見積もりが合わない朝の憂鬱
朝イチで見直した見積書に違和感がある。あれ、これおかしいぞ…。前日の疲れも抜けぬまま出社して、事務所で一人確認作業。数字を追えば追うほど、不安が募る。まさか金額、間違えた?すぐに冷や汗が滲んできた。こういう時に限って予定は詰まっている。焦っても数字は変わらない。だけど焦らずにはいられない。「なんでこんな単純な計算で…」と自分を責める声が頭の中に響く。こうして、一日はじめからどんよりとした空気に包まれる。
いつものように計算したはずなのに
何度も使っているテンプレート。いつも通り項目を埋めただけ。それなのに、なぜか数万円の差が出ている。そんなはずはないと目を凝らしても、原因が見えない。ひとつひとつ消去法で確認するしかない。事務員さんは別案件で手一杯。自分の目だけが頼りになる。でも、人間の目ってこういう時ほど当てにならない。焦れば焦るほど、見落とす。普段なら気づけるミスも、この状況ではまるで地雷原だ。
案件がズレたのか 自分がズレたのか
「これはこの案件の数字で、こっちは…え?」別の案件の見積もりと混ざっていた。まさかのコピペミス。自分の中では完璧なルーチンでも、脳が疲れてるとズレるんだ。まるで体内コンパスが狂ってるみたいに。こんなとき、元野球部だったころの「基本を徹底しろ」という監督の声が蘇る。でも、仕事はスポーツと違ってタイムがない。自分で終わりを決めるしかないから、余計にブレやすい。
額面と実務のギャップに胃が痛む
見積もりって、実務と理想の間の綱引きだと思う。安く出せば契約は取れるけど、実際に動いたら赤字になることもある。逆に実務に忠実に出すと、依頼者に高いと思われる。司法書士って、売ってるのは「安心」なのに、価格は「紙1枚」で決まるようなところがある。そのバランスを毎回取るのは、正直しんどい。胃が痛むって言葉が比喩じゃなく本音になる日もある。
お金の話になると突然黙る依頼者
最初はニコニコしてた依頼者が、見積もりの金額を見た瞬間、黙りこむ。その空気が苦手だ。こっちはちゃんと根拠ある数字を出している。でも「こんなにするんですか?」とでも言いたげな表情を見ると、なんだか申し訳なくなる。自分の仕事に対する価値を問われてる気分。しかも、説明しようとすればするほど、逆効果な時もある。
安く見積もると地獄 高く出すと怪訝な顔
見積もりって、安ければいいってもんじゃない。安く出して請け負って、後から「実費が…」なんて言えば、信用を失う。でも最初にしっかり出すと「この人高いな」と思われて、他の事務所に流れてしまう。まるで魔法のバランスを求められてるような気分だ。しかも相場ってものが曖昧な分野だから、余計に「感覚」の部分で見られるのがつらい。
その場しのぎの笑顔が一番しんどい
「あ、はい…そのくらいで…」と依頼者が曖昧に笑うと、こちらも無理に笑顔を返す。その数十秒のやり取りが一番しんどい。腹の探り合いでもあるし、お互い言いたいことが言えないままの不安定な空気。本音では、「それで大丈夫ですか?本当に?」と聞きたい。でも聞けない。それが現場の現実。
本音を言えば「タダ働き」ですよ
過去には、見積もりミスでまるっと「タダ働き」みたいになった案件もあった。何十枚も書類作って、移動して、電話対応して、報酬はほぼゼロ。しかも依頼者にはそれが当然のように思われている節もある。正当な報酬って何だろうと、自問したこともある。「儲けるために司法書士になったわけじゃない」と言い聞かせてきたけど、やっぱりお金は大事。生活の話なんだから。
事務員さんの冷静な一言に救われた日
ある日、見積もりの数字が合わなくて、朝からイライラしていた。顔に出ていたのだろう。事務員さんが「なんかあったんですか?」と聞いてきた。思わず「見積もりがさあ…」と愚痴ってしまった。そしたら一言、「どこかに0一個足してません?」。言われて確認したら、本当にそうだった。思わず笑ってしまった。
焦りで頭が真っ白になった昼下がり
その日は午前中いっぱい数字とにらめっこしていて、昼頃には完全に思考停止状態。電話も鳴るし来客もあるし、脳が処理しきれない。そんなときに限って、こういうミスをする。人って焦ると、一番基本的な部分でつまずく。見直す余裕もないから、間違いにすら気づけない。経験年数が増えても、こういう失敗はなくならない。
「誤差の範囲ですかね?」で肩の力が抜けた
午後、事務員さんがふとつぶやいた。「誤差の範囲ですかね?」たぶん気を使ってくれたんだと思う。そこで初めて、肩の力が抜けた。大きなミスじゃないし、修正もすぐできる。焦ってる自分がバカみたいに思えて、ちょっと笑った。人に話すだけで、問題の輪郭がはっきりしてくることもある。
小さな言葉に詰まっていたプロの優しさ
その事務員さん、若いけれど芯がある人だ。ときどき鋭いことも言うけれど、基本的に優しい。「そんなことで怒っても損ですよ」と笑っていたのを思い出す。たしかに、感情をぶつけたところで解決しない。小さな言葉の積み重ねが、日々の現場を支えてくれている。それがプロってものなんだろう。
結局 自分の確認不足だったと認めるしかない
最終的には、自分の確認不足だったとしか言いようがない。忙しさを言い訳にはできない。毎回同じような案件でも、気を抜くとミスは起きる。だからといって、自分を責めすぎても仕方ない。仕事ってそういうものの繰り返しだ。確認、修正、反省、そしてまた確認。無限ループのようだけど、それがリアルだ。
でも毎回100点は取れないのが本音
どんなに慎重にやっても、完璧にはならない。ミスはなくせても、ヒヤッとする瞬間はゼロにはできない。それが現場の仕事というもの。だから、ミスした自分を責めるだけじゃなく、「次はやらないぞ」と思えるかどうかが大事。点数じゃなく、積み重ねが大事だと信じたい。
ミスは罪じゃない でも痛い
もちろんミスは許されることではない。依頼者にも迷惑がかかるし、信用にも響く。でもそれ以上に、自分の心にダメージがくる。なんというか、期待を裏切ってしまったような気持ち。だからこそ、余計に痛い。失敗の記憶って、なかなか消えないけど、それが次の慎重さにつながるとも思う。
背景にある「疲労」と「慢心」に気づく
今回のミスを振り返ると、明らかに「疲労」と「慢心」があった。やり慣れてる仕事だったから気が緩んでいたし、疲れで集中力も落ちていた。そういうときほど、一度立ち止まるべきなんだと思う。仕事量を見直すとか、休憩を取るとか。自分を守ることが、結局依頼者を守ることにもなる。
同業者と話すとみんな一度は経験していた
後日、別の司法書士と雑談していたとき、見積もりの話をふった。すると「あるあるだよね」と笑われた。なんだ、みんな同じような経験してるんだ。そう思うだけで少し救われる。自分だけが不器用なわけじゃない。みんな失敗しながら進んでいる。
「あるある」には救われる
同業者との何気ない一言に、重い肩の荷がすっと下りることがある。とくに地方では、孤独になりがちだから、こういう「共感」は貴重だ。孤軍奮闘してると思い込んでたけど、違った。みんな、苦労してる。だから、自分も焦らなくていいんだと思えた。
見積もりの精度と信用は紙一重
結局、見積もりひとつで信用が決まることもある。だからこそ、丁寧さと慎重さは忘れたくない。金額の多寡じゃなく、姿勢が見られている。信頼される仕事って、見えないところの積み重ねだと思う。だから、ミスを怖がるだけじゃなく、そこからのリカバリーも大切にしたい。
自分を責めすぎないコツ
最後に、自分を責めすぎないこと。これが一番難しい。でも、続けていくには必要なことだ。失敗したら、認めて、対策して、それで終わり。悩んでもミスは消えないけど、明日を変える材料にはなる。だから、また見積もりの数字に不安を感じたとしても、「あのときもなんとかなった」と思い出せれば、それだけで一歩進める。