登記官のひと言がやけに刺さる日がある
司法書士をやっていると、なんでもない一言が妙に心に引っかかる日がある。普段なら流せるはずの言葉が、なぜかその日に限って、胸にグサッと刺さって動けなくなる。登記官からの指摘や一言は、ただの業務連絡であって、感情がこもっているわけではないとわかっている。わかってはいるのに、なぜかその日はダメージがでかい。寝不足か?気圧か?年齢か?いや、たぶん全部だ。そんな日が、月に何度か確実にあるのだ。
朝から何となくうまくいかない気配
その日は朝から、何となくタイミングが悪かった。トーストは焦げ、コーヒーは薄く、信号には全部引っかかる。事務所についても、プリンターが紙詰まり、パソコンはアップデートの再起動地獄。そういう朝に限って、登記の補正が来ている。事務員に見せると「またですか…」と静かな声。なんとも言えない空気が流れた。この時点で、すでにメンタルHPが30%を切っていた。
こういう日に限って補正がくる
補正自体は大した内容じゃなかった。登記原因証明情報の日付が「〇月吉日」になっていたのがダメだったらしい。前回も確かに言われた記憶がある。でも「口頭でOKって言ってませんでしたっけ?」という疑念が残る。まあ、そんな曖昧な記憶より、登記官のチェックの方が現実なのだ。書類を直して出し直す。ただそれだけ。でも、それが今日は妙に重たく感じるのだ。
電話の一言でダメージ倍増
その後すぐに登記官から電話がかかってきた。「すみませんね、毎度同じ補正で」。そのトーンは責めているというより、むしろ申し訳なさそうですらあった。でもその一言が、なぜか今日に限って突き刺さった。「またか」「またやったのか」「自分は何も学んでいないのか」そんな思いが雪崩のように押し寄せてくる。電話を切ったあと、しばらく書類を見つめたまま、5分くらい動けなかった。
「それ前にも言いましたよね?」の破壊力
登記官も人間だから、多少の口調の差はある。でも「それ、前にも言いましたよね?」は禁句だ。特に事務員の前で言われると、もう二重三重に響いてくる。まるで居残り練習中に先輩から同じノックを永遠に受けているような気分になる。怒られてるというより、能力を疑われてるような気がしてくるのが厄介だ。
事務員の前で言われた日にはもう
そのとき事務員は何も言わなかった。けれど、沈黙がつらい。「私、この人の補正直すために雇われてるわけじゃないんだけどな…」という無言のメッセージを勝手に読み取ってしまう自分がいる。別に何も言ってないし、表情すら変わっていなかったのに、自己嫌悪のスイッチだけがしっかり押された。冷静に考えれば、自分で勝手にへこんでるだけなのに。
プライドが地面に落ちる音がした気がする
その日の午後、クライアントとの面談中にもふとよみがえる。「前にも言いましたよね?」のあの声。相手の話を聞いてるフリをしながら、内心はまだ登記官の声がリフレインしている。プライドって意外と軽くて、ちょっとした風でも吹き飛ぶ。でも拾うのは面倒で、だいたい放置してしまう。そんな日だった。
たった一言で崩れる仕事の流れ
司法書士の仕事は、段取りが命だ。書類を出す順番、チェックのタイミング、全部がスムーズに回っていれば、気持ちも前向きになれる。だが、たった一言で全てが狂うことがある。ひとつ補正がくるだけで、明日の予定がずれ、次の登記も遅れ、クライアントからの問い合わせも増える。ひとつが全部に連鎖してしまうのだ。
ほんの数語なのに書類の山が崩壊する
「印鑑証明の期限が過ぎてますね」それだけの言葉で、数時間かけて作ったセットが無効になる。補正で済めばいいが、出し直しなら最初から全部やり直しだ。印刷、製本、押印、確認、提出。紙の束の前に座って、さっきまでの自分の努力がまるでなかったことになる虚しさを噛みしめる。紙って重いな、と思う。
直し直し直しても「でもそれじゃダメです」
最悪なのは、何度直してもOKが出ないパターンだ。登記官によって基準が違うと感じることもあるが、それを言っても始まらない。こっちが合わせるしかないのだ。「これはこれでよかったですよね?」と確認すると「いや、やっぱりダメです」と言われる。やっぱり、って何だよ。誰に向けても言えない文句を心の中で反芻しながら、またパソコンに向き直る。
それでもやるしかないという現実
どれだけ気持ちが沈んでも、書類は待ってくれない。登記期限もあるし、お客さんの信頼も背負っている。愚痴を言っても状況は変わらない。いや、変わらないとわかっているからこそ、愚痴りたいのだ。でも最後にはやっぱり「やるしかない」に行き着く。たとえ、今日はその一言で心が折れかけたとしても。
結局、今日も書類は減らない
パソコンの前に座り直し、今日やるべき書類にまた取りかかる。頭の中では「もう辞めたいな」という声が何度もよぎるが、それを打ち消すように手を動かす。「今辞めても、明日の自分が困るだけ」と言い聞かせる。そうして今日もまた、誰にも評価されない努力を積み重ねる。
少しでも前に進んでいればいいと自分に言い聞かせる
1ミリでもいい、昨日の自分よりマシになっていれば。そんな風に考えなければやってられない日もある。登記官の一言にへこんだとしても、それで止まってはいられない。前に進まないと、書類の山も、気持ちのモヤモヤも、何も片付かない。だから今日も、印刷ボタンを押す。ため息混じりに。