第一章 見慣れた書類に違和感
忙しい朝と机の上の書類
いつものようにコンビニのコーヒー片手に事務所に入ると、机の上には分厚い封筒が置かれていた。封筒には「至急」と赤字で書かれている。嫌な予感しかしない。朝からこんなものを見ると、胃がキリキリする。
登記申請書に潜む妙な記載
封筒を開け、中の申請書に目を通した瞬間、何かが引っかかった。書式は正しい。印鑑もある。なのに妙な違和感。まるでドラえもんの「ひみつ道具」に一つだけ偽物が混じっているような、そんな感じだ。
第二章 サトウさんの冷静な指摘
「ここ、おかしくないですか」
「シンドウさん、これ……登記名義人の住所、前の書類と違ってます」 サトウさんがパソコンから顔を上げずに言う。彼女は相変わらずだ。指摘の一つ一つが鋭い。こっちは朝のコーヒーで脳がまだ起きてないというのに。
不自然な添付書類の並び
確かに、添付されている住民票と印鑑証明書が微妙にズレている。発行日も異様に古い。「やれやれ、、、また厄介なやつか」思わず漏らすと、サトウさんが小さくため息をついた。
第三章 登記名義人の影
電話の向こうの曖昧な返答
「名義人のご本人でしょうか?住所に関して確認したく……」 電話越しの声はどこかおぼつかない。本人なのか、代理人なのか、はっきりしない。何かを隠しているのは間違いない。
住所変更か、それとも偽装か
登記原因の説明があまりに抽象的だった。通常の名義変更なら、ここまで回りくどく書かないはずだ。わざと曖昧にしている。何かを誤魔化そうとしているのだ。
第四章 法務局の壁
窓口での沈黙と奇妙な視線
法務局に持ち込んだ書類に、担当者が目を細めた。「これは……ちょっと調査が必要ですね」 その一言に、場の空気が凍った。普段はフレンドリーな担当者が、まるで黒い組織に遭遇した探偵のような顔になった。
記録簿に記された別人の痕跡
バックヤードから持ち出された旧登記簿の控えに、知らない名が記されていた。しかも申請書にはその痕跡が巧妙に削除されている。ルパン三世のように跡形もなく、だ。
第五章 古い登記簿と現在のズレ
昭和の遺構に隠された事実
そこに記されていたのは、昭和58年にされた仮登記だった。その仮登記が何の手続きもされず、現在にまで残っている。古いだけに誰も気づかず、まさに伏兵だった。
同姓同名という迷路
登記名義人の名前は、よくある名前だった。「タナカ タロウ」。しかし、添付書類と一致しない筆跡があちこちに。もしかして、同姓同名を利用した名義乗っ取りでは……。
第六章 暴かれた仮登記の罠
代理人の過去に迫る
代理人と称する男が登記済証を持っていたが、その登記済証は古い書式の偽物だった。印影も擦れていて、どう見てもコピー品。怪盗キッドが化けた姿のように、本物らしく見えるが偽物だ。
「やれやれ、、、これは一筋縄じゃいかないな」
男が残していった言葉を頼りに調べを進める。仮登記が本登記に転化されぬまま放置されていた裏には、20年前の相続放棄と、売買契約の偽造が絡んでいた。
第七章 申請書の裏側にある真相
裏書きの筆跡が語る嘘
仮登記の申請書の裏には、薄く鉛筆で「田中花江」と書かれていた。花江は既に亡くなっている。そしてその筆跡は、現在の代理人の母親のものだった。
誰のための登記だったのか
すべては、長男が次男に土地を渡さないために仕組んだものだった。仮登記で塩漬けにし、母の死をもみ消すことで、登記の名義を永久に凍結しようとしたのだ。
第八章 真実と訂正申請書
最後の一手とサトウさんのため息
訂正申請書を作成し、遺族に説明を行った。納得は得られたが、複雑な感情が残る案件だった。サトウさんは淡々とファイルを閉じながら「こういうの、増えてますよね」と言った。
静かに閉じるファイルと一件落着
書類を提出し、法務局からの受付印を受け取ったとき、ようやく安堵が訪れた。「やれやれ、、、」 今回の事件も終わった。だが明日もまた、新たな封筒が届くのだろう。推理と書類の間で揺れる日々は、まだ続く。