ひと夜かぎりの登記簿

ひと夜かぎりの登記簿

  1. 夜の来訪者と更地の謎
    1. かつて建物があったはずの土地に、謎の依頼人が現れる。
  2. 登記簿の空白と過去の地上権
    1. シンドウは「法定地上権」という単語にうっすらと既視感を覚える。
  3. サトウさんと失われた所有者
    1. 鋭いサトウの推理が、30年前の契約に光を当てる。
  4. 廃墟となった夢の跡地
    1. 現地調査で見つかった不自然な境界杭と、隠された倉庫跡。
  5. 幻だったはずの名義変更
    1. 登記簿にないはずの「仮登記通知」が、なぜか机に残されていた。
  6. やれやれ、、、また幽霊と来たもんだ
    1. 深夜に現れる依頼人の正体に、シンドウは頭を抱える。
  7. 昭和の契約と令和の齟齬
    1. 過去の地役権設定が現行法と噛み合わない罠。
  8. サザエさん時空に閉じ込められた土地
    1. 何度も繰り返される売買と、その裏にある謎の人物。
  9. 怪盗ルパンのような筆跡
    1. 残された名義書換届の文字は、かつての詐欺師のものと一致する。
  10. 隠された地中の証拠
    1. 掘り起こされた杭の下から見つかった一枚の契約書。
  11. サトウさんの塩対応と温かい一言
    1. 「だから言ったじゃないですか」と言いつつも、不思議と安心感がある。
  12. シンドウのうっかりと執念の照合
    1. 旧法と現法の微妙なずれを突いて、シンドウが真相にたどり着く。
  13. 登記は真実を語るか
    1. 地面の下に埋まっていたのは、法定地上権か、それとも、、、
  14. 一夜の夢だったのかもしれない
    1. すべてが片付いた朝、依頼人の名刺はどこにも見当たらなかった。

夜の来訪者と更地の謎

かつて建物があったはずの土地に、謎の依頼人が現れる。

深夜、事務所のチャイムが鳴った。時計の針は午後11時を指している。こんな時間に訪ねてくる者など、普通はろくなことがない。 ドアを開けると、白髪交じりのスーツ姿の男が立っていた。「登記簿にない地上権について、どうしても今晩中に相談したい」と、妙に切迫した様子で言った。

登記簿の空白と過去の地上権

シンドウは「法定地上権」という単語にうっすらと既視感を覚える。

登記簿謄本を確認すると、土地には所有者がいたが、建物の記録がどこにもない。依頼人はかつてそこに実家があったと主張するが、証拠となる書面は持っていなかった。 「法定地上権って、昭和の頃の話じゃないですか……」とつぶやきながら、シンドウの脳裏に、どこかで見た古い判例が浮かび上がった。

サトウさんと失われた所有者

鋭いサトウの推理が、30年前の契約に光を当てる。

翌朝、眠たげに出勤してきたサトウが、無言でシンドウの机に1枚のコピーを置いた。「この土地、30年前に底地権と建物所有者が分かれてました。今はもう、建物が取り壊された後みたいですね」と、静かに言う。 建物が滅失されたあとも、法定地上権の主張ができる場合がある。だが、必要なのは“その当時の建物の存在を証明するもの”だった。

廃墟となった夢の跡地

現地調査で見つかった不自然な境界杭と、隠された倉庫跡。

シンドウとサトウは現地に足を運んだ。そこには雑草の茂る更地と、地面に打たれた古いコンクリ杭が残っていた。 「倉庫が建ってたんでしょうね」とサトウが指差す先には、朽ちた基礎が埋もれていた。地面を蹴ると、金属音が響いた。鉄の扉のようなものが、土の下にあった。

幻だったはずの名義変更

登記簿にないはずの「仮登記通知」が、なぜか机に残されていた。

事務所に戻ると、シンドウの机の上に一枚の書類が置かれていた。誰が置いたのか分からない。 それは、建物の所有権移転仮登記の申請書だった。しかも、その申請日付は昭和62年。現在の登記簿には載っていない。「やれやれ、、、まるで幽霊の登記だな」とシンドウはため息をついた。

やれやれ、、、また幽霊と来たもんだ

深夜に現れる依頼人の正体に、シンドウは頭を抱える。

深夜、再びチャイムが鳴った。昨夜と同じ男が立っていた。しかし、その姿にはどこか違和感があった。服が古臭く、匂いもどこか土に染みついたようだった。 「あなたの登記簿は存在しません」と告げると、男はうっすらと笑い、こう言った。「それでも、ここが私の家だったのです」。その瞬間、男の姿がふっと薄れたように見えた。

昭和の契約と令和の齟齬

過去の地役権設定が現行法と噛み合わない罠。

サトウが調べた古い契約書には、確かに建物の存在と土地の使用契約が記されていた。しかしその文面は、現在の不動産登記法にはまったく合致しない。 「これ、手書きの借地権契約書ですね。法定地上権とはちょっと違うかも」とサトウは言いながらも、欄外に小さく書かれた“建物の構造”に注目した。

サザエさん時空に閉じ込められた土地

何度も繰り返される売買と、その裏にある謎の人物。

不思議なことに、この土地は過去30年間で6回も所有者が変わっていた。しかも、その全てに“名義人不詳”の仮登記が付きまとっている。 「まるでサザエさんの町内みたいに、いつまでも同じ時間をループしてるようだな」と、シンドウは皮肉っぽく笑った。

怪盗ルパンのような筆跡

残された名義書換届の文字は、かつての詐欺師のものと一致する。

筆跡鑑定の結果、登記申請書の筆跡は、かつて東京で摘発された不動産詐欺事件の中心人物と一致した。 「この人物、死んだはずじゃ……」と呟いたとき、サトウが冷たく言った。「死んだってことにされただけですよ、紙の上では」

隠された地中の証拠

掘り起こされた杭の下から見つかった一枚の契約書。

調査の許可を得て、地中を一部掘り返すと、湿気にまみれたビニール袋が出てきた。中には古びた書類と写真。 写真には、確かにそこに建物が建っていた証拠が写っていた。そして、その建物の玄関には“山本”の表札が写っていた。

サトウさんの塩対応と温かい一言

「だから言ったじゃないですか」と言いつつも、不思議と安心感がある。

「だから言ったじゃないですか、幽霊より生きてる人間のほうが厄介なんですよ」とサトウが静かに笑った。 塩対応だが、その言葉にはどこか人間味があった。シンドウは苦笑しつつ、ホットコーヒーを差し出した。「やっぱり俺、うっかりしてるな……」

シンドウのうっかりと執念の照合

旧法と現法の微妙なずれを突いて、シンドウが真相にたどり着く。

書類の法的な効力を裏付けるため、シンドウは旧民法の条文と当時の通達を調べ続けた。そして、昭和62年の通達が今も有効であるという一点を突き、 仮登記の効力を一部認めさせる道筋を見出した。うっかり者でも、時には本気を出すのだ。

登記は真実を語るか

地面の下に埋まっていたのは、法定地上権か、それとも、、、

最後に、役所に提出された報告書にこう記されていた。「該当土地における法定地上権の可能性は、写真記録と旧契約の整合性からして極めて高い」。 ただし、その効力はすでに時効消滅のリスクがある。真実は地面の下に、あるいは人の記憶の中にだけ残る。

一夜の夢だったのかもしれない

すべてが片付いた朝、依頼人の名刺はどこにも見当たらなかった。

片付いた書類を整理していると、ふと気づく。あの依頼人の名刺が見当たらない。シンドウもサトウも、確かに受け取った記憶がある。 「やれやれ、、、夢だったのかもしれんな」とシンドウが漏らすと、サトウはコーヒーを一口飲みながら言った。「でも、夢にしては面倒すぎましたね」

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓