もうこの事務所しか頼まないと言われた夜に思い出すこと

もうこの事務所しか頼まないと言われた夜に思い出すこと

その一言が心に引っかかった夜

「もうこの事務所しか頼まないよ」。依頼人からのその言葉を聞いたとき、心が少し震えた。嬉しいはずなのに、素直に喜べない自分がいた。事務所に戻る夜道、ふと自販機で缶コーヒーを買って、ベンチに座った。なんでだろう。なぜか少し泣きたくなった。報われたようで、逆に何かを背負わされたような気がした。誰かに頼られることがこんなにも重たく感じる夜もある。

感謝の言葉がしんどいときもある

感謝されること自体は、もちろん嬉しい。でも、その「ありがとう」が時に刃物のように感じることがあるのだ。「またお願いしますね」「全部お任せします」……そんな一言に、「いや、それ、けっこうしんどいです」と本音を漏らせるわけもなく、笑顔で返してしまう。現実には、毎回同じようにスムーズにいくわけじゃない。登記のタイミング、必要書類、関係者の対応…どれも神経をすり減らしながら対応してる。それを思い出すと、簡単に頼られることに対して複雑な気持ちになってしまう。

救われたようで背負わされたような気分

その言葉に一瞬「報われた」と思ってしまう自分がいた。長くやってきたからこそ、そういう評価を得られたのかもしれない。でも、同時に「次も絶対にミスできないな」とプレッシャーがのしかかる。救われたように見えて、実は背負い込む種になってしまう。自己満足と責任の境目が曖昧で、自分の中に葛藤が渦巻いている。

その場では笑ったけど、帰り道で疲れが増した

あの瞬間、笑って「ありがとうございます」と返したけれど、帰りの車の中でぐったりした。たった一言なのに、心の中でいろんな思いが駆け巡る。人からの期待って、こんなにも重いんだなと思う。自分ひとりで全部を背負っている感覚が、体の芯まで染み渡るようだった。

仕事が褒められることへの違和感

正直に言えば、自分の仕事ってそんなに褒められるようなものか?と疑問に思うことがある。登記なんて、手続きの一部。書類を集めて、正確に申請するだけ。細かい判断や調整もあるけど、それはシステムと制度に乗っかった作業だ。なのに、「すごいですね」「完璧でしたね」と言われると、むず痒い気分になる。やったのは、システムと法務局であって、自分じゃない気がしてならない。

やったのは俺じゃなくて、法務局と登記システム

登記が完了するまでの流れは、もう半自動のようになっている。たしかにミスが出ないように細心の注意を払ってはいるけど、正直「俺じゃなくてもできる仕事だろ」と思う瞬間もある。それでも「先生に頼んでよかった」と言われると、なんだか詐欺みたいな気持ちになることがある。

「ありがとう」が刺さるときがある

感謝の言葉が、じわりと胸を刺すのは、きっと自分自身がまだ満たされてないからなんだと思う。家庭もなく、恋人もいなくて、毎日事務所と家を往復する生活。その中で「ありがとう」と言われても、どう処理していいかわからない。嬉しいけれど、なんだか寂しくて苦しい。

「頼られること」と「負担になること」の境界線

司法書士としての仕事は、信頼がすべてだ。でも、その信頼がプレッシャーになり、自分をすり減らしてしまうこともある。頼られることがありがたい反面、それが義務や責任の押し付けのように感じると、心のバランスを崩してしまう。ひとりで抱え込んでしまう性格だからこそ、余計にきつくなる。

仕事に対する誤解と期待のギャップ

依頼人の多くは「司法書士に頼めば全部やってくれる」と思っている。でも、現実には限界がある。法的な制約、書類の不備、期日の調整…。一つひとつを調整しながら、ギリギリのラインで動いている。期待と現実のギャップに苦しみながら、「できません」と言えない自分がいる。

なんでも屋じゃないと言いたくなる瞬間

「先生、これも一緒にお願いできます?」と言われるたびに、内心で「それは俺の仕事じゃない」と叫びたくなる。でも、断ると次は来てもらえないかもと思って、つい引き受けてしまう。結果的に、本来の業務以外のことに時間を取られて、自分を責めることになる。

できないことを伝える勇気がいつも足りない

「それはできません」と言えばいい。でも、それが難しい。信頼を失いたくない、がっかりされたくない、そういう気持ちが先に立つ。優しさなのか、弱さなのか、よくわからない。結果、なんでも抱え込んで疲れ果てている。

事務員の負担に気づいている自分がつらい

事務員はひとり。彼女もまた、無理をしているのがわかる。気遣ってくれるけれど、その笑顔の裏にある疲れには気づいている。自分だけが頑張ってるわけじゃない。それが余計に苦しい。ひとりに無理をさせてしまっている自分が、なんだか情けない。

感謝されるのは自分だけなのが後ろめたい

依頼人からの「先生、ありがとう」の言葉の裏で、実は裏方の事務員がすごく頑張っている。でも、その存在には誰も気づかない。自分ばかりが表に立ち、感謝される。ありがたいはずなのに、申し訳ない気持ちになる。

一人の頑張りに頼る体制がもう限界

小さな事務所だからこそ、役割分担が曖昧になる。でも、それももう限界が近い。どこかで人を増やすべきだと思いつつ、採用の余裕もない。そうして今日も、ひとりで踏ん張ってくれている事務員に甘えてしまっている。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。