このままでいいのかとつぶやいた朝

このままでいいのかとつぶやいた朝

朝の空気に混じる不安の吐息

窓から差し込む朝の光を見つめながら、ふと「このままでいいのか」と口にしてしまった。誰に問いかけたわけでもない。誰もいない部屋の中、自分の声がやけに響いた。司法書士として独立してから十数年。仕事はある。事務員もひとりいて、日々の業務は回っている。けれど、どこかでずっと、何かを見失っているような感覚がつきまとっていた。その違和感が、今朝は言葉になって出てきたのだ。

目覚めの一言が「このままでいいのか」だった

いつも通りアラームを止め、布団の中でしばらくぼんやりしていた。身体が重い。けれど眠いわけじゃない。心が重いのだ。こんな感覚、いつからだろう。テレビでは元気なタレントたちが笑っているが、その明るさがやけに遠く感じる。思わず「このままでいいのか」と呟いた。答えなんてないとわかっていても、言わずにはいられなかった。まるで、心がひとつの問いにたどり着いたかのように。

何もない部屋と沈黙が答えをくれた

答えをくれる人はいない。だから、沈黙に耳を澄ますしかなかった。テレビの音も消して、コーヒーを淹れて、そのままキッチンの椅子に座り込む。何もない部屋。誰の気配もない空間。気づけばこの部屋にも、人生にも、「他人の物音」がほとんどない。以前付き合っていた女性に「あなたの生活、音がないね」と言われたことを思い出した。そうだなと今更ながら納得する。静けさの中で、今日も同じ日が始まる。

もう一人の自分が鏡の中で問いかけてくる

顔を洗おうと洗面台に立ったとき、鏡に映る自分と目が合った。ぼさぼさの髪、無精髭、むくんだ顔。いつの間にか45歳。若さという言い訳もできなくなった。もう一人の自分が「このままでいいの?」と問いかけてくるように見えた。何が足りないんだろう。仕事はしている、生活も破綻していない、でもどこか「自分らしさ」みたいなものを見失っている。鏡の中の自分が、そのことに気づいているような気がしてならなかった。

仕事はある でも心は満たされない

午前9時、事務所のドアを開けて、机に座る。今日も登記のチェック、電話対応、書類の確認…。日々のルーティンは体に染み付いているから、手を動かすこと自体は苦にならない。だけど、ふと手を止めた瞬間、心の空洞を感じる。司法書士という仕事は、人生の大事な場面に関わる仕事のはずなのに、今の自分には“流れ作業”の一部にしか思えないときがある。これって、自分の望んでいた姿だったのだろうか。

登記完了の連絡をしても心が動かない

「登記完了しましたのでご確認ください」——お客様にそう電話をかける。事務的なやりとりで終わることがほとんどだ。それでも昔は、「ありがとう」と言われるだけでやりがいを感じたものだ。それが、今はもう何も感じない。たまに感謝の言葉をもらっても、「はい、どうも」としか返せない自分がいる。人間って、慣れてしまうと、ありがたさにも鈍くなるんだなと実感する。

「ありがとうございます」だけじゃ足りない気がした

依頼人に「助かりました、本当にありがとうございます」と深く頭を下げられた日があった。本来ならうれしいはずなのに、その日はなぜか「それだけ?」と思ってしまった。見返りを求めるつもりなんてなかったはず。でも、心の奥で何かが足りないと叫んでいる。この仕事で、自分は本当に満たされているのか——そんな問いが、また一つ増えた瞬間だった。

数字に追われる日々が人生のすべてじゃないはず

月末が近づくと、売上や請求書、経費の確認で事務所内がピリつく。小規模な事務所だからこそ、一つの数字が死活問題になりかねない。でも、本当にそれが“生きる”ってことなのだろうか。数字に振り回されながら、いつの間にか“感じる力”を失っている自分に気づいてしまった。数字で評価される仕事だからこそ、数字に支配されてはいけないと、心のどこかで思いながらも、現実は容赦ない。

月末の売上表とため息の関係

パソコンに打ち込んだ数字をにらみながら、何度もため息をついた。事務員にも気づかれないようにごまかしたつもりでも、空気は正直だ。ため息は感染する。かつては、売上が伸びると純粋にうれしかった。でも今は、伸びても「次はどうする?」、下がれば「どうしよう?」という不安ばかりが膨らむ。数字は結果であって人生ではない。けれど、この仕事では、数字がすべてを支配しているように思えてならない。

司法書士業界の現実と向き合う苦さ

同業の知人たちとも時々話すが、皆どこか疲れている。「最近、相続ばかりでしんどい」「報酬下がってきたよね」なんて言葉を交わしながら、愚痴と共に生き延びている。新しいことを始める余裕も、情熱もない。でも、このままでいいのか?そう聞いても、誰も答えを持っていない。そういう業界で生きているんだと思うと、苦さが喉元に残る。

元野球部の自分がこんなに孤独だとは

高校時代、野球部で泥だらけになっていた頃は、仲間と笑っていた。どんなにきつい練習も、横に仲間がいれば乗り越えられた。今、机の前でひとり書類と向き合っている自分は、あの頃の自分から見たらどう映るのだろう。勝利を目指して走っていたあの頃の自分は、今の自分を応援してくれるだろうか。ふと、昔のグローブを押し入れから取り出してみたくなった。

声をかける人も、応援してくれる人もいない

仕事が終わって帰宅しても、誰もいない部屋が出迎えてくれる。テレビをつけっぱなしにして、無音を紛らわせる日々。恋愛もうまくいかない。そもそも出会いもない。自分のことを応援してくれる存在がほしいと思うときがある。でも、そんな贅沢を考えている場合じゃないと、自分に言い聞かせる。そのくせ、心の奥では「誰か気づいてくれ」と叫んでいる。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓