親族間売買はトラブルの温床か値段でもめるときの修羅場

親族間売買はトラブルの温床か値段でもめるときの修羅場

静かに始まった親族間売買のはずだった

親族間の不動産売買って、一見するとスムーズに進みそうなイメージがあるかもしれません。「身内だから話が早い」とか「お互い気心が知れてるから揉めない」なんて思いがちですが、実際はその逆。むしろ、甘えや遠慮が入り混じって、余計にややこしくなるケースが多いんです。私が経験したある事例では、最初は和やかな空気でスタートしたものの、値段の話になった瞬間に空気が一変。家族だからこその遠慮と本音がぶつかり合い、地雷原を歩くような感覚になりました。

最初は仲良く進む予定だった話

その親族間売買の話は、依頼者である兄弟同士から持ち込まれました。兄が所有する家を、弟が購入したいという内容。話の流れとしては、「税金対策にもなるし、ちゃんと手続きしておきたい」とのことでした。書類の準備も順調で、私は「これは早く終わりそうだな」と内心思っていました。ところが、正式な売買価格を詰める段階になって、空気が一変。「え、そんな値段で売るつもりだったの?」と弟さんが言い出したのが発端です。

「家族なんだから話は早い」なんて幻想

多くの方が「親族間だから安くしてくれるだろう」と期待しますが、それが現実とズレていると一気に不信感が生まれます。このケースでは、兄が「市場価格より少し安め」のつもりで値段を提示したのに対し、弟は「固定資産税評価額よりももっと低くなる」と思い込んでいた。お互いの認識がズレているのに、それを事前に確認しないまま話を進めてしまったのです。

査定額の話が出た瞬間に空気が変わった

「不動産業者に査定出してみたら、もっと安かったよ」と弟が言い出したとき、兄の顔がピクッと動きました。その後は、兄が「業者の査定なんて安く出るに決まってる」と反論し、完全に口論モード。私も間に入るしかなく、「価格については第三者の評価をベースに進めたほうが良いのでは」と提案しましたが、すでに両者の関係性にヒビが入っていて、場の空気は重たかったです。

誰がいくらで買うのかという重たい議題

売買金額の設定は、不動産売買において重要な要素です。でも、相手が親族になるとそこに“感情”が混ざってくるのがやっかいなんですよね。「情」が「常識」を上回ってくるというか。特に、親族内で“格差”を意識するような関係性があると、値段交渉は地雷原と化します。お金の話ほど、親族間ではこじれやすいものはありません。

「相場より安くしてくれるよね?」の圧

弟さんの「安く買える前提」で話を進める感じ、これが地味に厄介なんです。「どうせ身内だから、ちょっとぐらい安くしてくれるでしょ」という無言の圧力。売主側の兄からすれば、「なんで家族だからって損しなきゃいけないんだ」と不満が募る。両者とも自分の感覚が“常識”だと思ってるから、話が噛み合わない。私は終始「どちらの味方でもない第三者です」と言い続けるしかありませんでした。

安く売れば他の親族から横やりが入る

そして、さらにややこしいのが「他の親族の存在」。仮に兄が弟に好意で安く売ったとしますよね。すると今度は「なんで○○家の長男だけ得してるの?」「私たちには何もないの?」と、親族間で嫉妬の連鎖が始まるんです。このケースでも、売却の噂が広まってしまい、親戚の叔母さんから「本当はいくらで売ったの?」と電話がかかってきました。うっかり口を滑らせたら火に油です。

高くすれば「金の亡者か」と言われる理不尽

一方で、兄が適正価格で売却しようとすると「兄貴、金に汚いよな」と陰で言われる。何をしても誰かが文句を言う構図。本人たちの間で納得できていたとしても、親族の誰かが不満を抱けばそれが波紋のように広がっていく。私のような司法書士が中立で関わるのは、こうした場の「調整役」になる意味もあると、改めて感じた一件でした。

司法書士という立場と親族の間で揺れる心

司法書士という職業は、法的な処理を淡々と進めるだけのように見えるかもしれませんが、実際は人間関係のしがらみに巻き込まれることも多々あります。特に親族間売買のような案件では、当事者の気持ちの板挟みになることも少なくありません。私自身も、この案件を通して「中立であることの難しさ」を痛感しました。

依頼者は親戚でも「第三者」として扱うべきか

この件では、弟さんが昔から私の知人ということもあり、最初は少し気を許していた部分がありました。でも、それが仇になったのか、「先生は弟の味方ですよね?」と兄に言われてしまったんです。それ以来、親族や知人が絡むときほど、プロとして徹底的に第三者の立場を貫くことの重要性を自分に言い聞かせるようになりました。

情に流されると後々後悔する

私は基本的に情に弱いタイプです。頼まれると断れないし、困ってる人がいたらつい力になりたくなる。でも、仕事ではそれが仇になることもある。実際、この案件でも情に流されて「ちょっとぐらい口添えしてあげようかな」と思った瞬間がありました。けれど、その一言が事態をこじらせかねないことを考えて、なんとか飲み込みました。

「身内だからこそ契約書は丁寧に」の本音

親族間売買にこそ、契約書は丁寧に、抜け漏れなく作るべきです。むしろ他人よりも細かく記載するぐらいでちょうどいい。曖昧にして「まあ家族だし」で済ませると、いずれ「そんなつもりじゃなかった」の応酬になるからです。私は今でも、親族間の案件が入ったらまず「書面第一、証拠第一」を意識しています。それが一番、平和を守る方法なのだと、身をもって学びました。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。