人はいる。いや、いないかもしれないけど、自分だけは自分のことを認めてやらなきゃなと思う。今日もひとり事務所でパソコンに向かってるあなた。よく頑張ってますね――誰も言わないなら、僕が言います。
あなたが報われないと感じた日にも意味がある
「何のためにやってるんだろう」と思う日もある。でも、そんな日こそ大事なんじゃないかと思うようになった。報われないからこそ、そこに意味がある。意味なんて後からついてくる。そんな気持ちで、今日も業務に向かっている。人生に意味なんてないと思ってたけど、自分の頑張りに価値を見出してあげたい。そう思えるようになったのは、孤独を経験したからだと思う。
「見てる人は見てる」って言葉を、信じていい日がある
たまに来る「先生にお願いしてよかったです」のひと言が、何日分もの疲れを吹き飛ばす。見てる人は見てる。その事実だけで、救われる日がある。日々の細かい努力は、たとえ評価されなくても誰かの支えになっているのだと思う。だから、投げ出さずにここまでやってこれた。そんなふうに思える日があるから、まだ続けられる。
自分で自分に「よくやってるよ」って言ってやるしかない
結局、誰も褒めてくれないなら、自分で自分を褒めるしかない。「よく頑張ってるよ」と、声に出して言ってみる。最初は虚しかったけど、続けていくうちに少しずつ、気持ちが軽くなった。司法書士って孤独な仕事だけど、誰よりも自分の努力を知ってるのは自分自身なんだから。それだけでも、ちゃんと意味はあるはずだ。
