書こうとした瞬間インクが出ない日
朝、事務所に入るなり、机の上に山積みの書類。今日も例のごとくバタバタのスタートだ。そんな中、依頼者を前に重要書類へ署名しようとしたその瞬間、ペンが…出ない。カスカスという音だけが虚しく響く。こういうときって、本当に「なんで今なんだよ」って思う。まるで、こちらの気持ちの余裕のなさを見透かしているかのようだ。普段なら笑って済ませることでも、疲れていると余裕がない。たったそれだけのことが、今日は心にじんわり刺さった。
まさかのタイミングで沈黙するペン
ペンのインクが切れる。それ自体は、珍しいことじゃない。だけど、それが「いま?」っていう場面で起こると、やけに腹が立つ。先日は、売買契約の立会い中だった。契約者の前で書類に署名しようとペンを取り出したら、うんともすんとも言わない。スッと出てきて当然のインクが、今日は出ない。たったそれだけのことなのに、なぜか深く傷ついた。自分の準備不足なのに、「ああ、俺ってやっぱり抜けてるんだな」とまで思ってしまうのは、きっと心に余裕がない証拠なのだろう。
契約書の前で立ち尽くす
その日、契約書の署名を前にした依頼者の前で、私は思わず沈黙してしまった。慌てて予備のペンを探すも、なかなか見つからない。事務員も別室にいて頼れない。依頼者は困惑した表情でこちらを見ていた。何か声をかければよかったのに、「少々お待ちください」さえ言えず、無言のまま立ち尽くしてしまった。心の中では「落ち着け」と何度も自分に言い聞かせていたが、あの静けさの中では、些細な焦りが大きなプレッシャーに感じられた。
書き直しすら許されない空気
契約書というのは、緊張感のある場面だ。特に初対面の依頼者相手だと、こちらの所作ひとつが印象を左右する。「この先生、しっかりしているな」と思ってもらいたい。でも現実は、インクが出ないというだけで場の空気が張り詰めてしまい、心が折れそうになる。書き直しなんて許されない書類。そんな時に限って、自分の手元ばかりが不自然に注目されているように感じてしまう。まるで、ミスを待ち構えられているような、そんな空気さえ漂っていた。
小さなトラブルが心の底を突く日
たかがペン、されどペン。たったひとつの文具がうまく使えなかっただけで、なんでこんなに気持ちが落ち込むのか、自分でも不思議になる。でも、そういう日ってある。たとえば、朝からバスに乗り遅れたり、靴下に穴が空いてたり、コンビニでレジに長く並ばされたり…。何もかもが噛み合わない日。そんな日の締めに、ペンが出ない。もう、「今日はダメだ」と言いたくなる。
朝から歯車が噛み合わない感覚
あの朝は、目覚ましが鳴らなかった。寝坊して、朝ごはんもろくに食べられず、出かけるときに鍵が見つからない。通勤中も渋滞。ようやくたどり着いた事務所で、待っていたのは大量のメールと依頼の電話。そのうちのひとつは、急ぎの登記申請。そして極めつけは、あのインク切れ。こうして振り返ると、何かの予兆だったのかもしれないと思えてくる。自分が少しずつ擦り減っていたのに、気づかないふりをしていたのだ。
書類ミスより精神的ダメージの方が深い
ペンが出ないという物理的な問題よりも、それによって生じた自分への「がっかり感」の方が大きい。仕事でミスをしても、訂正すれば済むこともある。でも、自分に対する失望感は訂正できない。こんなことで落ち込むなんて、器が小さいなと思いながらも、やっぱり気にしてしまう。まるで、自分がまるごと否定されたような気持ちにさえなる。誰にも責められていないのに、自分が自分を責めているのだ。
心が乱れてる時に限って起こる不運
不思議なことに、疲れているときや気分が沈んでいるときに限って、トラブルって起こりやすい。もちろん科学的な根拠なんてない。でも、自分の中の余裕のなさが、何かを引き寄せているような気がする。ミスも増えるし、無駄に落ち込むし、そしてペンも出なくなる。これが偶然じゃないとしたら、もっと根本から立て直さなきゃいけないのかもしれない。
自分にしか見えない疲れのサイン
周囲から見れば、私はいつもと同じように仕事をこなしているように見えるかもしれない。でも、自分ではわかっていた。最近、集中力が切れやすい。少しのことでイライラする。人と話すのが億劫になる。そういう小さな変化が積み重なって、ペンのインク切れという些細なできごとで、心が決壊してしまったのだと思う。誰にも見えないところで、自分の中に静かに疲れが溜まっていたのだ。
本当は少し休みたかっただけかもしれない
インクが出なかった日、帰り道にふと思った。「俺、ちょっと休みたいんだな」と。でも、休むわけにはいかない。案件は山ほどあるし、事務員にも負担をかけたくない。独身で頼れる家族もいないから、自分が倒れたら全部止まってしまう。だから今日も明日も、ペンを握る。でも、それでも「少し休みたい」という気持ちは、どこかに残り続ける。たまにはその声に耳を傾けてもいいのかもしれない。
また明日もペンを握るしかない
結局、ペンが出なくても、仕事は終わらせなきゃいけない。予備のペンでなんとか署名を済ませて、その日の業務もどうにか乗り切った。でも、自分の中では何かが引っかかっていた。「これでよかったのか?」と。だけど、司法書士という職業は、そういう迷いを飲み込んででも前に進まないといけないのだ。インクが出ない日があっても、また明日はペンを握るしかない。
それでもやるしかない仕事がある
正直、逃げ出したくなることもある。誰かに代わってほしいと心のどこかで願ってしまう日もある。でも、司法書士としての責任がある。登記も、遺言書も、会社の設立も、待っている人がいる。どれも、誰かの人生に関わる大事な仕事。だから、気持ちが沈んでも、今日もまた事務所のドアを開ける。そして、ペンを握る。そういう積み重ねでしか、この仕事は続かないのだ。
書けない日があっても書くしかない
仕事に向かう気力が出ない日もある。誰とも話したくない日もある。でも、それでも書く。字が汚くても、手が震えても、書類を仕上げる。たとえインクが出なくても、別のペンで続きを書く。そうやって、毎日を乗り越えていく。それが司法書士という仕事であり、独立して生きていくということなのだろう。だから今日も、ペンを握る。明日も、たぶん同じように。