相手に気を遣わせてしまう

相手に気を遣わせてしまう

相手に気を遣わせてしまう日常

司法書士という職業柄、人と話す機会は多い。しかしそれと同じくらい、「余計な気を遣わせてしまっていないか」という不安がついて回る。こちらは丁寧に対応しているつもりでも、相手が恐縮していたり、「お忙しいのにすみません」と何度も言われると、かえって申し訳ない気持ちになる。気を遣わせたくないと思えば思うほど、言葉が過剰になってしまい、結果的に相手に気を遣わせてしまう——そんな悪循環に気づいたのは、ある依頼者の表情を見たときだった。

無意識に発してしまう一言が生む距離感

「お気遣いなく」と言いながら、自分の態度がすでに気遣わせるものだったとしたら。それに気づく瞬間ほど、恥ずかしくなることはない。昔、依頼者が帰り際に「気を遣ってばかりで疲れませんか?」と聞いてきたことがある。その時は「そんなことないですよ」と笑って答えたけれど、内心はドキッとした。気を遣う側ではなく、気を遣わせている側に自分がいたなんて。無意識のうちに、誰かに負担をかけている自分に気づいた瞬間だった。

丁寧すぎる敬語が逆に壁を作る

例えば「恐れ入りますが」や「お手数ですが」といった丁寧語は、司法書士としての基本でもある。ただ、それが相手にとっては「近づきにくい人」になってしまうことがある。元野球部だった自分は、本来はもっとフランクな会話が得意だったはずなのに、いつの間にか壁を作る言葉ばかり使っていた。丁寧さと親しみのバランスが崩れると、相手は遠慮し、こちらも距離を詰められない。気遣いがすれ違いを生んでしまうのだ。

相手の顔色を見すぎて本音が言えない

事務所で事務員と話しているときもそう。ちょっと注意したいことがあっても、「今言ったら嫌がるかな」と考えてしまい、結局は何も言えずに溜め込む。そして後で自分がストレスを感じる。これも気を遣いすぎた結果だ。本音で向き合わないことは、結局、信頼関係を損なうことにもなる。気を遣うのではなく、誠実に伝えること。それが本当の意味での“優しさ”なのかもしれない。

電話対応ひとつにも気を遣いすぎる日々

「お世話になっております」という声色にさえ、気を張ってしまう。電話の向こうにいる相手が少しでも不機嫌そうだと、必要以上に低姿勢になってしまい、用件よりも“空気”を読むことに神経を使う。おかげで本題が後回しになることも多い。効率が悪いとわかっていても、気持ちのどこかで「怒らせてはいけない」という思いが先に立ってしまうのだ。

クレームを恐れて先回りしすぎる癖

過去に一度、ちょっとした行き違いで大きなクレームになったことがある。それ以来、どんな小さな案件でも、先に言い訳めいた説明を加える癖がついた。「万が一〜の場合には…」と前置きするたびに、相手はむしろ不安になるかもしれない。でもこちらとしては、事前に全部説明しておけば、気を遣わせずに済むと思っていた。実はそれが逆効果だったなんて、皮肉な話だ。

相手の機嫌を気にして疲弊する自分

「ちょっと声のトーンが低かった」「返事がそっけなかった」——そんな些細なことで一日中モヤモヤしてしまう。相手がどう思っているかを気にしすぎて、自分のペースを乱される。それでも気を遣わずにいられないのは、自分が嫌われることを極端に怖がっているからかもしれない。独身で人付き合いも多くないぶん、余計に人との関係に敏感になってしまっているのだと思う。

事務員との距離感に悩むとき

小さな事務所で事務員と2人きり。距離が近いからこそ、気を遣わせたくない気持ちは強くなる。でも、その気持ちが空回りすると、逆に気まずさを生んでしまうこともある。自分では「思いやっているつもり」でも、それが「遠慮させる態度」になっていたら本末転倒だ。

気を遣わせたくないけど、気を遣わせてしまう

例えば、残業になりそうなとき。「帰っていいよ」と声をかける。でもその声が妙にかしこまっていたり、申し訳なさそうだったりすると、かえって相手は気を遣って残ってしまう。「じゃあ、帰りますね」と言われた時、どこか自分が“冷たい人”に見られた気がしてしまう。これが気を遣わせてしまう典型だろう。

些細な頼みごとすら躊躇してしまう理由

事務作業で少しヘルプがほしいとき、気軽に頼めればいい。でも「今忙しいかな」「疲れてるかな」と考えてしまい、声をかけるのを躊躇する。その結果、自分でやって疲弊するという、完全に無駄な展開になる。相手のことを思いやっての行動なのに、誰も得をしていない。相手にとっても、頼られないのは寂しいかもしれないのに。

上司と部下という関係の難しさ

年齢も経験も上の自分が「気を遣っている」と思われると、部下の立場としてもやりづらいのだろう。でも自分としては、できるだけフラットに接したいという思いがある。だからこそ、言葉を選びすぎてしまう。言いたいことを飲み込み、機会を逃し、また同じことが起きる——そんな悪循環を何度も繰り返してきた。気を遣わずにいられる関係性は、理想であり、永遠の課題かもしれない。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。