簡単そうな登記ほど後で詰む理由

簡単そうな登記ほど後で詰む理由

最初に聞いたときは簡単そうだった

「これ、簡単な登記なんですけど」と相談に来られる方、結構います。最初の印象では、こっちも「はいはい、そんなに複雑じゃなさそうですね」と思ってしまう。だけど、蓋を開けてみると、まあ面倒なケースがゴロゴロ出てくる。特に相続が絡む案件。登記自体の手続きは確かに“形式上”簡単なことが多い。でも実際は、書類を集める段階から人間関係や感情、思惑が入り交じって、どこかしらで詰まる。依頼人が「簡単」と言ってる案件ほど、実務的には厄介なんだと、何度も痛感してきた。

相続登記なんてすぐ終わると思っていた

ある相続登記の依頼で、「父が亡くなって、家の名義を私に変えたいだけなんです。兄弟もみんな了承してますから」と言われた。ここで「すぐ終わるな」と油断した自分を今でも叱りたい。蓋を開けると、兄弟の一人が海外在住、しかも連絡がつかない。住所地の証明書類が取れない、本人確認ができない。結局、書類を送るだけで3ヶ月。さらに、相続人の一人が実は養子縁組していたという事実が後から出てきて、戸籍の取り直し。あれよあれよという間に半年が経っていた。

書類を集めるだけでこんなに手間取るとは

「戸籍だけ取ればいいんですよね?」と軽く聞かれるけれど、実際にはその戸籍が問題なんだ。昭和時代の改製原戸籍、筆で書かれた文字を解読するところから始まる。役所の対応もまちまちで、「こちらでは交付できません」と言われた日には、こっちが頭を抱える。遠方の本籍地に郵送請求、戻ってきたと思ったら肝心な期間が抜けてる。たかが書類、されど書類。しかもそれが全部揃って初めて「簡単な登記」が可能になるんだから、手続きの“簡単さ”は幻想に近い。

相手が何人もいると誰も返事をくれない

共有者が複数いる案件では、連絡ひとつとっても神経を使う。LINEグループでも作ってくれてればいいけど、だいたいは音信不通の誰かがいる。手紙を送っても返信なし、電話も出ない。返事が来たと思ったら、「内容証明で送ってください」とか言い出す人もいる。こういうとき、「誰かまとめ役はいませんか?」と聞くけど、大抵「いないです」って返ってくる。簡単に終わると思ってたら、最後の同意書が揃わず数ヶ月放置。誰が悪いわけでもないけど、時間だけが無情に過ぎていく。

依頼人が簡単って言うときほど危険信号

「登記簿上の名義を変えるだけです」と言われると、確かにそれだけなら5分で終わる。だけど、その裏にある事情を洗っていくと、もう10年以上放置されてる土地だったり、住所変更が未了だったり。司法書士としての経験上、「簡単ですよ」と言われた仕事ほど警戒するようになった。依頼人に悪気はないんだけど、法務局の実務や求められる書類の煩雑さは、経験してないとわからない。それを説明して納得してもらうのもまた一苦労だ。

自分でやろうとして断念された案件たち

「最初は自分でやろうと思ったんですけど…」というパターン、多すぎる。法務局の案内を読んで、自分でやれると思ったら、途中で「これ、何の書類だ?」と混乱。で、最終的にうちに相談に来る。しかも、自分で途中までやった分だけ逆に複雑になってる。下手に書類を出しちゃって訂正印まみれとか、法務局に補正指示もらって手詰まりになってたり。「もうわからないから任せます」と投げられて、そこからこちらがリカバリーしていく。倍の手間。

途中で投げ出された書類の山にため息

机の上にドサッと積まれた封筒と紙束。「これ全部関係書類なんですけど、見てもらえますか?」と言われた瞬間、心の中で「うわぁ…」と声が出る。郵送されてきた戸籍がバラバラ、順序も整理されてない。しかも古いものはコピーで、原本がない。こういうの、仕切り直しが必要になる。結局、また一からやり直して、費用も時間も二重三重にかかる。それでも「簡単にできると思ったんです」と言われると、怒る気にもなれず、ただ苦笑いするしかない。

私たちが代わりに苦労するしかない現実

依頼人が途中までやって混乱して投げた案件、誰が責任取るわけでもない。結局はこっちが全部抱えて処理していくことになる。複雑になった分、費用を上乗せしたいけど、なかなか言い出せない。「最初に言った金額で」とか言われると、グッとこらえるしかない。そういう現場の現実って、たぶん外からは見えないんだろうなと思う。だから今日も静かに、誰にも知られず、紙とにらめっこしている。

手続きがシンプルなほど奥が深い

形式上の「簡単」と、実務上の「簡単」は違う。登記申請書だけ見れば、項目も少ないし記載も単純。でも、そこに至るまでの過程がとんでもなくややこしいことがある。関係者の確認、書類の収集、委任状の整備、何よりも“人間関係”の調整が大きい。登記って、結局は人と人との間にある「権利」をどう書面化していくかという話。だから、紙一枚の向こうにあるドラマを軽視してはいけないと思う。

法務局は説明してくれない落とし穴

「法務局で聞いたらこれで大丈夫って言われました」と言って持ってくる書類、実際には不備だらけ。確かに窓口での応対はしてくれるけど、あくまで“相談”レベルでの話。実際に審査するのは登記官であって、しかも担当によって言うことが微妙に違う。だからこそ、こっちも「この書き方でいいのか」「補正が出るかどうか」まで経験で読む必要がある。そういうの、依頼人には伝わらないんだよなぁ。

記載内容にズレがあると一発アウト

登記原因証明情報や委任状に記載する住所や氏名。住民票とちょっとでも違ってたらアウト。「全角」「半角」「スペースの有無」まで見られることもある。ひどいときは、登記が完了してから訂正指示が来て、再提出するはめに。依頼人には「なんでそんなことで?」って顔されるけど、そういう世界なんです。自分でも正直納得いかないことはある。でも、それが“法務局の世界”というしかない。

簡単なミスが信じられない結果を招く

昔、委任状の押印がシャチハタだったというだけで、全部やり直しになったことがある。しかも、もう一人の相続人が海外に行っていて、書類の取り直しに1ヶ月。たったひとつのミスが、スケジュールを全崩壊させた。それ以来、「印鑑だけは気をつけてくださいね」と何度もしつこく言うようになった。小さいミスほど、実は取り返しがつかない。だからこそ、“簡単な手続き”ほど慎重にならざるを得ないんだ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。