登記簿が暴いた家族の影

登記簿が暴いた家族の影

司法書士に届いた一本の電話

土地の名義変更を巡る違和感

午前10時過ぎ、古びたファックスの上に置かれた受話器から、妙に沈んだ声が漏れていた。 「土地の名義を変えたいんですけど、父が亡くなってから何年も経ってて……」 依頼人は緊張している様子だったが、それよりも気になったのは、話の途中で何度も言い淀むことだった。

依頼人の口ぶりに潜む矛盾

「相続人は私一人なんです」と言い切ったあとで、ふと「兄がいたんですが…」と呟く。 どうも腑に落ちない。兄がいるなら、法定相続人は複数になるはずだ。 やれやれ、、、こういう面倒なパターン、サザエさんの波平とマスオがもめてる回みたいだ。

古びた家に眠る謎

空き家になったはずの家に灯る明かり

夕方、現地調査に赴いた古民家には、人の気配が漂っていた。 雨戸は閉じられていたが、カーテンの隙間から蛍光灯の白い光が見える。 空き家のはずだと言われたその家は、まるで誰かが生活しているようだった。

隣人の証言と犬の遠吠え

隣に住む老婦人に話を聞くと、最近も人が出入りしていたという。 「若い男の人が時々来てたよ、夜中にもねぇ」と。 そのとき、裏のほうから犬の遠吠えが聞こえた。いやな予感が背筋をなぞる。

登記簿が映す真実の断片

昭和の所有者の名が今も残る理由

法務局で取得した登記簿を確認すると、最終所有者の名義は昭和時代のままだった。 本来なら相続を経て名義変更がされているはずだが、その痕跡がまったくない。 誰かが、あえて放置していたとしか思えない不自然さだった。

相続人たちの関係と不在通知

住民票除票をたどると、依頼人以外にももう一人、名の知られていない妹の存在が浮かび上がった。 だが、その所在は不明。数年前に送られた不在通知の返戻だけが残っていた。 まるで登記簿に刻まれた“消された家族”のようだった。

サトウさんの冷静な分析

家系図を読み解く鍵となる名

「この“ヨシエ”という名前、戸籍には何度も出てきますね」とサトウさん。 パソコンのモニターに映る戸籍の一覧を指差して見せた。 どうやら彼女がこの家族にとって、失われた繋がりの要のようだった。

通帳の動きが示す不審な支出

「これ見てください。死亡後にATMから50万円が引き出されてます」 彼女が指差した明細には、命日の数日後の日付が記録されていた。 死者の手で引き出された金。だれかがなりすましていたのだ。

書類の中に潜む偽造の影

かすれた印影と押印の位置

委任状の印影は明らかにかすれており、紙の繊維が周囲だけ濡れているような違和感があった。 素人の目でも不自然だとわかるレベルだ。 しかも、押印の位置がずれており、通常の手順とは異なる押し方になっていた。

登記原因証明情報の改ざん疑惑

登記原因証明情報の記載には、申請日と死去の日付が一致していなかった。 ほんの数日のズレが、大きな嘘の入り口だった。 まるで怪盗キッドが舞台を作るかのように、巧妙に仕組まれていた。

シンドウの現地調査開始

押し入れで見つけた鍵の束

古いタンスの奥、押し入れの板をはずすと、鍵の束が出てきた。 タグには「蔵」「作業小屋」「2階奥間」と書かれている。 これは、誰かが隠した“本当の所有”の証拠かもしれなかった。

手紙に書かれた最後の言葉

ホコリまみれの書類の山の中に、丁寧に折りたたまれた便箋があった。 「あなたを許します」という、震えるような筆跡。 これは死者が遺した赦しの言葉だったのか、それとも皮肉だったのか。

決定的証拠を掴んだ瞬間

遺言書に隠された日付のトリック

自筆の遺言書と見せかけて、日付の部分だけワープロで印字されていた。 裏からライトで透かすと、筆跡とインクの違いが浮かび上がる。 「これ、完全に偽造です」と、サトウさんの声が少しだけ高くなった。

不審な委任状と死亡診断書のズレ

病院の発行した死亡診断書と、提出された書類の日付が明らかに食い違っていた。 死亡前に作られたはずの委任状。だが、本人はすでに病院で昏睡状態だったという。 つまり、誰かが筆跡を真似て作り上げたのだ。

やれやれ事件の全貌が見えてきた

財産を狙った兄の巧妙な策略

結局、兄は妹が遠方で暮らしていることをいいことに、単独相続を演出していた。 偽造書類で名義変更を図り、遺産をごっそり持ち逃げしようとしたのだ。 まったく、やれやれ、、、兄妹でカネを巡って争うなんて、人生はサスペンスの連続だ。

隠されていた本当の相続人の存在

所在不明とされた妹は、実は遠方の施設で介護職として働いていた。 彼女に連絡を取り、全てを伝えると、電話越しに泣き崩れる声が聞こえた。 真実は彼女のもとへ、きちんと届けられた。

警察と連携して動き出す

告発状の提出と証拠の整理

兄による私文書偽造と詐欺未遂の疑いで、刑事事件として告発がなされた。 提出された証拠の山をまとめ、関係各所への説明を終える頃には、日が暮れていた。 役所仕事とは思えないほどの推理劇だった。

サトウさんの塩対応と小さな笑み

「最初から言ったでしょ、あの人怪しいって」 そう言いながらサトウさんは、コンビニのチルドコーヒーを僕の机に置いた。 その口調はいつも通り冷たいが、ほんの少しだけ目尻が緩んでいた。

事件は終わり新しい一日が始まる

登記簿に記された本当の名前

登記簿に記された新しい所有者名。それは、妹の名だった。 何年も忘れられていた存在が、ようやく法の記録に刻まれたのだ。 静かな正義がそこにはあった。

書類の山とカップ麺と夕焼け

事務所に戻ると、机の上には積まれたままの申請書類の山と、冷めたカップ麺があった。 夕焼けがブラインド越しに赤く差し込んでいる。 やれやれ、、、また明日も、誰かの影と戦う一日が始まりそうだ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓