証明されなかった罪

証明されなかった罪

不受理証明という奇妙な依頼

奇妙な依頼は月曜の朝にやってきた

その日も朝から書類の山。コーヒーを一口すすった瞬間、サトウさんが封筒を机に置いた。
「不受理証明の取得依頼です」
あまり聞かないワードに、思わず眉をひそめた。婚姻届が受理されなかった証明書?何かが引っかかった。

消えた婚姻届と名前のない女

提出されたはずの届出が受理されなかった理由

婚姻届には確かに署名と捺印があった。しかし、役所の処理は「不受理」。
理由は――新婦となるはずの女性が、すでに死亡していたからだった。
提出者は彼女の婚約者だと名乗る男。しかし、戸籍にも彼女の名はなかった。

殺人か偽装か書類の嘘を見抜け

司法書士の目が捉えた登記の違和感

不動産登記の履歴を追っていると、不可解な変更が見つかった。
数ヶ月前、ある家屋が女性名義になっていたが、その女性は死亡したはず。
「所有権移転の登記が早すぎる。死後ではなく生前に行われている?」とつぶやいた。

元カノと同姓同名の女

過去が現在に影を落とす

書類に記された名前を見た瞬間、胸がざわついた。あの名前は、大学時代の元カノと同じだった。
「偶然ですよね?」とサトウさんに言われたが、やけに心がざわつく。
記憶の片隅に、彼女が司法書士を目指していたことを思い出した。

サトウさんの独断捜査

塩対応の裏に潜む天才的行動

「この物件、なぜかGoogleストリートビューに映ってないんです」
そんな一言から、サトウさんが法務局の旧地図を引っ張り出してきた。
土地の筆界が少しずれていた。そこに、本来あるはずの建物が写っていなかった。

やれやれ司法書士に探偵の資格はない

でも放っておけないのが人の性

「ああもう、やれやれ、、、また巻き込まれてしまったか」
事件を避けるようにしても、結局書類の向こうには人がいる。
司法書士という仕事は、そんな人間関係の隙間に足を突っ込む職業でもあるのだ。

遺言と養子縁組のからくり

法律の網の目を縫う策略

遺言書の検認手続きの中に、見慣れない養子縁組の届け出があった。
「これ、死亡した彼女が生前に書いたものにしては、日付が新しすぎます」
つまり誰かが彼女の名を騙って書類を作り、資産を奪おうとしていたのだ。

消された証人と偽造された証拠

署名の筆跡が示す真実

婚姻届の証人欄。筆跡を鑑定すると、二人とも同一人物だった。
つまり、偽造されていた可能性が高い。
それを提出したのが、被害者の元上司。彼は登記簿にも名を残していた。

あの家に入ったのは誰か

鍵の管理記録が示す足取り

管理会社に確認すると、家の鍵は婚姻届提出と同日に「受取人不明」で返却されていた。
つまり、その日に誰かが現場に入り、証拠を操作した可能性が高い。
サトウさんの言葉がよみがえる。「これ、提出されたのはあなただけじゃなかったみたいですね」

最後の一行に書かれた名前

裏面にだけ残された文字

婚姻届の裏。そこには、小さく書かれた別の女性の名があった。
彼女こそが真の被害者。死亡したのは別人で、替え玉だった可能性が浮上する。
戸籍と登記、そして遺言書の順番が、すべてを裏付けていた。

司法書士の手が暴いた真相

形式と実態を見極める目

司法書士としての経験が、最終的な鍵となった。
どんな書類も完璧に見えて穴がある。今回も例外ではなかった。
警察より一歩先に、真実を記録から掘り起こしたのはこの僕だった。

不受理の先にあるもの

受理されなかったのは愛か罪か

婚姻届が受理されていれば、殺人は起きなかったのかもしれない。
だが、受理されなかったからこそ真実が浮かび上がったとも言える。
人が何かを「証明しよう」とするとき、その裏にあるのは常に恐ろしいほどの欲望だ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓