誰とも喋らずに一日が終わることが増えた
司法書士の仕事をしていて、ふと気がつくと今日一日誰とも喋っていなかった、なんてことが本当にある。朝から晩まで、依頼者とのやりとりはメールかLINE、あとは封筒に書類を詰めて送るばかり。声を出したのは電話の留守電に向かって「よろしくお願いします」と言った一言だけ。事務員さんも黙々と仕事をこなしていて、互いに必要最低限の会話だけ。これが日常になってしまった。
書類としか向き合わない日常
業務の中心は登記関係や契約書作成などの書類作業。これがまあ、圧倒的に多い。何時間も机に座って黙って紙と格闘しているうちに、いつの間にか外は暗くなっている。人間相手に仕事をしているはずなのに、実際に向き合っているのはほぼ紙。郵便を出しながら「行ってきます」、戻ってきた封筒を開けながら「おかえり」と口にして、我に返って自分が怖くなる。
朝から夕方まで無言で押印作業
とくに不動産登記の申請が重なった日は、ひたすら押印とチェックの繰り返し。朝から夕方まで誰とも喋らず、朱肉の乾く音だけが小さく響く事務所内。これはこれで集中できるけど、気がつくと口が渇いていて、声を出そうとするとかすれている。こんな日が月に何回もあると、たまに来る来客対応に軽くパニックになる。
相手が人じゃなくて封筒な件
依頼者と顔を合わせることがほぼない今、書類のやりとりがすべてを支配している。A4の白い紙と茶封筒が、唯一の「会話相手」。今日も「お世話になります」と手紙を書いて封筒に入れる。それだけで一仕事終えた気になる。人と会わなくても成立してしまう業務フローが、便利なようで、どこか寂しさを伴うのだ。
事務所にいても人の気配は少ない
一応、事務所には事務員さんがいる。でも彼女は本当に優秀で、こちらが指示する前にテキパキと処理をしてくれる。その反面、会話も最小限で済んでしまう。こちらとしてはありがたいのだが、昼食のときも各自で静かに済ませるし、空気はいつもひんやりとしている。人がいても、会話がなければ孤独は消えない。
事務員さんは静かにテキパキ
たまに「あ、これ提出しておきました」と声をかけてくれるけれど、そこから雑談が始まることはない。もちろんこちらの性格もあるのだろう。「忙しいから、話しかけづらい」と思われているかもしれない。でも本当は少しだけ、誰かと何気ない会話がしたいのだ。「最近暑いですね」でも「お昼どうするんですか」でもいい。
会話があるとしたらコピー機のエラー音
「ガガガッ…」という音が事務所に鳴り響くと、唯一の反応が生まれる。「また詰まりましたね」と小さく苦笑いしながら、二人で用紙を引っ張り出す。この数十秒だけが、人間らしい時間。あとはまた、無言の世界に戻る。まるで修行僧だ。そう思うと、自分が何の仕事をしているのか、よくわからなくなる時もある。
依頼者と話すことがある日のほうが少ない
登記の依頼がネット経由で来ることが増え、対面での相談はほとんどなくなった。電話ですら「メールでお願いします」と返される始末。もちろん効率的だし、誤解も減るのだが、そのぶん「人と関わる感覚」がどんどん失われていく。話す力、聞く力、表情を読む力――それらが薄れていくのが怖い。
オンライン化が進んで逆に孤独
「直接行かなくて済むならその方が助かります」と言われるのは当たり前になった。コロナ禍を経て、それが完全に定着した。便利だし、こちらも移動せずに済むのは楽。でも、事務所にずっと一人で座って、届いた書類を確認して返信するだけの毎日は、妙な空虚感を残す。効率化は、人間関係を削ってしまった。
郵送とメールとLINEで完結する手続き
「何月何日までに登記完了できますか?」「費用は?」といったやりとりはすべてテキスト。こちらも即座に返信し、相手も納得すれば、あとは書類を送ってもらうだけ。一度も声を聞かずに、手続きが終わってしまうのが普通になっている。感謝の言葉はあっても、それが「ありがとう」ではなく「助かりました」と書かれているだけなのが、ちょっとだけ寂しい。
直接お会いせずに済むならという声の現実
忙しい依頼者にとって、時間を取らずに手続きできるのは大きなメリットなのだろう。だからこそ、顔を合わせること自体が「手間」になってしまっている。でもこちらとしては、たまには顔を見て「よろしくお願いします」「ありがとうございました」と言い合いたい気持ちもある。効率の陰で、人間らしさがそぎ落とされている。
人と話すとちょっと緊張してしまう
久々に依頼者が事務所に来た日、うまく言葉が出てこなかった。「あっ、えーと、こちらにご記入を…」と口ごもり、自分でも驚く。以前はこんなことなかったのに。話し慣れていない自分が、すっかりコミュ障っぽくなってしまったようで、自己嫌悪すら覚える。人と話す機会がないと、話す力も鈍っていくのだと痛感する。
久々に話したら声がかすれていた
「こんにちは」と言っただけで喉がイガイガした。それほど声を出していなかったのだ。電話応対すらなく、挨拶もない日が続けば、喉も鈍るのだろう。これはもう、声帯の筋トレが必要なのではないか。自分でも可笑しくなって、思わず「やばいな」と呟いた。
うまく言葉が出てこなくて焦る
「委任状の…あの、ここの、いや、あ、そっちじゃなくて…」と指差しながら説明しようとして、完全に言葉が詰まった。目の前の依頼者がやや不安そうな顔をしているのが分かる。それを見てさらに焦ってしまい、冷や汗をかく。人と接しない時間が長すぎると、こういう些細なやりとりすら負担になることに気づかされる。