登記簿が語る二重の家

登記簿が語る二重の家

登記簿が語る二重の家

平凡な依頼の裏に潜む違和感

「古家の相続登記をお願いしたいんです」——その依頼は、梅雨のじめじめした午後、事務所の電話から始まった。
電話口の男性は朴訥で、特に怪しい雰囲気はなかった。ただ、相続人が誰か曖昧な話ぶりだったことが妙に引っかかった。
登記簿を確認すればすぐ分かること、とそのときは軽く考えていたのだが、それがそもそもの間違いだった。

空き家の所有者は誰なのか

現地に行ってみると、そこには明らかに「空き家」というには手入れの行き届いた家が建っていた。
庭の雑草は刈られ、ポストの中身も溜まっていない。誰かが定期的に管理している形跡があった。
にもかかわらず、依頼人は「もう何年も誰も住んでいないはず」と言い張る。

調査の先に見つけた旧登記簿の謎

法務局で登記簿を確認してみると、不審な点がひとつ。現所有者とされている人物の名前が、昭和の終わりごろに登録されたままになっていた。
さらに奇妙なのは、平成初期に一度相続されたような形跡があるのに、それが何故か無効になっていることだった。
古い登記簿の閉鎖情報を取り寄せてみると、そこには二重に登録されていた履歴が確かに存在した。

サトウさんの冷静な一言

流れを変える一枚の写し

「これ、写しにしては変ですね」
そう言ってサトウさんが差し出したのは、依頼人から渡された古い登記済証のコピーだった。
印影がどこか不自然で、実際に現物と照らし合わせると微妙に字体が違っていた。

名義変更の過去に残された矛盾

詳しく調べると、当時の名義変更は故人の意思によらず、誰かが作為的に手続きを進めていた可能性があった。
必要な添付書類も一部欠落していたことから、不正な手続きが行われた形跡が濃厚だった。
「なんでこんな杜撰なまま、登記が通ったんだ……?」私は頭を抱えた。

古い印鑑証明が語る亡き人物の影

押印されていた印影は、すでに故人とされていた人物のもので、日付は死後数か月を経ていた。
つまり、誰かが死後に印鑑証明を偽造したことになる。
これはもう、司法書士として見過ごすわけにはいかなかった。

隣人の証言に現れたもうひとつの事実

空き家に出入りする謎の女

「たまに、女の人が出入りしてるわよ。茶髪で、若くて派手な感じの」
近所のご婦人の証言に、私は背筋が冷えた。
誰も住んでいないはずの家に、定期的に人が出入りしている……この状況は、犯罪の匂いがする。

ゴミの中に紛れた封筒

その女が使っていたと思われるゴミ袋の中に、なぜか新しい登記識別情報の封筒が捨てられていた。
名前は依頼人とはまったく別の人物のもので、それがさらに混乱を招いた。
誰が、何のためにその家の所有権を操作しようとしていたのか?

遺言書らしき書類に残る異常な点

さらに見つかった遺言書らしき書類は、日付が未来になっていた。
これはもはや、稚拙な偽造というべきか、悪意ある策略というべきか。
「これ、まるで金田一少年の事件簿みたいですね」とサトウさんが呟いた。

隠された取引と偽装された相続

借地権と賃借権の間に潜む罠

不動産の履歴をたどると、その土地は一時期、借地権として誰かに貸し出されていた記録があった。
だが、それに対する賃料の支払い履歴は存在しない。
つまり、形式的な借地契約を装い、実質的には所有権移転を偽装していた可能性がある。

名義貸しに使われた人間関係

登記簿をさらに掘ると、そこには依頼人の遠い親戚筋の名前がチラホラ。
どうやら、家の所有権を複雑化させることで、何らかの金銭的利益を得ようとした者がいたらしい。
「身内ってのは、サザエさんじゃなくてリアルな波平が潜んでるもんだな……」私はため息をついた。

遺言と登記のズレが示す意図的な工作

最終的に、複数の書類の矛盾を照らし合わせた結果、意図的に登記と遺言を食い違わせた者がいることが明らかになった。
すべては、遺産分割協議を混乱させ、不当な利益を得ようとする狙いだった。
司法書士として、それを見逃すわけにはいかない。

司法書士としての直感が導いた結論

サザエさんのエンディングじゃないが

書類をすべてそろえて法務局に出向き、疑義申し立てと訂正登記を依頼した。
担当官の表情は渋く、「これは、、、」としばらく無言になった後、「調査します」とだけ言った。
まるでアニメのエンディング直前のCパートのような空気感だった。

真実は書類の順番に隠されていた

すべての鍵は、登記書類の時系列だった。
順番が1枚ずれていたことで、本来の登記が意図的に後回しにされていたのだ。
「やれやれ、、、また紙の罠か」と私は肩をすくめた。

やれやれ、、、だから俺は紙が嫌いなんだ

紙と印鑑が作り出す迷宮のような世界に、いつも振り回される。
でも、その迷宮を解き明かすのが、自分の役目だと思っている。
だから今日も、机の前で黙々と、紙の山に向かう。

最後に残されたのは小さな優しさだった

サトウさんのコーヒーは今日も苦い

「解決しましたね。コーヒーどうぞ」
いつものように、塩対応な言葉と共に差し出されたマグカップ。
苦いけれど、なんだか今日は少しだけ甘く感じた。

書類の山を越えてひとつだけ笑える結末

依頼人には正しい相続の手続きを説明し、ようやく事件は終結した。
報酬は少ない。でも、こういう結末は悪くない。
「シンドウ先生、もうちょっと身なりを気にしてください」——それが今日一番のご褒美だった。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓