白紙の登記簿

白紙の登記簿

白紙の登記簿

引き渡された家の違和感

郊外の中古住宅。名義変更の依頼は、いたって普通の手続きのはずだった。 けれども、現地に足を運んだ僕の胸には、どこか引っかかるものがあった。 それは家の中に漂う妙な「生活感」だった。確かに無人のはずの家に。

登記簿の不思議な空白

法務局で確認した登記事項証明書には、確かに売買による所有権移転と記されていた。 だが、奇妙なのは、そこにあるはずの「前所有者の記録」が丸ごと欠けていたことだ。 そんなことが、あるのか?システムの不具合?いや、どこか人為的なにおいがする。

前所有者の謎の失踪

僕は念のため、前所有者とされる人物の住民票を追った。 だが、転出届も転入届も出されておらず、文字通り「記録がない」。 まるで、最初から存在しなかったかのように。

隣人の証言と割れたガラス

「夜中に誰かが庭を歩いててね、怖かったのよ」 そう話すのは隣の奥さん。数日前、窓ガラスが割れる音も聞いたらしい。 防犯カメラには、顔を覆った人物が映っていた。だが、それが誰なのかはわからない。

遺された申請書類の矛盾

手続きに添付されていた委任状には、不自然な点がいくつもあった。 筆跡が急いで書かれたような震えた文字、そして何より押印の位置が微妙にズレていた。 素人目には分からないかもしれないが、僕の目は誤魔化せない。

抵当権が語る過去の取引

古い登記簿謄本を引っ張り出してきた。そこには、五年前に設定された抵当権の記録。 だが、その抵当権がいつの間にか抹消されていた。抹消登記の申請者は…今の買主? あり得ない。借金の返済義務者が、なぜそんなことを?

サトウさんの冷静な指摘

「この日付、明らかに不自然ですね。休日です」 サトウさんはパソコンを叩きながら、するどく言い放った。 「あと、この委任状。たぶん、印影が合成です。元の印鑑証明書と照合します」

消された名義人の手がかり

古い司法書士名で残された過去の登記履歴をたどると、1枚の名義変更届が見つかった。 そこには、失踪した人物と同姓同名の名前が。しかし生年月日が微妙に違う。 おそらく、誰かが架空の存在を作り出していた。

地目変更届の不自然な日付

さらに驚いたのは、土地の地目が「雑種地」から「宅地」に変更された日付だ。 通常よりもはるかに早い手続き。そして、審査が通るには不自然な添付書類の簡略さ。 役所の中に協力者がいたのか、それとも…。

やれやれ、、、それでも証拠は紙の中にあった

僕は過去の登記申請書を隅々まで読み返した。そして、見つけた。 申請書に貼られた収入印紙の番号が、まったく同じものを別の登記でも使い回されていた。 証拠はそこにあった。やれやれ、、、これだから紙の書類ってのは侮れない。

古いファイルにあった一通のメモ

さらに倉庫の奥から見つけたのは、前任の司法書士が残したメモ帳だった。 「この依頼主には注意すべし。人を騙す口調がやけにうまい」 名前が書かれていた。それは、今回の依頼人と一致していた。

隠された真実と沈黙の契約書

その後、旧所有者が実はすでに亡くなっていたことが判明した。 死亡届の直前に、不審な契約書が作成されていた。 だが、その契約書には公証役場の登録もなかった。つまり、法的には無効だった。

本当の相続人が語った動機

「父は認知症でした。あんな契約をするはずがありません」 涙を浮かべた女性は、正当な相続人だった。 だが、誰かが彼女の存在を隠し、登記だけを先に進めていたのだ。

筆跡が告げた犯人の名前

サトウさんの筆跡鑑定が決定打になった。委任状の筆跡は依頼人本人のものではなかった。 さらに驚くべきことに、それは不動産業者の担当者と一致していた。 警察に通報し、事態はようやく動き始めた。

登記簿に書かれなかった最後の一行

登記簿は正確無比であるべきだが、そこに真実がすべて書かれるとは限らない。 僕たち司法書士は、その「余白」まで読む目を持たなければならない。 書かれていないこと、それが時に最大の証拠になるのだ。

そしてまた日常が戻る司法書士事務所

サトウさんはコーヒーを片手に、冷めた口調で言った。 「次は普通の相続登記がいいですね」 「それな」とだけ返して、僕はまたパソコンの前に座った。やれやれ、、、。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓