そんなにかからないと思ってたんですが結局一日潰れました

そんなにかからないと思ってたんですが結局一日潰れました

朝イチの電話がすべてを狂わせる

その日は朝から、珍しく予定に余裕があると思っていた。ちょっとした登記の確認だけで、午後にはたまっていた書類仕事に集中できる…はずだった。ところが事務所の電話が鳴った瞬間、その予定は音を立てて崩れた。「先生、今ちょっとだけ見てもらえませんか?」という言葉。ああ、そういう「ちょっと」は、たいていちょっとじゃ済まない。

「ちょっとだけ見てほしい」から始まる罠

電話の主は、以前にも何度か依頼をくれた地元の方。頼まれると断れないのが田舎の司法書士の性分で、今回もつい「いいですよ」と返してしまった。「近くですし、すぐ終わりますよ」なんて甘い言葉を信じた私がバカだった。心のどこかで「まぁ一時間もあれば」と高を括っていたのだ。

簡単な相談のはずが現地確認へ

話を聞いてみると、どうやら現地の土地の境界についても見てほしいらしい。机上で済むと思っていたのに、現場確認まで発展してしまった。しかも当人が「一緒に見てくれれば話が早い」と言うので、渋々ながら車に乗り込んだ。スーツのまま汗をかく未来が、この時すでに決まっていた。

スーツに着替えてダッシュで向かった午前十時

私は事務員に「ちょっと行ってくる」と告げ、スーツに着替えて現地へ急いだ。午前十時。気温はすでに30度を超えていて、車のハンドルが熱い。元野球部とはいえ、年齢と共に体力は落ちている。朝食もろくにとらず出たせいか、早くも疲労感が押し寄せてきた。

移動時間が想像以上にかかる田舎の現実

「近いですよ」という言葉を信じた私が愚かだった。田舎の「近い」は、都市部のそれとは次元が違う。一本道でも20分、下手をすれば30分。加えて、途中で道を間違えたことに気づく。思い出すたび腹が立つが、地元民の案内ほど当てにならないものはない。

カーナビが案内した道がまさかの通行止め

案の定、カーナビ通りに進んだら「通行止め」。最近の大雨で土砂が崩れて通れなくなっていた。戻るにも時間がかかり、回り道をしながら「これ本当にすぐ終わるのか?」と不安ばかりが募っていく。エアコンの効きも悪く、ストレスがじわじわ溜まっていった。

「近いと思ってた」自分に呆れる

ようやく現地に着いた頃には、予定より40分オーバー。相談者に「道混んでました?」と笑われて、正直ムッとした。「いや、通行止めでした」とだけ答えたけど、心の中では「近い言うたやろ!」と叫んでいた。司法書士も人間、イライラする日はある。

ガソリン代も時間も地味に痛い

この移動で使ったガソリンと時間、それに加えて精神的な消耗。依頼内容が軽ければ軽いほど、この「ロス」が重く感じる。書面仕事と違って、見えないコストは誰にも伝わらない。こんな日は、時間と体力とガソリン代を全部誰かに返してほしいとすら思う。

その場で済まない現地対応

いざ現地に着いても、境界杭が見つからないだの、土地の持ち主が隣人と揉めてるだのと、どんどん話が拗れていく。「もう今日は見て終わりで」と言いかけたけど、何となくその場の空気がそれを許さなかった。結局、説明資料を手書きで作る羽目になる。

「あとは書類だけですよね?」の意味不明さ

よく言われる「書類だけ作ってもらえばいいんで」というセリフ。だがその「書類」を作るには、確認と裏付けと状況把握と、山のような工程がある。パソコンに向かって数分で出てくると思ってる人も多いが、そんな簡単な仕事なら誰も司法書士なんて名乗らない。

契約書の準備も説明も全てその場で

仕方なく、車に積んである資料を元に、簡易的な書面を作りながら相談者に説明。「これで後日、正式な書類を送ります」と伝えたが、相談者はもう「今日で終わった」と思っている節があった。頭の中では「このままだとミスになるな…」という警報が鳴っていた。

スマホ一つじゃ無理がある

この業界、デジタル化とは無縁。スマホでなんでもできる時代に、現地対応は未だにアナログ全開。写真、メモ、録音、地図確認、全部スマホでやろうとしても限界がある。書面はやはり紙で、という依頼者も多くて、本当に「時代に追いつかない職業」だと痛感する。

昼食を取るタイミングを失う午後

戻る頃には午後1時過ぎ。お腹はすいているが、次の予定が詰まっていてコンビニに寄る余裕もない。朝コンビニで買ったパンが助手席でぺしゃんこになっているのを見て、ため息。車内で食べながら信号待ち。これが地方司法書士の「優雅な昼食」だ。

予定表が崩壊していく午後三時

ようやく事務所に戻ったものの、今日やるはずだった仕事はまったく手つかず。事務員からは「さっき来られた方、もう帰られましたよ」と伝えられる。ああ…あの人、今日こそ話を進めたかったのに。申し訳なさと自分の段取りの甘さに、さらに疲れる。

戻ってきた事務所でさらに待っていたもの

FAXの山、郵便の山、そして自分への伝言メモが3枚。時計を見るともう夕方4時半。こんなに疲れてるのに、まだ仕事は山積み。司法書士って、座って書類見るだけの仕事じゃないのか?なんて思ってた新人時代が懐かしい。

「そんなにかからないと思ってた」は毎度の嘘

何度経験しても、「すぐ終わると思ってた」は通用しない。むしろそういう日に限って、トラブルは待ち構えている。人の善意で仕事が膨らみ、段取りが崩れ、体力が削られる。理不尽でも、断れないのが現場のリアル。

それでも明日もまた電話は鳴る

きっと明日も「ちょっと見てもらえますか?」から始まる何かがある。心のどこかでは「今日みたいにはならないはず」と願いながら、それでも私はまた電話を取る。たぶんそれが、この仕事を続けてる理由のひとつなのかもしれない。

誰かに聞いてほしいこの疲労感

今日あった出来事を誰かに話す場所があるだけで、気持ちは少し楽になる。同業の方、目指している方、あるいはまったく違う仕事をしている方でも、きっと「あるある」と思える日があるはず。少しでもそんな共感につながれば、今日の一日も無駄じゃなかったと思える。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。