一人で飲んだ缶ビールが沁みた夜に思ったこと

一人で飲んだ缶ビールが沁みた夜に思ったこと

静かな夜にふと手に取った缶ビール

その夜、いつものように仕事を終えて帰宅した。時刻は22時過ぎ。冷蔵庫を開けると、昨日コンビニで買ったまま忘れていた缶ビールが1本だけ転がっていた。いつもならスルーするのに、その日はなぜか手が伸びた。キンと冷えた缶の感触が手のひらに伝わってきて、「もう飲んでもいいか」と自分に言い訳しながら、プシュッと開けた。テレビもスマホもつけずに、ただひとり、静かな部屋で缶ビールを口にした。その瞬間、思わず「ふぅ」と声が出た。なんだろう、ただのビールなのに、胸の奥にじわっと沁みていった。

気づけば机の上は書類の山

自宅の机も事務所のデスクも、どちらも今や紙とファイルと付箋にまみれている。あの頃は「独立したらもっとスマートにやる」と思ってたのに、現実はどんどん理想から遠ざかっていった。昔の自分は、事務所の風景をオフィスっぽく整えたくて、文具にもこだわっていたが、今は実用性一辺倒。今日も夕方までに仕上げた相続登記の準備のせいで、また一つ机の山が高くなった。ビールを飲みながらその山を思い出して、苦笑いしか出てこない。何のために頑張ってるのか、時々わからなくなる。

仕事を終えても終わらない頭の中

仕事が終わった後も、完全に「オフ」になることは少ない。ふとした瞬間に「あの書類、明日で良かったっけ?」とか、「あのお客さん、来週で合ってたか?」とか、心の中でチェックリストが勝手に動き出す。寝る前にふと思い出して、布団から起きて予定表を確認するなんてことも、もう慣れた。缶ビールを飲みながら、そんな思考を振り払おうとしても、ふわっと思い出が頭の中に戻ってくる。司法書士って、ほんと、気持ちを切り替えるのが難しい仕事だとつくづく思う。

なぜこの一杯が沁みるのか

ただの缶ビール。銘柄も特にこだわりはない。でもこの一杯が、やけに沁みる夜がある。身体が求めているというより、心が「ちょっと休ませてくれ」と言っているような感覚。実は今日も、お客さんとのやり取りでちょっとした行き違いがあった。こちらに非はないと思うけど、相手が不機嫌そうに電話を切ったのがずっと気になっていた。そんなわけで、感情のやり場を見失って、静かな夜にこの一杯が差し込んできたのだと思う。沁みる理由なんて、たいていは疲れているだけなんだ。

頑張っても報われないと思う瞬間

どれだけ丁寧に対応しても、ミスがないように気を配っても、文句を言う人は言う。それが仕事だと割り切っているけど、やっぱり心が削られる日もある。「じゃあ次は別の事務所に頼みます」と言われた瞬間の虚無感。あの一言だけで、一週間頑張って作った書類の意味がなくなったような気になる。コンビニで買った缶ビールを手に取ったのは、そんな日の夜だった。誰かに愚痴りたくても、愚痴る相手もおらず、ため息だけが増えていく。

依頼人の笑顔に救われる日もあるけれど

嬉しい瞬間がないわけじゃない。特に、高齢のお客さんから「本当に助かったよ、ありがとう」と言われた時は、心からこの仕事をやってて良かったと思う。ただ、その「ありがとう」は、いつも突然やってくる。何気ない日常の中に、ふっと差し込む光のように。だから辞められない。だから続けてしまう。しんどい日も、またあの光を待ってしまう。たったひとつの笑顔のために、何十件もの案件に頭を抱える日々が続く。

うまくいかない登記と人間関係

技術的に難しい登記もあるけど、それより厄介なのが「人」だ。相続登記では家族の確執が見えるし、抵当権の抹消ひとつでも、銀行との連絡に振り回される。事務所のスタッフとも、ほんの些細なズレがトラブルの種になる。独立して一人親方みたいにやってるけど、結局は「人付き合い」に一番消耗している気がする。缶ビールを飲んでる時間だけが、誰とも話さず、誰の顔色も見なくて済む、唯一の休憩時間になっているのかもしれない。

元野球部の自分に足りなかったチームプレー

昔は野球部で、声を出して、走って、みんなとぶつかって、それが当たり前だった。でも今は、誰にも頼られないと成立しない仕事なのに、頼るのが下手になった。独立してからずっと、「自分でやるしかない」と思ってきた。でも本当は、チームで支え合う感覚が恋しい。グラウンドで汗を流したあの頃に戻れるわけじゃないけど、今の自分にも、あの時の連携や信頼が必要だったと、夜中の缶ビールが教えてくれる。

恋愛も結婚もどこか遠く感じる

「そろそろ落ち着いたら?」と何度言われたかわからない。でも、忙しさにかまけてきたのは事実。恋愛の始め方すら忘れてしまったし、女性にどう接したらいいのかもよくわからない。優しさだけじゃダメだと気づいた頃には、周りはみんな家庭を持っていた。孤独に慣れたつもりだったけど、たまに襲ってくる寂しさに、対応マニュアルなんてない。

優しさだけではモテないと悟った頃

「優しいね」と言われることはあっても、それ以上に進展することは少なかった。結局のところ、優しさは「都合のいい人」で終わることもある。愚痴を聞いてくれるけど、頼りにはされない。そんな立ち位置が、恋愛でも仕事でも、自分を曖昧にしてきた気がする。缶ビールを飲みながら、ふと思った。「もっと自分勝手でもよかったのかもな」と。

誰かと飲むビールを想像してみる夜

「こんな夜、誰かと一緒に飲めたらいいのに」と思うことがある。特別な会話がなくても、ただ隣に誰かがいてくれたら、それだけで救われる夜もあるはずだ。仕事の愚痴でも、昔話でも、黙って缶ビールを乾杯してくれる誰か。そういう存在が今いない現実に、また一人で「かんぱい」と缶を傾ける。せめて、この文章が誰かと繋がる一杯になればと願って。

それでもまた朝は来る

一人で飲むビールが沁みる夜も、いつか終わる。気づけば空き缶が机の端で転がっていて、眠気がじわじわと襲ってくる。今日も大したことは起きなかった。でも、なぜだか少しだけ心が軽くなったような気がする。また明日、いつものように朝は来る。そしてまた、司法書士としての日々が始まる。それでいいのかもしれない。いや、それしかできないのかもしれない。

泣くほどではないけれどしんどい

涙が出るほど辛いわけじゃない。でも、胸の奥にずっと石ころが詰まっているようなしんどさがある。それを誰にも言えずに抱え続けている人は、きっとたくさんいると思う。少なくとも、自分はそうだ。この文章を読んで、「自分だけじゃなかったんだ」と思ってもらえたなら、それだけで救われる気がする。自分のためでもあるけれど、誰かのためでもある、そんな文章を今書いている。

司法書士を辞めない理由を思い出す

正直、辞めようと思ったことも何度もある。でも、たった一人の「ありがとう」や、「先生がいてくれて助かりました」の一言が、全てを帳消しにするほどの力を持っている。だから、また明日も事務所のドアを開ける。それが、自分にとっての生き方なのかもしれない。缶ビールが沁みる夜を、ただの疲れで終わらせないように。今日も、明日へとつなげていこう。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。