登記簿が語る隣人の影

登記簿が語る隣人の影

目撃された不審な人物

あの朝は、濡れたアスファルトがやけに黒く見えた。通勤途中の主婦が、隣家の玄関先で誰かがうずくまっているのを見たのがきっかけだった。通報を受けて駆けつけた警察は、その人物が敷地内に不法侵入していたと判断し、事情聴取を行ったが、本人は名前すら明かさなかったという。

雨の朝に現れた男

男は黒いコートを羽織り、顔の半分をマスクで隠していた。隣人は「最近あの家に誰かが住んでる気配がないのに、灯りがついた」と証言する。だが、その家は一年前に住人が亡くなって以降、空き家のはずだった。電気が点いているのはおかしい。

隣家からの通報

サザエさんの波平さんだったら、門前で「こら、何をしておる!」と一喝しただろう。だが、現代のご近所づきあいは希薄で、電話一本の通報で終わる。サトウさんがぼそっと「便利な世の中ですね」と言ったのを聞き流しながら、俺は登記簿の閲覧請求を出した。

不可解な所有権変更

法務局で閲覧した登記簿には、妙な記録があった。亡くなった被相続人から、見知らぬ名義人に数ヶ月前に名義が変わっていた。しかもその登記原因は「売買」になっていた。空き家を誰が売ったのか。

名義変更の謎

契約書の添付書類は整っているように見えた。ただし、印鑑証明の日付が数年前のものだった。売買契約に用いるには古すぎる。俺の眉間にしわが寄る。こういうケース、たまにある。だが、あまりに堂々と偽装されていると逆に怪しい。

本人確認書類の不一致

さらに奇妙だったのは、本人確認書類が住所変更前の古いものだったことだ。銀行なら絶対に突き返すようなずさんさだ。「これは、杜撰というより意図的な抜け道ですね」とサトウさんが呟く。彼女の目が鋭く光った。

依頼人の動揺

その物件の登記に疑念を持ったのは、売買契約の相談に来た女性だった。亡くなった叔父の家が、知らない名義に変わっていたことに驚いたという。「私、相続の手続きをしようとしたのに、もう他人の名義なんです」

遺産相続か詐欺か

相続登記の申請すらされていないのに、売買による所有権移転が先にされている。普通なら起こり得ない順序だ。「やれやれ、、、これは面倒なことになりそうだ」と思わず声が漏れた。サトウさんの視線が冷たい。

遺言書の記載ミス

女性は一通の遺言書を持っていたが、内容には形式的な不備があった。日付が欠けており、家庭裁判所での検認も未了だった。これでは証拠として弱い。「誰かが、相続人の不備を突いて先に動いた」とサトウさんが呟く。

サトウさんの冷静な分析

俺が考え込んでいる横で、サトウさんは黙々と資料を並べ始めていた。相続人の戸籍、登記情報、そして空き家の郵便物。彼女の手際はまるで刑事ドラマの鑑識班のようだった。

旧登記との照合

古い登記簿を引き出してみると、売買契約の際に使用された委任状と印影が、過去の登記時の印影と異なっていた。明らかに偽造の可能性がある。「これは刑事案件かもしれませんね」とサトウさんが淡々と言った。

印鑑証明の落とし穴

古い印鑑証明を使って登記を通したことが、今回のトリックの要だった。まるでルパン三世の偽パスポートみたいな手口だ。だが、司法書士として見逃せない。「あの家に入り込んだのは、実行犯か共犯者か、、、」

現地調査で見えた真実

週末、俺たちは現地へ向かった。住宅街の中にぽつんと取り残されたような古びた家。外から見る限り、空き家そのものだった。だが、よく見ると生活の痕跡が残っていた。

空き家の郵便受けの違和感

郵便受けには「転送届出済」の赤いシールが貼られていた。だが、中には投函されたばかりのチラシが入っていた。つまり、誰かが最近までこの家に来ていたという証拠だ。

電気メーターが語る生活の痕跡

電気メーターを確認すると、針がわずかに動いていた。電力会社に問い合わせた結果、1週間前にも通電していたことが判明した。空き家のはずが、実は使用されていた。

登記簿が導いた真犯人

不法に登記を進めたのは、遠縁の親族だった。相続権がないにも関わらず、遺産目当てで偽造書類を作成し、登記手続を行った。動機は、借金返済のためだったという。

影武者としての隣人

玄関先にいた男は、その遠縁の依頼で潜り込んだホームレスだった。書類の署名や本人確認書類に“それらしく”登場する役を演じていたのだ。「どこの名探偵コナンだよ」とぼやきたくなるくらいの小芝居だった。

隠された相続登記の意図

本来の相続人である女性は、裁判所への遺言書検認申立を準備し直すこととなった。俺たちの報告は、警察と法務局にも通達された。偽造による登記は無効となり、真の権利者の手に戻る運びとなった。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓