今日も机に積み上がる紙と時間の重み
この仕事をしていると、終わりの見えない「紙」との戦いに毎日晒される。依頼者にとっては1件でも、こちらにとってはその日何件も抱えている中のひとつ。それぞれに期限があり、書式があり、注意点がある。気づけば机の上には、名も知らぬ他人の人生の一部が積み重なっている。残業が続いても、誰かに褒められることはない。むしろ「まだ終わらないんですか」と追い打ちをかけられる。そんなとき、ただ書類の山を見て、深いため息をつく。
一枚ずつこなしているはずなのに減らない理由
書類というのは不思議なもので、確かに一枚ずつ処理しているのに、なぜか減らない。たとえば午後に「これで今日は終わりかな」と思っていた矢先、電話一本で新しい依頼が舞い込む。しかもそれが急ぎだったりすると、もう笑うしかない。ある日なんて、事務所に戻って机を見ると、朝よりも高くなっていた書類の山に軽くめまいがしたことがある。処理しても処理しても減らないのは、まるで砂をすくっては崩れる砂山を相手にしているようだ。
急ぎと言われた書類に限って戻ってこない
「急ぎです」「至急でお願いします」と言われて、こちらも急いで仕上げた書類に限って、なかなか返ってこない。登記原因証明情報の原本がない、印鑑証明がまだなど、「急ぎ」と言われるほど段取りが雑になっていたりする。そんなときに思うのは、急ぎとは一体誰のためなのかということ。僕が必死に仕上げても、それを受け取る相手が同じ熱量で動かなければ、書類は机の上に停滞し続ける。その停滞感がまた、自分の孤独を浮かび上がらせる。
誰のためのスピード感なのか分からなくなる
僕ら司法書士は、スピードを求められる仕事ではあるけれど、そのスピードが誰のためなのか、時々分からなくなる。依頼者のため?提携先の不動産屋のため?自分のため?答えを探してみても、いまいち腑に落ちない。結果として、ただただ焦らされ、疲れていくだけの日々が続く。スピード感に振り回されながらも、正確さは絶対に譲れない。そんなジレンマに、毎日神経をすり減らしているのだ。
窓の外の夕焼けに気づいた時には
夕方ふと顔を上げたとき、窓の外が茜色に染まっていることに気づく。書類とパソコンの画面に集中している間に、太陽が沈もうとしている。誰かと一緒にその景色を眺めるわけでもなく、ただ事務所の蛍光灯の下で、ひとり黙々と仕事を続ける。そんな夕暮れは、なぜか心に沁みる。たとえば学生時代、部活帰りに仲間と見た夕焼けとはまったく違う、孤独と責任を背負った大人の夕焼けだ。
空が綺麗だったからこそ心にくる静けさ
綺麗な空というのは、本来なら癒しになるはずなのに、今の僕には逆に辛く感じることがある。誰かと「きれいだね」と言い合えるわけでもないし、ただその静けさが、自分の生活の寂しさを強調してくる。街の喧騒が遠ざかって、静かに夜へと向かう空を眺めながら、なんでこんなに一人なんだろうと、無性に自問自答する。静けさは、時として最も大きな音を持っている気がする。
その色を誰かと分かち合えたらと思ってしまう
「この夕焼けを誰かに見せたかったな」と、ふと思うときがある。LINEを送る相手もいないし、帰りを待っている人もいない。でも、それでも見せたかったという気持ちだけが残る。誰かと何かを「共有する」というのは、こんなにも温かいことだったのかと、独り身の今になって思い知らされる。僕はいつから、「見せたい誰か」がいなくなったのだろう。
だけどこの事務所には僕と事務員しかいない
今この事務所には僕と事務員の二人だけ。彼女も定時が来れば帰ってしまうし、残るのは僕一人。別にそれが悪いとは思っていないけれど、ふとした瞬間に「この静けさに慣れすぎてしまったな」と感じる。世間話も、雑談もない時間が日常になりすぎて、逆に誰かがいたら落ち着かないかもしれない。でも、本音を言えば、もう少し人の声が欲しい日もある。
この仕事を選んだ自分への問いかけ
司法書士という道を選んだのは、自分なりに覚悟があったからだ。独立して、自由に仕事を回して、食っていければいい。そんな淡い理想を抱いて始めた開業だったが、現実は甘くなかった。自由の裏には、全部自分で背負うという責任がついてくる。依頼がなくなる不安、収入が不安定な時期、孤独な時間。どれもが想像以上に重たくて、時々「なんでこんな道を選んだんだろう」と自分に問いかけてしまう。
独立は自由じゃなかったと気づくまで
独立した当初は、「これで自由だ」と思った。誰にも指図されず、自分のペースで仕事ができる。だけどそれは幻想だった。自分の代わりはいないという現実は、休むことすらままならないということだった。朝から晩まで働き、休日も仕事の電話が鳴る。結局、自分の裁量で自由になるのは「責任」だけで、時間も気持ちも縛られっぱなしだったことに、だんだん気づいてきた。
責任と信用の重圧に押しつぶされそうな日々
司法書士の仕事は、信用がすべてだ。だからこそ、ミスは許されない。登記ミスひとつで、信頼を一気に失う可能性もある。事務所の看板を背負うというのは、思っていたよりもずっと重たかった。日々の小さな選択にもプレッシャーがのしかかり、夜になっても仕事のことが頭から離れない。責任と信用は、眠りを浅くさせるには十分すぎる。
それでも辞めない理由を探している
何度か、「もう辞めたい」と思ったことがある。でも、それでも踏みとどまっているのは、自分が誰かの役に立てる仕事をしていると信じているからだ。苦しいことが多くても、依頼者の「ありがとう」に救われる瞬間がある。その一言のために続けているのかもしれない。辞める理由は山ほどあるけれど、辞めない理由も、確かにどこかにある。今はそれを、探しながら働いている。