一件だけなのに背負いきれないこの重圧
「今日は一件だけだから楽勝だろう」。そう思って事務所を開けた朝に限って、帰る頃には心身ともにボロボロになっている。そんな日がいったい何回あっただろうか。司法書士という仕事は、件数の多さよりも、一件ごとの密度の濃さにやられることがある。たとえ形式的には単純な登記であっても、その裏にある人間関係や感情のぶつかり合いに巻き込まれると、処理時間や精神的負担は計り知れない。なまじ責任感が強いと、自分がなんとかしないとという意識が強くなり、重荷はどんどん増すばかりだ。
数字にすればたった一つの案件
依頼帳に記された案件の数、それが一つだと「今日は余裕だな」と一瞬は安心してしまう。でも、その一件がまるでブラックホールのように、あらゆる時間と気力を吸い込んでいくことがある。相続登記一つでも、相続人の把握、連絡、資料収集、意思確認…。想像以上に細かく、終わりが見えない。自分の手を動かす前に、頭の中で何通りものシナリオを描き、ミスを想定し、先回りして準備する。そんな準備に数時間かかることもある。「一件＝一時間」なんて、夢のまた夢だ。
しかしその裏には無数のタスクが詰まっている
「登記お願いします」の一言で始まる案件でも、その裏には十、二十と連なる作業がある。相続関係説明図の作成、戸籍の収集、住民票の確認、不動産の評価、遺産分割協議の段取り…。ひとつでもミスがあれば、登記は止まるし、信頼も失う。作業をこなすというよりは、地雷原をそっと進むような仕事だ。しかも、相手が家族間で揉めていたり、急いでいたりすれば、こちらのプレッシャーは倍増する。資料一枚の不備でも、すべてやり直しになるケースだってある。
電話の一本がプレッシャーになる瞬間
集中して書類を作っている最中に電話が鳴る。ふと出てみると、進捗の催促や質問の嵐。たった5分の会話なのに、心のバランスが一気に崩れることもある。特に気難しい依頼人だと、「ああ、また怒らせたかも…」と電話を切った後もしばらく動悸が止まらない。電話の内容が何でもなくても、今の自分の心の状態がガタついていると、その一言がずしんと来るのだ。たかが電話一本、されど電話一本。安心して電話に出られる日なんて、年に数えるほどしかない。
見積もり以上の「心労」が残る
この仕事は、どうしても「作業」に対する報酬で見積もる。でも、実際に一番時間がかかるのは、依頼人とのやり取りや感情のケアだったりする。見積書に「心の消耗」は書けないし、請求できない。でも、ここが一番しんどい。ある依頼人の相続登記では、電話や面談が十回を超えた。何度も「親族と意見が合わない」と泣きながら電話してきて、気がつけばカウンセラーのような役回りになっていた。最終的にありがとうと言ってもらえたけど、あの疲労感は計算できない。
手間賃よりもメンタルが削られる
司法書士の仕事は、知識と経験だけでは回らない。感情の波に巻き込まれたとき、それをどう処理するかが鍵になる。でも、それが一番苦手だ。表では冷静を装っていても、心の中はぐちゃぐちゃ。夜、一人で食べるコンビニ弁当の味もよくわからなくなる日がある。書類の作成よりも、誰かの愚痴や怒りに付き合うことの方がしんどい。報酬はいただくけど、対価として割りに合っているとはとても思えない。
依頼人の期待と現実のギャップ
「この書類、すぐできるんでしょ？」。何気ない一言が心を突き刺す。依頼人からすれば簡単に見える仕事も、こちらからすれば緻密な作業の連続。なのに、その価値を理解してもらえない。それどころか、遅いと責められることもある。そのたびに「自分のやってることって、そんなに価値ないのかな」と思ってしまう。もちろんプロとして迅速丁寧にやるべきなのは承知しているが、理解されない苦しさというのは、積もり積もって大きな壁になる。
ひとり事務所の限界を感じる日々
田舎の事務所で、事務員さん一人とやっている。もともとは「一人で気楽にやれる」と思っていたが、今では「誰か助けてくれ」と叫びたくなることばかり。業務も経営も、全て自分で判断しないといけないから、逃げ場がない。体調が悪くても、機嫌が悪くても、仕事は止められないし、誰かに丸投げすることもできない。限界を感じても、それを超えるしかない。けれど、それってすごく孤独なことだと思う。
雇ってるのは事務員さんひとりだけ
事務員さんは本当にありがたい存在だ。郵便物の発送や簡単な入力、電話応対まで幅広くこなしてくれる。でも、登記実務のような専門的な業務は任せられない。だから、結局は一番しんどいところを自分一人で抱えることになる。事務員さんがいない時期も経験したが、今のようにいてくれても、どこかで「自分だけが責任を背負っている」という感覚がついて回る。ワンマンチームの限界は、そう遠くない未来に来る気がしてならない。
頼れるけど頼りきれない現実
何でも任せられるようになれば楽なんだろうけど、そうもいかない。結局、最終的な責任を取るのは自分だし、間違いがあれば自分が謝るしかない。そう思うと、どこまで任せていいのかわからなくなって、結局一人で夜まで残業してしまう。「効率が悪い」と頭ではわかっているけど、性格的に人に甘えられない。元野球部のせいか、「自分が頑張らないと試合に勝てない」みたいな思考が抜けないのかもしれない。
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一件だけなのに背負いきれないこの重圧
「今日は一件だけだから楽勝だろう」。そう思って事務所を開けた朝に限って、帰る頃には心身ともにボロボロになっている。そんな日がいったい何回あっただろうか。司法書士という仕事は、件数の多さよりも、一件ごとの密度の濃さにやられることがある。たとえ形式的には単純な登記であっても、その裏にある人間関係や感情のぶつかり合いに巻き込まれると、処理時間や精神的負担は計り知れない。なまじ責任感が強いと、自分がなんとかしないとという意識が強くなり、重荷はどんどん増すばかりだ。
数字にすればたった一つの案件
依頼帳に記された案件の数、それが一つだと「今日は余裕だな」と一瞬は安心してしまう。でも、その一件がまるでブラックホールのように、あらゆる時間と気力を吸い込んでいくことがある。相続登記一つでも、相続人の把握、連絡、資料収集、意思確認…。想像以上に細かく、終わりが見えない。自分の手を動かす前に、頭の中で何通りものシナリオを描き、ミスを想定し、先回りして準備する。そんな準備に数時間かかることもある。「一件＝一時間」なんて、夢のまた夢だ。
しかしその裏には無数のタスクが詰まっている
「登記お願いします」の一言で始まる案件でも、その裏には十、二十と連なる作業がある。相続関係説明図の作成、戸籍の収集、住民票の確認、不動産の評価、遺産分割協議の段取り…。ひとつでもミスがあれば、登記は止まるし、信頼も失う。作業をこなすというよりは、地雷原をそっと進むような仕事だ。しかも、相手が家族間で揉めていたり、急いでいたりすれば、こちらのプレッシャーは倍増する。資料一枚の不備でも、すべてやり直しになるケースだってある。
電話の一本がプレッシャーになる瞬間
集中して書類を作っている最中に電話が鳴る。ふと出てみると、進捗の催促や質問の嵐。たった5分の会話なのに、心のバランスが一気に崩れることもある。特に気難しい依頼人だと、「ああ、また怒らせたかも…」と電話を切った後もしばらく動悸が止まらない。電話の内容が何でもなくても、今の自分の心の状態がガタついていると、その一言がずしんと来るのだ。たかが電話一本、されど電話一本。安心して電話に出られる日なんて、年に数えるほどしかない。
見積もり以上の「心労」が残る
この仕事は、どうしても「作業」に対する報酬で見積もる。でも、実際に一番時間がかかるのは、依頼人とのやり取りや感情のケアだったりする。見積書に「心の消耗」は書けないし、請求できない。でも、ここが一番しんどい。ある依頼人の相続登記では、電話や面談が十回を超えた。何度も「親族と意見が合わない」と泣きながら電話してきて、気がつけばカウンセラーのような役回りになっていた。最終的にありがとうと言ってもらえたけど、あの疲労感は計算できない。
手間賃よりもメンタルが削られる
司法書士の仕事は、知識と経験だけでは回らない。感情の波に巻き込まれたとき、それをどう処理するかが鍵になる。でも、それが一番苦手だ。表では冷静を装っていても、心の中はぐちゃぐちゃ。夜、一人で食べるコンビニ弁当の味もよくわからなくなる日がある。書類の作成よりも、誰かの愚痴や怒りに付き合うことの方がしんどい。報酬はいただくけど、対価として割りに合っているとはとても思えない。
依頼人の期待と現実のギャップ
「この書類、すぐできるんでしょ？」。何気ない一言が心を突き刺す。依頼人からすれば簡単に見える仕事も、こちらからすれば緻密な作業の連続。なのに、その価値を理解してもらえない。それどころか、遅いと責められることもある。そのたびに「自分のやってることって、そんなに価値ないのかな」と思ってしまう。もちろんプロとして迅速丁寧にやるべきなのは承知しているが、理解されない苦しさというのは、積もり積もって大きな壁になる。
ひとり事務所の限界を感じる日々
田舎の事務所で、事務員さん一人とやっている。もともとは「一人で気楽にやれる」と思っていたが、今では「誰か助けてくれ」と叫びたくなることばかり。業務も経営も、全て自分で判断しないといけないから、逃げ場がない。体調が悪くても、機嫌が悪くても、仕事は止められないし、誰かに丸投げすることもできない。限界を感じても、それを超えるしかない。けれど、それってすごく孤独なことだと思う。
雇ってるのは事務員さんひとりだけ
事務員さんは本当にありがたい存在だ。郵便物の発送や簡単な入力、電話応対まで幅広くこなしてくれる。でも、登記実務のような専門的な業務は任せられない。だから、結局は一番しんどいところを自分一人で抱えることになる。事務員さんがいない時期も経験したが、今のようにいてくれても、どこかで「自分だけが責任を背負っている」という感覚がついて回る。ワンマンチームの限界は、そう遠くない未来に来る気がしてならない。
頼れるけど頼りきれない現実
何でも任せられるようになれば楽なんだろうけど、そうもいかない。結局、最終的な責任を取るのは自分だし、間違いがあれば自分が謝るしかない。そう思うと、どこまで任せていいのかわからなくなって、結局一人で夜まで残業してしまう。「効率が悪い」と頭ではわかっているけど、性格的に人に甘えられない。元野球部のせいか、「自分が頑張らないと試合に勝てない」みたいな思考が抜けないのかもしれない。
