息子に任せてあるが止めた相続登記の時間

息子に任せてあるが止めた相続登記の時間

何も進まないままの相続登記

相続登記の相談を受けていて、よく聞く言葉が「息子に任せてあるんです」というひと言です。悪気もなく、ごく自然にそう話される方が多い。でも、この言葉を境に手続きが止まるケース、実はものすごく多いんです。任された側のご家族が実際には動いていないこともあれば、忙しさや関心のなさで放置されていることもある。こちらとしては何度も連絡し、確認し、書類を送るのですが、音沙汰がない。そうなると、気づけば半年、一年、下手すれば数年も経ってしまうのです。

依頼人の一言で全てが止まる

「息子に任せてあるんで、後はお願いします」と笑顔で言われると、こちらも「わかりました」とは言うものの、心の中ではちょっと身構えます。その息子さんが本当に行動する人ならいいのですが、連絡がつかない、書類を出してくれない、説明しても返事がない、ということも少なくありません。実際、「息子さんにお電話したのですが…」と伝えると、「あら、まだやってないの?」とご本人が驚くケースもあります。任せたはずのバトンが空中で止まっている。これは想像以上に厄介です。

息子さんは忙しい 本人も忙しい

誰も悪くないのに、手続きが止まってしまう。息子さんはお仕事で多忙だったり、育児中だったり、あるいはそもそも相続に関心がなかったりします。一方、ご本人は「任せたから」と安心しきっている。間に立つ私たち司法書士は、その両方と連絡を取り合わなければなりません。「確認します」と言って1ヶ月返事がないときの虚無感といったら…。こちらも他の案件を抱えている中で、どこまで追いかけるべきか悩みます。

話が進まないことでの弊害

登記が終わらないと、他のことも何も始まらない。名義が変わらないままでは、不動産を売却することも、リフォームすることも、ましてや担保に入れることもできません。時間だけが過ぎ、建物は老朽化し、誰も住まない空き家になることもある。何より、手続きの遅延が家族間の感情を悪化させる場合もあるのです。「お兄ちゃんがやるって言ったのに」「妹が放置してる」といった不満が積もっていく。それを私は、ただ聞くしかないのです。

結局こちらに戻ってくる相談

長い沈黙の末に、ようやくまたご相談いただくことがあります。内容は変わらず、「あれ、どうなってますか?」。正直に言えば、私の方でも記憶を掘り起こす作業から始めることもあります。ファイルを開いて、どこまで進んでいたかを一から確認し、また同じ説明をする。この繰り返しは、体力も精神力も削られます。でも、相手の家族には時間の流れが感じられないのです。前回の話が昨日のことのように語られるたびに、ため息が漏れます。

「どうなってますか」から始まるややこしさ

「息子に任せたんですけど、まだ終わってないみたいで…」と再び連絡が来たとき、私は何度も言葉を飲み込みます。思い切って「ご本人からご連絡いただかないと進みません」とお伝えしても、気まずそうに黙られてしまう。責任の所在があいまいなままでは、こちらも判断が難しい。それでも、また始めるしかないんです。同じ書類を用意し、同じ説明をして、同じ反応を待つ。この「ややこしさ」が、この仕事のしんどいところだと感じます。

家族間の関係に立ち入る苦しさ

誰が手続きを進めるのかというだけの話に見えて、実際には家族の力関係や感情が渦巻いていることもあります。「あの子に言っても聞かないのよ」「私の言うことは昔から無視で」と、愚痴がこぼれ始めると、もう司法書士の仕事ではない気がしてきます。でも、そこで投げ出すわけにもいかない。この立ち位置、本当にしんどいです。依頼人の人生に少しだけ深く入り込みすぎることもあるのが、我々の職業です。

司法書士の立場としての葛藤

手続きを依頼されているのに、動かすことができない状況。司法書士としての無力さを感じる瞬間です。裁判所でもなく、強制力があるわけでもない。相手の気持ちや都合をくみとりながら、どうにか前に進めていく。そんな中で、「やる気がないなら断ればいい」と言う人もいますが、断っても問題が解決するわけではありません。ただ、また同じような相談が回ってくるだけなんです。

頼まれても動けないジレンマ

「お願いします」と言われたからには、何とか結果を出したい。でも、当事者が動かないと何もできない。このジレンマに挟まれる日々は、正直かなりしんどい。以前、3兄弟がそれぞれ「自分は関与しない」と主張した案件がありました。結局、父親の名義のままで放置され、空き家になり、草が生い茂り、近所からのクレームにまで発展しました。それでも登記は動かない。まさにジレンマの極地です。

責任はあるのに決定権がない

登記の専門家として名前を出している以上、何か問題があればこちらに連絡が来ます。でも、動かす力は依頼人や家族にしかない。この「責任はあるのに決定権がない」状況に、何度悩まされてきたか。かといって強く言い過ぎると関係が壊れるし、やさしくしすぎると進まない。そのバランスを取るのもまた、神経をすり減らす仕事です。

説明しても伝わらないもどかしさ

相続登記の必要性や法改正について説明しても、「よくわからない」「今はいいや」とスルーされることも多いです。特に高齢の方にとっては、登記という言葉自体が遠い存在のように感じるらしく、話しても通じない感覚に陥ります。説明が空回りしている感覚、たまにこちらが心折れそうになります。

相続登記の義務化もまだ届かない

令和6年から相続登記が義務化されましたが、現場の感覚ではまだ「知られていない」が現実です。「そんな決まりがあるんですね」と驚かれるたびに、法務省の周知不足を恨みたくなります。啓発も司法書士に丸投げされているような気がして、モヤモヤが止まりません。それでも、「義務ですよ」とはっきり伝えることが、今の私たちにできる数少ない“推進力”なのかもしれません。

独身司法書士が感じる孤独と疲れ

地方の司法書士として働く私にとって、仕事が忙しいのはもう日常です。ありがたいことなのかもしれませんが、終わらない案件に囲まれていると、ふと「何やってんだろ」と思う瞬間があります。夜遅くに事務所の電気を消して帰るとき、街はもう真っ暗で、誰にも会わない。恋人もいなければ、家庭もない。せめて愚痴を聞いてくれる人がいればと思うこともあります。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。