管理費が消える夜
地方都市の朝は、蝉の鳴き声とともに始まる。今日も変わらず、朝から登記簿と格闘していた。涼しい顔のサトウさんとは裏腹に、僕の机の上は散らかった書類の山。そんな中、突然の来客が事務所の空気を変えた。
忙しすぎる朝の訪問者
「お忙しいところすみません」と現れたのは、近所の分譲マンションの理事長を名乗る男だった。額には脂汗をにじませ、やたらと時計を気にしている。話を聞くと、管理費が帳簿上で消えているというのだ。
理事長からの妙な依頼
「内密に調べていただきたいんです。住民には知られたくないので」と理事長は言った。住民の不信感が爆発する寸前らしい。僕は面倒ごとは嫌いだが、こういう火種にはなぜか縁がある。やれやれ、、、だ。
修繕積立金が消えた理由
管理会社に問い合わせる前に、理事会の議事録を読み込んだ。どの月も出席者は数名、議題は形式的。なにより、修繕積立金の引き落としに関する記載が不自然に曖昧だった。記録はしても記憶には残さない作戦か。
住民が語る管理人の噂
住民に話を聞くと、管理人の行動に疑念があるとの声がちらほら。深夜に業者が出入りしていたとか、鍵を勝手に交換していたとか、まるで『キャッツアイ』の泥棒三姉妹でも出るかのような騒ぎだった。
防犯カメラの死角にいた男
防犯カメラ映像を確認しようと管理室を訪れると、管理人はあからさまに動揺した。録画が一部だけ消えていたのだ。決まって理事会の日、エレベーター前の映像だけが抜けている。偶然とは思えなかった。
サトウさんの冷静な分析
「帳簿だけ見てても意味ありませんよ」とサトウさん。彼女は理事会で出された業者との契約書類の筆跡と、マンションの契約印影に注目した。そこには、理事長以外の者の意志が隠されていた。
領収書の数字が語ること
複数の領収書を照合すると、日付は近いのに発行者が異なり、金額も不自然に似ていた。あたかも“何者か”が複数の名義を使って還流させていたような印象を受けた。ダミー会社の存在が見え隠れする。
鍵の受け渡しに隠された秘密
サトウさんが手に入れた管理人の出入り記録には、エントランスのマスターキーの貸出履歴があった。管理会社の社員が休日に鍵を借り、理事長室に入っていた記録が残っていた。しかも数回。
元理事との意外な接点
かつての理事だった人物に会いに行くと、彼はすでにこの疑惑を知っていた。「オレ、クビになったんだよ、内部告発しようとして」と彼は笑った。そこには裏の権力構造があった。管理会社と理事長の癒着だ。
シンドウのうっかりが導いた真相
理事長の名前を登記簿で確認しようとして、間違って法人の不動産登記にアクセスしてしまった。だが、それが幸運だった。管理会社の代表者と理事長が同姓同名で、旧姓を使い分けていたことに気づいた。
管理会社の黒い契約書
契約書には架空のメンテナンス費用、架空の調査業務などが記載されていた。それは「グループ企業内の契約」でごまかされていたが、税務署が見れば一目瞭然の粉飾だろう。僕は証拠をまとめて提出した。
最上階で交わされた取引
後日、サトウさんの手引きで、マンション最上階に住む住民代表との話し合いが行われた。「理事長はもう辞任しました。あなたのおかげです」と感謝されたが、僕は汗を拭いながら微妙な笑みを浮かべた。
やれやれ、、、この街は静かじゃない
事件が終わっても、また別の依頼が舞い込む。司法書士とは本来こんなことをやる職業じゃない。だけど、今日もどこかで“誰かの黒い帳簿”が開かれようとしている。やれやれ、、、本当に休みたい。
サトウさんの一言が決め手
「先生、推理小説の読みすぎじゃないですか」 それを言われると反論できない。だが今回ばかりは、僕の“うっかり”が真実を暴いたのだ。何かひとつくらい褒めてくれてもいいじゃないか、サトウさん。
真実はエレベーターの中に
すべての証拠は、あの日のエレベーターに残されていた記録が物語っていた。映像の中で、理事長と管理会社の男が密談していた。それが決定的だった。やっぱり、防犯カメラは正直者だ。
そして誰も管理費を信じなくなった
その後、マンションでは管理会社が変更され、住民たちも理事の選び方を見直すことになった。僕はもう二度と理事長の椅子には近づきたくない。書類の山のほうが、まだ安心できるから。