登記は終わっても真実は残る

登記は終わっても真実は残る

登記は終わっても真実は残る

「あれ、もう登記完了の通知が届いたんですね」

サトウさんが書類を持って事務所に入ってきた。表情は変わらない。たぶん、何か裏がある。

こんなにスムーズに進む登記なんて、サザエさん一家の夕飯がカレーじゃなかったくらいの違和感がある。

ある登記完了通知から始まった

数日前、急ぎで不動産の名義変更を依頼された。依頼人は60代の女性、遺言書あり、印鑑証明も揃っていた。

形式的には何も問題はない。むしろ綺麗すぎるくらいだ。

だが、司法書士というのは、綺麗すぎる書類を見ると条件反射で疑い始める悲しい生き物なのだ。

午後三時の依頼人は喪服だった

その女性が再訪したのは、登記完了の翌日だった。今度は喪服で、目に涙を浮かべていた。

「実は、主人は亡くなっていなかったんです……」

話が飛びすぎて、アニメの回想シーンを間違えて見た気分になった。

売買登記か贈与登記かで揉めた話

話を整理すると、彼女は「生前贈与」だと主張していたが、故人は一度もそれを明言していなかったらしい。

さらに、登記申請書に添付された委任状は、コピーだった。

原本還付を申し出ていたため、原本を見ていない私の責任も少しはある。

サトウさんの冷たい視線と正論

「そもそも、委任状の筆跡、おかしくなかったですか?」とサトウさん。

彼女の眼光は、アニメ版ルパン三世の次元ばりに鋭い。

「登記の前に気づいていればよかったですね」と言い残し、コーヒーを一口。

不動産の裏に潜む家族のひずみ

話を聞く限り、この不動産には他にも相続人がいるらしい。

それなのに単独で名義変更をしたのは、財産隠しのためだろうか。

司法書士が警察に通報する義務はないが、道義的には無視できない。

生きていたはずの被相続人

戸籍上は確かに死亡している。でも、近所の住人によれば、つい最近まで姿を見かけたという。

「ゾンビですか?」と笑ってはみたものの、背筋がすうっと寒くなった。

この登記は、幽霊のために行われたものかもしれない。

二重の登記申請と消えた委任状

調べていくと、別の司法書士が同じ物件について登記を出していた記録があった。

その登記は却下されたが、理由は「委任者死亡」だった。

となると、うちに来た依頼は……やはり偽造だった可能性がある。

やれやれ、、、この手のトラブルは後味が悪い

一通の登記完了通知が、こんな厄介な話の始まりだったとは。

結局、私は管轄法務局に事情を説明し、本人確認の記録や委任状のコピーを提出した。

「ミスではなく詐欺ですから」と、法務局の担当官も苦い顔をしていた。

司法書士が辿り着いた真実のページ

後日、警察から連絡があり、委任状は死後に偽造されたものと判明した。

依頼人の女性は共犯で、遺産を独占しようとしていた。

それでも、登記が完了してしまっていた事実は消えない。

解決か終焉かそれとも書き換えか

登記の更正登記を行うには、新たな手続きが必要だった。

それに応じるためには、他の相続人の協力が不可欠だ。

結局、私はまた一通、相続関係説明図を作成することになった。

サトウさんのひと言で幕を引く

「やっぱり、登記完了は終わりじゃないですね」

サトウさんの言葉に、私は深くうなずいた。

終わったつもりでも、法務局のゴールは人間関係のスタート地点に過ぎない。

登記完了は終わりじゃないと知った日

「書類上の完了と、人の気持ちの完了は違うんだな」

やれやれ、、、結局今日も、物語の終わりはファイルの外にあった。

私は立ち上がり、次の書類の山に手を伸ばした。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓