あの瞬間に戻れたらと思った深夜二時
夜中の二時、ほとんど毎晩同じ時間に目が覚めるようになったのは、いつからだったか。何かに呼ばれたように意識が浮上し、ただ一点、「あれ?あの書類、出してたっけ?」という疑問が頭をよぎる。それまでぐっすり寝ていたはずの自分の中で、急に警報が鳴り響くような感覚。これがまた、実際に忘れているときもあるから質が悪い。体は休んでいても、頭は常にどこかで仕事とつながっていて、完全にスイッチを切ることができないのが、この仕事のつらさでもある。
ふとよぎる「あれやってたっけ」の恐怖
不意に思い出すことほど、厄介なものはない。たとえば、お客さんに渡すべき登記識別情報通知。提出期限が明日だとしたら? それが未処理のままだったら? 考え出すと止まらなくなる。何度も確認したはずなのに、不安になる。仕事用のファイルはすぐには手元にないし、夜中に事務所へ行くわけにもいかない。こんな夜が、月に何度もある。まるで、答えの出ないテストを延々と解かされているような気持ちになる。
寝る前の脳内ルーレットが止まらない
寝る前にふと、「あの案件、完了報告したかな?」と頭をよぎる。その瞬間から、脳内でルーレットが始まる。登記完了書類、添付書類、受領証…ぐるぐる回る項目たち。思い出そうとしても、あやふやな記憶しか出てこない。しかも、このルーレットには止まるボタンがない。しまいには、「なんであのタイミングで確認しなかったんだ」と、自分を責める方向にシフトしていくのだ。
布団の中でスマホ確認 地味にダメージ
結局、我慢できずにスマホでスケジュールやメールを確認する。布団の中、暗い画面に目を凝らして「あれ?」とファイル名を漁る姿は、完全に仕事に囚われている証拠だ。そこで「ちゃんとやってた」と確認できればいいが、情報が見つからないこともある。そうなると最悪で、眠気も吹き飛び、朝まで眠れなくなる。翌日は寝不足のまま重要な立会い…そんな自分にうんざりする。
翌朝まで尾を引く不安の正体
たとえ大したミスでなくても、深夜にふと浮かんだ不安は、朝まで続いてしまう。そして何より怖いのは、その原因が自分にしかわからないこと。他人に言っても「気にしすぎじゃない?」で片付けられてしまうような小さなこと。でも、司法書士にとっては、その「小さなこと」が命取りになる。完璧を求められる仕事ゆえの、この重圧。誰にも見えない場所で、自分だけが感じているプレッシャーの正体。
抜けていたのは小さな書類 されど致命的
一度、登記識別情報の添付をし忘れたことがある。それも、何度も見直した案件で。「大丈夫」と思っていたところに穴があった。お客さんには丁寧に謝り、なんとかリカバーしたが、心の中では何日も引きずった。たかが一枚、されど一枚。この一枚に、自分の信用とプライドと、そして夜の安眠がかかっている。だからこそ、抜けが怖い。
ミスが怖いのではない 信頼が怖い
この仕事をしていると、たまに「ミスが怖くてしょうがないですね」と言われる。でも本当に怖いのは、ミスそのものじゃない。それによって崩れる信頼が、一番怖い。お客さんの大切な財産や人生の節目に関わっている以上、「この人に任せて大丈夫」という信頼が崩れるのは、自分の存在を否定されるようなもの。だから深夜二時の不安は、ただの確認ミスでは済まない。心の奥までくるのだ。
事務所経営者としての孤独な判断
一人で小さな事務所を構えていると、すべての判断を自分でしなければならない。何かあっても「まあ、なんとかなるでしょ」と流せる人間じゃない。元野球部のクセに、メンタルは意外と繊細で、責任感だけは無駄に強い。誰かと肩を並べて話し合える相手がいたら、どれほど楽だろうかと、夜中に思うことがある。けれど、この孤独もまた、自分で選んだ道でもある。
相談できる同業が近くにいない現実
地方にいると、そもそも同業者が少ない。そしてみんな忙しく、互いに深く立ち入らない暗黙の了解がある。愚痴を言える相手がいないというのは、精神衛生上なかなかキツい。情報交換も、支え合いも、意識しないと難しい。だからこそ、何か起きたときに自分だけで抱え込んでしまう。余計に夜中に不安が湧き上がる。
地方の司法書士はどこかで孤立している
都市部の事務所のように分業もできず、オンラインでの繋がりも薄い。地方の司法書士は、どこかで“孤独と戦う前提”で生きている気がする。見栄や立場もあって、弱音は外に出せない。実際、同じようなことを感じている人も多いはずなのに、誰も声に出さない。この閉塞感が、夜の不安を余計に長引かせている。
「誰にも迷惑かけたくない」が裏目に出る
「事務員に負担をかけたくない」「お客さんに不安を与えたくない」そんな気持ちが強すぎるせいで、結局自分が全部背負い込む。それが良くないとわかっていても、性分だから変えられない。人に頼ることが下手で、弱音を見せるのも苦手。その結果、深夜二時の脳内で、書類の名前が繰り返しリピートされるはめになる。
同じような夜を越えているあなたへ
もしこの記事を読んでいるあなたが、深夜に目が覚めて「あの案件、処理したかな」と思い出してしまうタイプなら、仲間です。完璧を求め、誠実にやっているからこその不安。あなただけじゃありません。世の中には見えないところで、同じように悩みながら頑張っている人がたくさんいます。だから、あなたの不安は、決して弱さではないのです。
ミスを恐れて眠れない夜はあなただけじゃない
本当に仕事に向き合っている人ほど、不安で眠れない夜がある。それは、自分の仕事が誰かの人生に影響することをわかっているからだ。責任感を持つ人間の証だと、私は思います。だから、そんな夜があっても、自分を責めすぎないでほしい。むしろ、そこまで考えられる自分を、少し誇ってもいいんじゃないか。
失敗談こそが共感と支えになる
成功体験よりも、失敗や不安の話のほうが、人の心を動かす。不安を抱えている人には、不安な人の話が一番響く。私のこうした愚痴まじりのコラムも、どこかで誰かの役に立てばと思って書いています。誰かの夜を、少しでも軽くできたら。そんな気持ちで。
それでも朝はやってくるし業務も進む
どれだけ悩んでも、朝はくる。そして、結局はなんとかなっていることが多い。あれほど不安だったことも、思い出してみれば小さなことだったりする。大丈夫、あなたも、私も、今日も何とか業務を進めている。そう思えれば、深夜二時の不安も、少しは軽くなるかもしれません。