朝届いた一通の内容証明
朝のコーヒーに口をつけた途端、ピンポンとチャイムが鳴った。玄関先に立っていたのは郵便局の配達員で、手には内容証明郵便が握られていた。差出人の名前を見たとき、俺はコーヒーを吹きそうになった。
差出人は知らない名義の依頼人
差出人は「神谷誠司」と記されていた。依頼者名に見覚えはないが、内容は「不動産贈与契約に関する登記依頼」だった。資料一式が封筒に同封されており、なぜか既に押印された契約書の写しまでついていた。
贈与契約書に記された奇妙な一文
契約書を読み進めていくと、最後の方に小さな文字で「被贈与者は、贈与者の残債務をすべて負担することとする」と記されていた。まるでサザエさんの家計簿に、密かに波平の飲み代が上乗せされていたかのような姑息さだ。
始まりは一つの登記相談
「先生、この登記、ちょっと早めにお願いできます?」とやって来たのは若い女性だった。彼女の目は笑っていたが、その奥に焦りの色が見え隠れしていた。提出された戸籍謄本の束には、何やら違和感があった。
なぜか急かす相続人
「父が元気なうちに」と彼女は言った。しかし贈与契約書の作成年月日から逆算すると、その父親はすでに死亡しているはずだった。いやな予感がした俺は、そっとサトウさんに目配せを送った。
過去の登記情報に残る違和感
オンラインで登記簿を調べると、該当の土地には以前に仮登記が入っていた痕跡があった。現在は抹消されているが、その履歴を見る限り、何か意図的な操作が行われた可能性があった。
サトウさんの冷静な一言
「これ、名義だけ移して、債務を押しつけようとしてるパターンですね」とサトウさんは淡々と言った。俺はその分析力に舌を巻いたが、同時に気が重くなった。「やれやれ、、、また面倒な案件だな」
負担付き贈与の意味を読み解く
負担付き贈与とは、贈与される側が何かしらの義務を背負う契約である。しかしその義務が「贈与者の借金」であった場合、場合によっては詐欺に近い行為になる。依頼人がそれを認識していたなら、悪質だ。
税務署の記録と矛盾する日付
念のために税務署に確認を取ると、贈与税申告書が提出された日付が契約書と異なっていた。つまり、何かを隠すために書類の作成日をずらした可能性が出てきたのだ。これはただの登記手続きではない。
やれやれ、、、証拠は紙の中にある
俺は資料一式を広げて、契約書、印鑑証明、固定資産税評価証明書を並べた。紙の山の中に、真実は必ずある。まるでルパン三世が金庫の中から秘密の設計図を盗み出すように、俺は慎重に紙をめくっていく。
昭和の時効と令和の不一致
一枚の古びた売買契約書が目に留まった。昭和時代に作成されたと思われるその文書は、なぜか今回の贈与に関連しているらしかった。だが、その効力はすでに時効で失われているはずだった。なのに、なぜ。
誰が何のために仕組んだのか
俺は再度、登記簿を見直した。そして気づいた。贈与者の名前が、過去に一度「詐欺罪」で起訴猶予処分を受けていた人物と一致していたのだ。偶然にしてはできすぎている。まるでコナン君の事件のように。
偽造された押印と真正な署名
印鑑証明と実印の印影を見比べると、押印は明らかに不自然だった。ところが署名は本人のものと確認できた。「誰かに無理矢理書かされた可能性もありますね」とサトウさん。これは民事を超えた問題かもしれない。
意図的に隠された贈与者の本心
俺は、贈与者が残したメモを偶然見つけた。そこには「息子にだけは、絶対に渡したくない」と記されていた。つまり、これは復讐の一環だったのだ。贈与に見せかけた、負債という名の罠だった。
暴かれる真実と意外な動機
登記の直前で俺は手続きを保留した。そして関係者に全員集まってもらい、事実を提示した。「この登記、無効になる可能性が高いですよ」と告げると、被贈与者は蒼白になった。
全ては負債の押し付けだった
贈与者は、かつて息子に金を貸し続けていたが、裏切られ、借金だけが残った。その報復として、名義だけを渡し、借金ごと押しつけようとしたのだ。計画は、ギリギリで俺たちによって止められた。
贈与の裏に潜んでいた家族の崩壊
家族とはなんだろう。贈与とは、信頼の証ではなかったのか。俺はため息をつきながら、また書類の山に戻っていく。感傷に浸る暇なんて、俺にはない。
シンドウが取った最後の一手
俺は贈与登記申請を拒否する旨を公正証書で作成し、依頼者に送付した。訴訟沙汰になるかもしれないが、それでも不正な登記を防ぐのが司法書士の責務だと、俺は思っている。
登記を止めた司法書士の判断
結果として、贈与は中止された。だがそれ以上に、当事者たちは自らの行いを省みる時間を得たようだった。俺たちが手を出せるのはそこまでだ。それが、法務の限界だ。
法務局と連携した逆転の一手
サトウさんがさりげなく送っていた一通のFAXが効いたらしい。法務局が登記に疑義を示し、調査を開始したのだ。まるでキャッツアイが残していった予告状のように、スマートな一手だった。
事件の後日談
「サトウさん、今日も助かったよ」と言うと、「当然です」とだけ返ってきた。クールすぎて笑ってしまう。「やれやれ、、、俺ももっとしっかりしないとな」
塩対応のサトウさんの一言が刺さる
「司法書士が感情で動いたら終わりですよ」とサトウさんは言った。正論すぎてぐうの音も出ない。俺は、書類の山に埋もれながら反省するのだった。
誰も得をしない贈与だったかもしれない
善意の仮面を被った贈与の罠。だが、それに気づけたことが唯一の救いだった。次の依頼もまた、波乱の予感がする。さて、次の登記はどんな地雷が埋まってることやら。