登記簿が導いた最後の嘘

登記簿が導いた最後の嘘

朝の訪問者

不機嫌な目覚めとチャイムの音

朝のコーヒーを淹れようとした矢先、玄関のチャイムが鳴った。眠気と疲労が混ざった脳にとって、それはまるで戦時中の空襲警報のような衝撃だった。やれやれ、、、今日は静かに書類整理でもしていたかったんだが。

依頼人は一人の老婦人

玄関に立っていたのは、七十を過ぎたであろう小柄な老婦人だった。彼女はまるで戦後からそのまま時を止めたような着物姿で、かすれた声で「土地の登記について相談が」と言った。胸の奥に妙な違和感が生まれた。

古びた土地の登記簿

消えた所有者欄の名前

彼女が持参した謄本には、確かに違和感があった。所有者欄があるはずのページに、なぜか空白が広がっている。時折見かける「保存ミス」か、それとも何か意図的な操作がされたのか。

戦後に隠された名義変更の影

登記簿の履歴をたどると、昭和三十年代に不自然な名義変更がなされていた。委任状や売買契約書が存在しない。資料をめくる手が止まった。そこには見覚えのある司法書士の名前があったのだ。

サトウさんの鋭い指摘

登記簿にあるはずのない訂正印

「センセイ、これ見てください。訂正印が妙です」塩対応のサトウさんが書類を指差す。なるほど、昭和三十三年当時の司法書士印にしては字体が新しすぎる。まるで最近押されたような鮮明さがあった。

法務局で見つけた古い記録

法務局の地下文書庫にて、昭和期の登記申請書類を閲覧した。そこにあったのは、破れた台帳の一部と、滲んだ鉛筆書きのメモ。どうやら、実際の名義変更はなされていなかった。書面上のみの「偽装」だったのだ。

元地主の孫の証言

祖父は誰にも譲っていないと言った

元の所有者の孫が、今も町に住んでいた。「祖父はあの土地は戦死した兄のために残すと語っていた」と証言する。だが、土地は今、第三者の手に渡っていた。それが「譲渡」として成立していた記録が存在する。

見え隠れする司法書士の影

一枚の委任状の違和感

コピーされた委任状の筆跡は明らかに偽物だった。しかも証人欄にある司法書士の印影は、かつて自分が研修時代に働いていた先生のものだった。まさかあの人が関与していたのか?背筋に冷たい汗が流れた。

過去の自分と向き合う

新人時代の失敗と記憶の空白

その時、ぼんやりとした記憶がよみがえった。司法書士補助者として初めて担当した案件の中に、この土地の名義変更があったような気がする。当時は何も知らされずに、ただ印を押すだけだった。

サザエさんのような日常に潜む歪み

日曜の午後の秘密

町の誰もが知る土地が、実は戦後の混乱期に便乗した「登記マジック」で盗まれていた。まるで「サザエさん」の裏でフネさんが証券口座を操作していたような、不条理でシュールな真実に笑うしかなかった。

真犯人は誰か

所有権移転の真の動機

資料をすべて紐解いた結果、当時の司法書士が空白を悪用して「不在地主制度」に基づいて虚偽登記を行っていたことが判明した。動機は相続税逃れと、第三者への転売益。書類の偽装、すべて仕組まれたものだった。

やれやれと思いながらも

塩対応のサトウさんの一言

「センセイ、また掘り返しましたね。今夜も残業ですよ?」とサトウさんがため息をついた。やれやれ、、、俺がうっかりしていなければ、もっと早く気づいていたかもしれないな。だが、それでも真実にたどり着けたのだから。

真実が示された登記簿

偽造された筆跡とその裏にある事情

筆跡鑑定と証言をもとに、再登記申請が認められた。老婦人の涙とともに、土地は本来の所有者のもとに戻った。偽造は明らかになり、元司法書士の名前は調査対象となった。

結末とその後

依頼人の涙と小さな笑顔

「これで兄も、祖父も報われます」と依頼人は静かに頭を下げた。サトウさんはすでに帰り支度を終えていた。俺は湯のみを手に、ようやく冷めたコーヒーを一口。苦いけど、今日の結末には、少しだけ満足していた。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓