印鑑証明が一番偉い気がする日

印鑑証明が一番偉い気がする日

なぜか印鑑証明が書類の主役になる

登記の手続きをしていて、ふと「一番重要そうに扱われているのは印鑑証明だな」と思う瞬間がある。もちろん登記識別情報も委任状も重要だ。でも、依頼人からの問い合わせや役所とのやりとりを見ていると、なぜか印鑑証明だけが特別扱いされているように感じる。あの一枚の紙に、どれだけ振り回されてきたことか。書類を完璧に整えても、印鑑証明が足りないだけで全体がストップする。まるで全員が「それさえあれば大丈夫」とでも思っているかのようだ。

登記識別情報よりも目立ってしまう存在

登記識別情報なんて、実際には登記手続きに不可欠なものなのに、依頼人からすると「あれ?それって必要なんですか?」なんて反応が返ってくることも多い。一方で、印鑑証明については「これが一番大事なんでしょ?」という雰囲気で差し出される。事務所に来る方の多くが、封筒から丁寧に取り出して渡してくれるのは、たいてい印鑑証明。コピーでも提出書類の山でもなく、あの市町村名が印刷された一枚に、全幅の信頼が寄せられているように思える。

書類の束の中でひときわ気を遣うのはこれ

登記の現場では、様々な書類を扱う。委任状、登記原因証明情報、添付書類…。その中で印鑑証明だけはなぜか「折れないように」「濡れないように」と、異常なまでに気を遣う。私も一度、雨の日に依頼人から預かった印鑑証明が封筒の隅だけ濡れていて、「大丈夫でしょうか」と心配されたことがある。そのとき、「いや、印鑑証明って神聖な紙かよ」と心の中でツッコミながら、慌ててコピーを取って乾かした記憶がある。

「これありますか」で始まるやりとり

新しい相談が来て、まず確認するのは「印鑑証明ありますか?」という質問。こっちは全体の書類構成や登記原因の整理に頭を使っているのに、最初の一歩がそれになることが多いのだ。しかも、依頼人も「持ってきましたよ」と得意げに出してくる。いや、それだけじゃ進まないんだけど…という言葉を飲み込みながら、やっぱりこの一枚が持つ“存在感”には逆らえないのだ。

依頼人の目線もまずは印鑑証明

依頼人にとって「役所で取得した紙=正式なもの」という認識が強いのだろう。もちろんそれは間違っていないが、そのせいで印鑑証明ばかりが過剰評価されている気がする。実際には、法務局に提出する書類の中で、印鑑証明は「補足」であり「添付資料」でしかない。それなのに「これがあれば安心」と考えてしまうのは、一般的な感覚としては自然なのかもしれない。だが、現場で働く者としては、いつも内心でちょっとモヤっとしている。

「これ出せば済むんでしょ」の誤解

一番多い誤解が、「印鑑証明を出せば登記が完了する」という認識。そんなわけないのだが、そう思っている依頼人は本当に多い。たとえば相続登記で「戸籍関係はありませんが、印鑑証明は取ってきました!」と胸を張られても、こちらとしてはちょっと困ってしまう。もちろん努力はありがたいが、登記の本質からすればまったく順番が逆なのだ。でもその誤解がなかなか解けない。それくらい印鑑証明という言葉の響きは強烈なのだろう。

説明してもピンと来ないのはいつものこと

「この印鑑証明は誰の分ですか?」と聞くと、「父のです。亡くなってます」と返ってくることがある。もう少し早く出してもらえれば…と思っても、そこはグッと堪えて、再取得の必要性を説明する。でも、印鑑証明という名称だけが独り歩きしてしまっていて、それが「万能証明書」だと誤解されている節がある。私の説明力の問題かもしれないが、たぶんそれだけではない。

結局それっぽい紙が一番安心される

不動産登記であれ商業登記であれ、最終的に「市役所で出した証明書」があると安心する人が多い。法務局でしか使えない書類より、市役所で出た紙の方が「分かりやすい」ということだろう。たしかに印鑑証明には名前と印影が記されており、視覚的にも「証拠感」が強い。けれど、それがすべてではない。とはいえ、その“安心感”を否定するのも酷なので、私は今日も「印鑑証明のありがたみ」を受け入れつつ仕事をしている。

役所とのやりとりでも振り回される

登記の書類提出の直前に、印鑑証明の有効期限に気づいて冷や汗をかいたことは数えきれない。郵送でのやりとりともなれば、返送時間も含めて計算しないと、あっという間に3か月が過ぎる。そのルールは知っているのに、忙しい時期はつい見落としてしまい、「またか…」と呆れる。依頼人に再取得をお願いするのも気が引けるし、自分の管理の甘さに落ち込む。何度やっても、印鑑証明の期限には怯えてしまう。

期限切れ三か月ルールの呪縛

印鑑証明書の有効期限、厳密には法令で明確に定められているわけではないが、法務局では「発行日から3か月以内」が暗黙のルール。これが本当にやっかいだ。依頼人が早めに取得していた場合、「それ、使えません」と言わざるを得ないこともある。依頼人からすれば「なぜダメなのか理解できない」という反応になる。説明しても納得されにくい。だからこそ、私は「まだ取らないで」と繰り返し念押しするようになった。

郵送案件で一枚足りない焦り

郵送での登記申請では、特に印鑑証明の確認が神経をすり減らす。あるとき、提出済みの封筒を確認していたら、印鑑証明が一枚だけ同封されていなかった。慌てて電話し、「、もう一度取得をお願いできますか」と頼んだ。もちろん謝罪して、レターパック代もこちら負担にした。小さな一枚の紙が、どれほどの手間と神経を使わせるのかと思うと、時々情けなくなる。

自分でも印鑑証明に振り回されている

結局、私自身も「印鑑証明が揃わないと落ち着かない」体になってしまった。矛盾しているようだが、これが現実。どれだけシステム化が進んでも、あの紙があるかどうかで準備の度合いが変わってしまうのだ。もはや職業病といっていいかもしれない。依頼人に「印鑑証明まだですか?」と聞くときの自分の口ぶりが、いつもより丁寧になっていることにふと気づいて、自分でも苦笑いする。

電子申請の時代になっても紙が王様

今や電子申請も普及してきたとはいえ、添付書類の原本提出や郵送での確認作業は残っている。結局、印鑑証明は紙でなければならない場面が多い。せっかくデジタルで進めていても、「印鑑証明は郵送してください」となると、そこですべてが一時停止する感覚に陥る。技術は進化しても、紙の王様は健在だ。しかも、その王様はたいてい一番最後に登場して、全体を牛耳るのだ。

それでも外せないのはなぜなんだ

文句を言いながらも、印鑑証明があるとホッとする。それが悲しいけれど、リアルな話。事務員にも「印鑑証明だけは絶対忘れないように」と何度も伝えている。いや、それ以前に自分が忘れることの方が多いのだが…。それでも、印鑑証明があると「よし、これで進める」とスイッチが入るのは事実。今日もどこかで「印鑑証明ありますか?」と聞きながら、内心では「また頼っちゃってるな」と思っている。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。