誰にも言えない疲れがたまる日々
地方で司法書士をやっていると、誰にも頼れない感覚に襲われることが多い。特に独立して事務所を構えてからというもの、毎日が「自分との戦い」だ。仕事は膨大で、精神的にも身体的にも消耗するのに、誰かに「しんどい」と吐き出す場すらない。事務員さんはいてくれるけど、立場上、弱音をそのままぶつけるわけにもいかない。この孤独感は、都会の忙しさとはまた違った地方特有の重さかもしれない。
孤独な現場、机と書類だけが相棒
誰とも話さずに一日が終わることもある。依頼人と会話するのは、あくまで業務的な範囲。こちらの感情を出す隙などない。結局、話し相手になるのは、積み上がった登記簿と不動産の評価証明書。書類を見て「この人、急いでるだろうな」とか、「また謄本間違えてるな」とか、独り言をつぶやいても返事はない。仕事に没頭すればするほど、世界から切り離されていく気がする。
電話の向こうにいるのはクレームか急ぎの案件ばかり
最近は電話が鳴るたびに、体がこわばるようになった。クレームか、書類の不備か、あるいは「急ぎでお願いできませんか」の依頼。自分のペースで仕事を進めるなんて夢のまた夢。感謝の言葉が返ってくることもある。でも、大抵は「なんでもっと早くできないのか」と責めるような口調。そんな声に、心がすり減っていく。
「ありがとう」と言われることの少なさ
司法書士という職業は、基本的に「当たり前のことを当たり前にやる」仕事だ。だからこそ、感謝されにくい。ミスをすれば責められるが、完璧でも「当然でしょ？」という空気。自分なりに丁寧に対応しても、報われる瞬間が少なすぎる。ときどき、本当にこれでいいのかと、自問する。
相談できる人がいないつらさ
同業者とのつながりはあっても、心の奥を話せる関係ではない。愚痴をこぼせば「まだマシだよ」と返ってきて終わり。真剣な悩みを、真剣に受け止めてくれる人は少ない。気がつけば、頭の中でぐるぐる考え込んで、夜中に目が覚める。そんな日が続くと、だんだんと心が鈍くなっていく。
事務員さんにも気を遣う毎日
ありがたいことに、うちの事務員さんは本当に頑張ってくれている。ただ、だからこそ弱音を吐けない。「こんなこともできてないのか」と思われたくなくて、無理をしてしまう。小さなミスも、自分の責任にして処理する。結果、全部を抱え込んでしまって、余裕がどんどんなくなる。
同業者とも深くは踏み込めない距離感
司法書士同士のつながりはある。でも、それはあくまで「情報交換レベル」。悩みを共有したり、互いに支え合ったりという関係にはなりにくい。ライバル意識もあるし、「弱さを見せてはいけない」という空気も強い。そんな中で、心を開ける仲間ができれば…と思うけれど、それもなかなか難しい。
その一言が心を救ってくれた
そんなある日、ひとつの言葉がふっと心に染みたことがある。「先生のおかげです」。それは、相続の手続きが終わったとき、依頼人のご高齢の女性がぽつりと口にした言葉だった。たった一言。でも、それだけで報われた気がした。あの瞬間だけは、本当に司法書士をやっていてよかったと思えた。
「先生のおかげです」――その言葉に泣きそうになった夜
相続関係は特に気を遣う。親族の感情も入り混じるし、手続きは煩雑で、思った以上に時間がかかる。あのときも、資料が足りずに何度もやり直しを重ねた。ようやく手続きが終わって、帰り際に言われた「本当に、助かりました」の一言。嬉しくて泣きそうだったけど、我慢してうなずいた。それだけでまた、次の日も頑張ろうと思えた。
書類の山に埋もれながらも、ふと届いた感謝の声
たまに、メールで「無事に売却できました、ありがとうございました」と一言だけ届くことがある。書類仕事に追われて疲弊していたとき、スマホに表示されたその文面を見て、思わず手を止めた。そんな些細なことが、自分の心の支えになるのだから不思議だ。
自分の存在が誰かの役に立てた実感
普段は、ただの書類処理屋だと自嘲することもある。でも、誰かにとっては「先生に頼んでよかった」と思ってもらえているなら、それだけで価値があるのかもしれない。実感できる場面は少ないけれど、確かに自分の仕事には意味があると信じたい。
言葉で支え合うという希望
結局、人は言葉で救われることがある。そして、自分もまた、誰かを言葉で救える存在でありたい。司法書士という職業は、ただの手続き屋ではない。悩みを抱える人の「不安」を「安心」に変えることができる。そう信じて、今日もまた、机に向かっている。
独りで抱え込まず、少しずつ吐き出す
強がってばかりでは続かない。完璧であろうとするあまり、自分をすり減らしてしまうこともある。でも、弱音を吐ける相手が一人でもいるだけで、救われる。言葉にすることで、自分の中の重荷が少し軽くなる。独りで戦っているように見えて、実は誰かの言葉がそばにあるときもある。
弱音を受け止めてくれる誰かの存在
たまに事務員さんが「先生、ちゃんとご飯食べてますか？」と声をかけてくれる。そんな他愛のない言葉に、じんわりと温かさを感じる。誰かが自分を気にかけてくれている、それだけで前を向ける。だから、感謝の気持ちは伝えていこうと思う。
司法書士という仕事が続けられている理由
やめようと思ったこともある。でも続けてこれたのは、小さな一言が自分を救ってくれたからだ。何気ない感謝や労いの言葉。その一言がなければ、とっくに折れていたかもしれない。司法書士という仕事は、孤独で報われにくい。でも、だからこそ、言葉の温かさが沁みる。
励ましの一言が背中を押してくれたから
「先生がいてくれて助かりました」。たったそれだけ。でも、ずっと胸の奥に残っている。その一言を思い出すたびに、またもう一日、踏ん張れる。だから自分も、誰かにそんな言葉を届けられるようになりたいと思う。そういう循環が、もっとあってもいいと思う。
