ドラマみたいな毎日なんてこない

ドラマみたいな毎日なんてこない

華やかさとは無縁の一日が始まる

朝、カーテンを開けても特別な光が差し込むわけでもなく、スマホの通知も広告とニュースだけ。今日もまた、同じような一日が始まる。司法書士の仕事は「人の人生に寄り添う仕事」と言えば聞こえはいいけれど、実際には静かに黙々と書類に向かう日々。昔、野球部で「今日は絶対打てる気がする」って感覚があったけど、この仕事ではそんな高揚感に出会うことはほとんどない。正確に、丁寧に、でも感情を抑えて。そんな日常が、今日も始まる。

テレビのような展開を待っても来ない

ドラマの中では、依頼者が涙ながらに語る過去があって、それを受け止める法律家の姿がある。だけど現実は、そうじゃない。依頼者は必要な情報だけを淡々と話し、こちらもそれを受け取って処理するだけ。誰かの人生の節目に関わっているはずなのに、その瞬間は意外と味気ない。たとえば相続登記。家族を亡くした直後の手続きだというのに、淡々と「印鑑証明を3通お願いします」と口にしている自分がいる。感情を挟めば、手続きに支障が出るのも知ってるから。そんな自分に、少し冷たさを感じてしまう。

郵便受けにドラマは届かない

事務所に届くのは、役所からの郵便や法務局の照会ばかり。昔は手紙を開けるたびにワクワクしたこともあったけど、この仕事に就いてからは、封を切る前から中身がわかるようになった。予定通りの内容、予定通りの処理。スリルやサプライズとは無縁の業務が積み重なる日々。まるでBGMのない舞台で、セリフだけを繰り返しているような感覚になる。

始業前のコーヒーだけがささやかな演出

毎朝、事務所のコーヒーメーカーで淹れる1杯のコーヒー。それが唯一の演出らしい演出かもしれない。香りだけはドラマっぽいけど、飲み終えたら現実に戻る。そこに待っているのは、昨日と同じ登記申請、同じような相談、同じフォーマットの書類。手帳にはびっしりと予定が書き込まれているのに、心はどこか空白のまま。

登場人物は事務員と電話の向こうの誰か

この仕事で接するのは、大抵が事務員と電話の相手。誰かと会話しているようで、どこか孤独でもある。独身で、家に帰っても話し相手はいない。だからといって、事務所で「会話」があるかといえば、それもまた淡々とした業務連絡ばかり。人との接点はあるのに、心の交流は少ない。そういう日が、当たり前になっていく。

誰とも目を合わせずに進む書類作業

机に座ってパソコンと向き合う時間が、日に何時間あるだろう。ときには8時間以上、顔を上げるのは郵便を取りに行くときくらい。窓の外の風景も、変わり映えしない。ふと「このまま歳をとるのかな」と思うと、背中が重くなる。せめて誰かと雑談でもしたいけれど、事務員も仕事に集中していて、そのタイミングを逃す。

会話よりも印鑑が多くを語る

実印の重みが、言葉よりも現実を突きつけてくる。法務局へ提出する書類に押された一つひとつの印鑑が、依頼者の決意や事情を物語る。でもこちらはそれを「証明書の添付を忘れないように」としか捉えられない。そうじゃないと、やっていけないから。時々、自分の心の鈍さに不安になる。

孤独は業務の副産物

誰かと深く関わることを避けているわけではない。でも、距離をとらないと疲れてしまう。感情に引っ張られていたら、毎日の業務は回らない。そうして、自分の周囲にはだんだんと壁ができていく。昔の友人に久しぶりに連絡しようとして、結局やめた日があった。何を話せばいいのかわからなくなっていた。

依頼者の話に耳を傾けるけど

時々、依頼者がふと漏らす本音に心が動くことがある。「本当は、兄とは話したくなかったんです」とか「この家を出るのは寂しいけど仕方ないんです」とか。でもその感情に応えてしまえば、仕事が進まなくなる。優しさと冷静さ、その間で揺れる瞬間が、毎日何度か訪れる。

物語を背負うのは自分じゃない

それぞれの依頼者に、それぞれの人生の物語がある。でもその物語の主人公は当然ながらこちらではない。自分は脇役どころか、台本に名前すら載らない存在かもしれない。にもかかわらず、書類の不備ひとつで全体の流れが止まってしまう。そのプレッシャーだけは、ずっと重い。

感情は封印 手続きは正確に

感情を優先してしまうと、見落としやミスにつながる。だからこそ、機械のように正確さを重視する。まるで野球のキャッチボールのように、相手の胸に届く送球を心がける。だけど、それが続くと今度は「人間味がない」と言われることもある。その間でバランスを取るのは、実はとても難しい。

共感しても 割り切るのが仕事

依頼者の話に共感することもある。でも、そこに感情移入しすぎては仕事にならない。あくまで法的な処理を担当するのが司法書士。だけど時々、心のどこかで「もう少し寄り添ってもいいのでは」と思ってしまう。その葛藤が、地味な日々の中で自分を揺さぶる。

それでも明日はやってくる

どれだけ静かで地味な日々でも、時間は進む。派手な展開はないけれど、確実に誰かの人生の一部を支えている実感も、少しはある。ドラマみたいな毎日じゃないけれど、それでもこの場所で、今日も書類に向き合っている。それが現実であり、自分の物語だ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓