偽りの共有者

偽りの共有者

登記簿の違和感から始まった朝

朝一番、まだコーヒーの香りが漂う事務所に届いたのは、一通の相談メールだった。 「共有登記のことでお聞きしたいことがあります」とだけ書かれた短い文面。 添付された登記事項証明書に、俺はふと眉をひそめた。

一通の相談メールに潜むざわつき

内容は曖昧だが、何かを隠しているような印象があった。 「共有者の一人が音信不通で、売却ができない」と書いてある。 だが問題は、そもそもその共有者の名義自体が、少しおかしかった。

登記簿の「共有」の文字に沈む影

登記簿を見る限り、持分は二分の一ずつ。典型的なケースだ。 だが、よく見ると表記された住所がひどく古い。 平成どころか、昭和のころの住所表記だった。

サトウさんの冷静なツッコミ

「これはまたずいぶん手が込んでますね」と、サトウさんがPC画面をのぞき込む。 その視線は、まるで名探偵コナンのように鋭かった。 「この共有者、たぶん存在してないんじゃないですか」

所有権持分の妙な数字

通常の共有持分はわかりやすく二分の一などの分数で示される。 しかしこの登記には、千分の五百四十九という妙な数字が記されていた。 わざと分かりづらくしたような意図が感じられる。

備考欄に残された不自然な履歴

備考欄に目をやると、過去の名義変更の履歴に不自然な記述があった。 変更年月日が記録されていないのだ。 本来なら、こんな記載は許されないはずだが。

過去の登記から浮かび上がる人影

法務局で古い閉鎖登記簿を閲覧する。 するとそこには、もう一つの名義人が突然現れた記録があった。 しかも、その名義人は二十年前に死亡していた。

共有者の一人が語らない理由

現在の相談者に会いに行ったが、彼はどこか歯切れが悪かった。 「昔の知人に頼まれて名義を借りたんです」と、ようやく口を開いた。 名義貸し。それは確かに、嘘の共有だった。

名義変更の経緯に見え隠れする虚構

彼は、売却できるようにするために形式上の共有者を立てていた。 だが、その共有者は登記簿上にしか存在しない人物だった。 まるでルパン三世の偽装工作のような手口だった。

現地調査とお茶菓子の攻防戦

現地で近隣住民に話を聞く。昔から住んでいるおばあさんが出てきた。 「そんな人、見たことないよ。ずっと空き家だったし」との証言。 その手にはなぜか和菓子と熱いお茶が添えられていた。

近所の噂話が導いた突破口

「昔、登記だけして名義を分けておくと税金が安くなるって言ってたわ」 そう語るおばあさんの一言で、すべてが繋がった。 節税のための偽装共有登記。その名残が今回の依頼だったのだ。

サザエさん級のご近所トラブル展開

誰がどの土地を使っていたか、近所でも意見が分かれていた。 「こっちの畑はウチのだ!」「いやいや共有だ!」と口論が絶えない。 完全にサザエさんの町内会状態である。

古い登記識別情報の封筒の中

相談者の押入れから、古い封筒が見つかった。 登記識別情報通知、今でいう権利証だ。 そこには実在しない人物の名前が、丁寧に筆で書かれていた。

昭和の名残と平成の改ざん

封筒の紙は変色し、昭和の香りを漂わせていた。 だが、その中身は平成初期に作成されたニセモノだった。 時代をまたいで続く嘘が、ここに証拠として残っていた。

サトウさんの目が光る瞬間

「これ、インクが平成六年以降の製造ですね」とサトウさん。 まるで金田一少年のような推理力に、俺は感心した。 「印影も変ですし、偽造で間違いないでしょう」

やれやれ、、、な展開からの逆転劇

依頼人は軽い気持ちでやったつもりだったが、これは立派な虚偽登記。 事情を丁寧に説明し、自主的な訂正登記を行うことに同意させた。 やれやれ、、、まったく、後始末ばかりだ。

誰が嘘をついていたのか

嘘をついていたのは、記録そのものだった。 人は忘れるが、登記は忘れない。 だからこそ、その嘘が最後に牙をむく。

書類一枚で動く不動産の重み

たった一枚の書類で何千万円も動く世界。 だからこそ、登記の正確さは命より重い。 紙の裏に、人の欲が見えるのだ。

司法書士としての意地と矜持

今回はギリギリで大事に至らなかったが、冷や汗ものだった。 こうした偽装登記は、思った以上に身近に潜んでいる。 俺の仕事は、紙の向こうにある「真実」を見つけることだ。

登記簿に記録される真実とは

登記簿に記録されるのは、法的な事実だけではない。 そこには人の関係性、過去の選択、時には嘘までもが刻まれている。 そして、それを読み解くのが司法書士の役目だ。

サトウさんの塩対応にも笑みが浮かぶ瞬間

「まあまあ、今回は褒めてあげますよ」 珍しくサトウさんが笑った。いや、たぶん口角が動いただけか。 それでも今日は少しだけ、疲れが軽く感じた。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓