番地を跨ぐ嘘の跡

番地を跨ぐ嘘の跡

朝の書類ミスと届かない封書

引っ越し後も続く登記の手違い

いつものように役所からの郵便物が一通、事務所に転送されてきた。差出人は市役所、市民課。宛名の住所は古いままだったが、名前は間違いなく依頼人のものだった。転居届が受理されていない可能性がある。うっかりしていたのか、何か理由があるのか。

サトウさんの冷たい推察

「これはわざとでしょうね。うっかりじゃないです」 パソコンを打つ手も止めず、サトウさんが冷静に言い放った。さすがに刺さる。俺が一瞬でも「また市役所の手違いか」と思ってしまったのを見透かされたようだった。

旧住所から届いた不審な通知

差出人不明の委任状

封筒を開けると、中には委任状が入っていた。ただし、署名がなく、宛名も不明瞭で、なぜか古い住所に送られてきていた。書式は旧様式。文体も手慣れておらず、素人の書いたものだとすぐわかる。

地番が示すのは消えた住人

通知に記された地番は、登記上すでに別人のものになっている土地だった。しかし、旧登記の記録を掘り起こすと、そこには依頼人の名前が確かに存在した。だが今は、どこにもいない。

依頼人の嘘と沈黙

死亡届と生きている証明

奇妙なことに、依頼人はすでに「死亡」したことになっていた。戸籍の附票を追っていくと、2年前に死亡届が出されていたのだ。だが、つい先日まで事務所に相談に来ていた男が、その依頼人だった。

サザエさんの家なら表札で解決してた

「カツオが新聞配達のバイトしてたら一発でバレてますよ、これ」 サトウさんが鼻で笑った。表札の名前を変えずに住み続けるなんて、昭和のアニメの世界でもそうそうない。「やれやれ、、、」まったく、現実はマンガより奇なりだ。

法務局からの違和感

移転登記の妙な日付

登記簿を確認すると、所有権移転の登記日が異常に早いことがわかった。通常の手続きならば二週間はかかるはずが、なぜかたった三日で処理されていた。しかも同じ日に別件の移転も。

同姓同名という罠

さらに調査を進めると、同姓同名の人物が近隣に存在していたことが判明。どうやら、その人物を利用して、登記をごまかすスキームが組まれていたらしい。確信犯だ。

現地調査で見えたもの

表札の名前は誰のものか

現地に赴いて確認した表札には、依頼人の旧姓がそのまま残されていた。新しい住人は、そのままを利用していたのだ。まるで「なりすまし」が最初から仕組まれていたかのようだった。

やれやれ、、、スリッパが鍵かよ

玄関先に無造作に置かれた古びたスリッパ。なぜかその一足だけが異常に目立っていた。隣家の奥さん曰く、「あれは前の住人のもので、ずっと動いてない」らしい。時間が止まっているようだった。

サトウさんの追撃と元野球部の本能

ヒットエンドラン的な推理の応酬

「この書式、同じプリンタで印刷してますね」 サトウさんがスキャンした委任状を解析し、別件の偽装と繋がっていることを突き止めた。俺はその糸口を頼りに、旧登記と新登記を往復するように読み解いていった。まるで走塁のように。

うっかりから導かれる核心

住所の誤記か計画的偽装か

最初はただのミスかと思われた住所のズレ。それが一貫して意図的であると気づいたとき、すべてが繋がった。登記、死亡届、住民票の写し、全てに偽造の影が差していた。

真相はひとつだけど二重の登記

本当の住人は誰だったのか

調査の結果、実際の住人は依頼人ではなく、その兄だった。依頼人は死んだことにされ、兄がすべての財産を手に入れる計画だったのだ。だが、司法書士の記録にはちゃんと残っていた。

司法書士が語るラストボール

記憶より証拠がモノを言う

「俺はね、登記の記憶なんて信用しないんだ。信じるのは紙の記録だけだ」 最後に依頼人の兄を追及したとき、そう言って手帳を差し出した。法務局の受付印がすべてを語っていた。

事件後の静けさと封筒の中身

それでも郵便は届くのだった

数日後、事務所にまた一通の封筒が届いた。差出人は不明だったが、中には登記簿謄本と一言だけのメモ。「ありがとう」と書かれていた。俺たちの仕事は、たまには誰かを救うらしい。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓