独り老後が見えてきたとき心に浮かんだこと

独り老後が見えてきたとき心に浮かんだこと

独り老後が見えてきたとき心に浮かんだこと

地方都市の司法書士事務所。その片隅で、シンドウは山のような書類と睨み合っていた。
年季の入った応接テーブルには、よれた戸籍謄本と分厚い相続関係説明図。時間は午後6時を回ったところ。

「先生、夕方の相談者、15分遅れるそうです」
サトウさんの声が、事務所に静かに響く。
「いつも通りだな…」と呟いたシンドウは、机の上の冷めた緑茶に視線を落とした。

老後という言葉に現実味が出てきた日

年金の話が他人事じゃなくなってきた

それは、郵便ポストに年金定期便が届いたあの日からだ。
金額を見て、思わず「うーん」と野球部時代のようにうなった。

通帳を見るとため息しか出ない

通帳残高と照らし合わせて、将棋で言えば“詰み”に近い形。
それでも打ち手は残っているのか?

友人の結婚報告がただただ眩しい

高校時代の野球仲間から「娘が中学に入った」とLINEが届く。
返信の言葉が見つからず、既読のまま、携帯を裏返した。

独りの時間に慣れたと思っていたけれど

夜の静けさがやけに刺さる

夜の音のない時間が、やけに長く感じるようになった。
TVを点けても、バラエティ番組の笑い声がどこか遠い。

テレビの音だけが妙に大きく感じる夜

「まるでサザエさんの家と、うちとでは次元が違うな…」
カツオのバカ騒ぎが、妙に羨ましかった。

湯船の中で考える独身四十五年の総決算

「結局、風呂でも独り、食卓でも独り、寝ても独り。実況中継する探偵役でもいれば楽しいのに…」
思わずそんなふうに空想する。まるで名探偵コナンのような自分解説モード。

司法書士としてできることはあるのか

老後と向き合う依頼者に教えられること

この仕事をしていると、他人の人生の“終章”に立ち会うことが多い。
ある日、独り暮らしの女性が静かに遺言書の作成を依頼してきた。

遺言と孤独死の現場が突きつけるもの

「誰かに迷惑をかけたくない」と彼女は言った。
でも本当は、「誰かに気づいてほしい」が本音ではなかったか。

財産よりも人とのつながり

相続するものがなくても、想いは残せる。
自分には、それを手伝う力がある——と自分に言い聞かせてみる。

自分の老後をどう設計するか

遺言を書く依頼者を見ながら、ふと自分の“未来の依頼者”像を思い浮かべた。

仕事だけでは埋まらない部分

「司法書士という肩書きは、老後の夜には何の暖も持たないかもしれないな」
心の中でぽつりと呟いた。

誰かのためになるという幻想

他人の人生を整理してきたつもりが、自分の人生は整理できていない。

やれやれと笑える日は来るのか

サザエさんのような家庭は描けなかった

ナミヘイのように小言を言える相手もいない。
ノリスケに呼ばれてビールを飲みに行くこともない。

それでも、人生はつづく。
今夜も明日の登記の準備をしながら、ひとりきりの事務所で静かに言う。

「やれやれ、、、何が正解だったんだろうな」

それでも生きていく司法書士の現実

窓の外には夕焼けがにじむ。
帰る家はここ。頼られる声があれば、まだ生きていける。

——終わり——

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓