「その件、郵便局の方が詳しいですよ」って、私なんのためにいるの?

「その件、郵便局の方が詳しいですよ」って、私なんのためにいるの?

クライアントにとっての“専門家”とは誰なのか

司法書士というと、登記や法務手続きを任される専門職のはずなのに、なぜか郵便のことばかり聞かれることが増えた。とくに最近は、郵送トラブルがあると「何か対応できますか?」と私に聞かれる始末。いや、それは私より郵便局の方がよっぽど詳しいし、正確です。なのに、なぜか「専門家」としてその原因や対処法を求められる。どこかおかしくないか。私の仕事は、封筒を届けることじゃなくて、その中身の法律関係なのに…。

郵便局の仕組みに異常に詳しくなった司法書士

司法書士になって十数年。依頼者とのやり取りに欠かせない郵便の世界に、いつの間にかやたらと詳しくなってしまった。普通の人なら「速達?それって普通郵便より早いんでしょ」程度だろうが、こちとら速達とレターパックプラスの違いを熱弁できる。どの手段なら土曜日に届くか、午後に出したらいつ配達されるか、局留めにするにはどう書けばいいか──それ全部、私の本来業務じゃない。なのに気づけば毎日誰かに聞かれている。

速達、簡易書留、特定記録──もう何でも来い

速達と簡易書留の組み合わせは最速で確実だ、とか、特定記録は安いけどポスト投函だから心配だよね、とか。そんな解説を求められるたび、自分の知識の方向性に違和感を覚える。そもそも司法書士試験に郵便制度の問題なんて出なかった。それでも実務では、封筒のサイズ、切手の重さ、配達状況…そんな話ばかり。気づけば自分が郵便局の非公認アドバイザーみたいになっている。おかしい、でも誰も助けてくれない。

「今どこにある?」と聞かれても追跡番号しかない

「届いてないんですが、今どこにあるか分かりますか?」──そんな質問をされても、私は占い師じゃない。追跡番号がある場合は日本郵便のサイトで確認できるが、それも結局「配送中」や「持ち戻り」など曖昧な情報しか出てこない。配達員の現在地なんてわかるわけがないのに、「司法書士なら何とかしてくれる」と思われているフシがある。私の専門は登記であって物流じゃない。そう言いたくても、言えない空気がつらい。

「届いてません」は全部こっちのせいになる地獄

郵便の遅配、配達ミス、受け取り拒否──どれも司法書士にはどうしようもないのに、なぜか「連絡が遅い」「報告がない」と怒られるのは私。郵便局に文句を言うより、近くの司法書士に当たり散らした方が早いのかもしれない。とくに年配の依頼者だと、「郵便が届かない=あんたのせい」という図式が出来上がっていて、こっちは平謝り。いや、待って、そもそも送ったのはこっちだし…理不尽すぎて、胃が痛くなる。

配達状況の確認も、まるで私の仕事のように扱われる

たとえば「まだ届いていないようなので、確認お願いします」と言われると、まず郵便局に電話。待たされて、局員の人から「午後に配達予定ですね」と聞く。それを報告すると「ありがとう助かりました」と言われるけど、いや、それって私の仕事じゃない。書類を送った後の追跡まで、まるでサービスの一環のように思われている。だったらもう、日本郵便の制服でも着て仕事しようか。そんな冗談すら頭をよぎる。

クレーム先じゃなくて、まず私に電話しないで

本来なら、届かない書類についての問い合わせはまず郵便局にすべきだ。でもなぜか、依頼者はまず私に電話してくる。「まだ届いてませんけど?」という一言にこめられた不満の圧がしんどい。「え、配達されてませんでしたか?すみません」と、つい謝ってしまう自分が情けない。でも、下手に「郵便局に聞いてください」と言うと「冷たい人」と思われるから、結局私が対応。小さなことだけど、積もればしんどい。

それでも辞められないのは、たぶん誰かの「ありがとう」のせい

正直、何度も辞めたいと思った。登記の話より郵便の話ばかりされると、自分の専門性に疑問を感じるし、やりがいも見失いそうになる。でも、それでも続けられるのは、ふとした瞬間にかけられる「ありがとう」の一言かもしれない。郵便局の人に「いつも大変ですね」と言われただけで、なぜか心が軽くなった。クライアントの一言でも、「助かりました」と言われると、また明日もやろうか、という気持ちになる。不思議な仕事だ。

愚痴の中に、ちょっとした救いもある

誰かに言いたい愚痴は山ほどある。でも、実はそれを言える環境があることが救いなのかもしれない。事務員さんに「また郵便の話だよ…」とこぼすと、クスッと笑ってくれる。そんな一瞬に支えられている気がする。たったひとりの事務所でも、こうして少しずつ日々をやり過ごしている。たまには報われたいと思うけど、期待しすぎず、ただ自分の仕事を続ける。郵便の専門家としてではなく、司法書士としての自分を、少しでも忘れずに。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。