独身のまま商業登記を終えた日の夜に思ったこと

独身のまま商業登記を終えた日の夜に思ったこと

誰にも見送られず登記申請を提出した朝

会社設立の登記申請書を持って法務局に向かった朝、電車の中でふと「これって人生の節目なんだよな」と思いました。でも、特別な感情はありませんでした。緊張もなく、誰かに報告する気持ちもなく、ただ事務的に書類を提出しに行くだけ。窓口の職員に淡々と受け取られ、「不備があればご連絡します」と言われたその一瞬で、自分が会社を作ったんだという実感が少しだけ湧いてきました。だけど、その感情もすぐに薄れていきました。

静かな役所のロビーで聞いた自分の足音

提出を終えてロビーに出た瞬間、足音だけが響く静かな空間に、なんとも言えない寂しさを感じました。法務局という場所には、日々たくさんの人が出入りしているはずなのに、その日は妙に静かで、自分の靴音がカツンカツンと響くのがやけに耳についたのです。手元には、コピーを取って控えにした申請書だけが残り、それを折りたたんでカバンにしまったとき、まるで何かを片付けてしまったような気がしました。

周りはペアか家族連れ自分だけが一人

駅前のカフェでコーヒーを飲んでいると、ふと隣の席が目に入りました。設立登記を終えたばかりのような若い二人が、笑顔で「お疲れさま」と言い合いながら乾杯していたのです。その姿を見て、自分の隣には誰もいない現実に、心がずしんと重くなりました。「なんで俺は一人なんだろう」と思ってしまった瞬間、コーヒーの味すらよく分からなくなりました。

結婚してたらこの瞬間も違ったのだろうか

結婚していたら、もしかしたら「おめでとう」と言ってくれる相手がいたかもしれません。ちょっと高いレストランを予約して、乾杯して、登記簿謄本を一緒に見て、「すごいね」と笑ってくれる顔があったかもしれない。だけど現実は、一人で役所に行って、一人で帰って、一人で缶ビールを開けるだけ。その差がこんなにも大きいとは思っていませんでした。

事務員には話さず一人で進めた設立登記

普段は一人で事務所を回しているようなものです。事務員さんはいるけれど、設立登記の話なんてしても「へえ、そうなんですね」で終わるのが目に見えていたし、変に気を遣わせたくもなかった。だから、最初から最後まで一人で準備して、一人で完了させました。でも今思うと、少しでも話しておけば、こんなにも孤独を感じずに済んだのかもしれません。

変な気を遣わせたくないという独りよがり

「気を遣わせたくない」とよく言いますが、本当は自分が気を遣われることに耐えられないだけなんですよね。お祝いされたら、どう反応していいか分からない。プレゼントなんてもらったら、逆に申し訳なく感じてしまう。だから、全部一人で済ませようとする。でもそれって、周囲との関係を自ら閉じてるようなもので、結果的に自分が孤立してるだけなんだと気づきました。

雑談すら減ってきた最近の事務所内

最近は、事務員との雑談も減ってきました。忙しいから仕方ないとはいえ、事務所が静まり返っている時間が増えてきたのは事実です。BGM代わりに流していたラジオの音も、だんだん気にならなくなってきて、それがまた孤独を強調するような感じになっています。声を出さずに1日が終わることも珍しくなくなりました。

仕事は増えるのに心はどこか空っぽ

ありがたいことに仕事は増えています。紹介も増え、顧客の層も広がってきました。でも、そのぶん「誰かに相談したい」「喜びを分かち合いたい」という気持ちが満たされないまま蓄積されていく。夜にふと、今日一日で自分が感じた感情を誰とも共有していないことに気づくと、心が空っぽのように感じることがあります。

登記完了メールを見たときの無音の喜び

登記が完了したというメールが来たのは、夕方でした。スマホに「登記が完了しました」とだけ書かれた通知が来て、それを見たとき、なんとも言えない無音の喜びがありました。誰にも気づかれず、誰にも伝えず、それでも確かに自分が一つのことを成し遂げたという実感。それは静かで、でも確かにそこにある感覚でした。

達成感というより脱力感が先にきた

登記完了の通知を見たとき、「やった」と思う前に「終わったか……」という気持ちが先に来ました。肩の力が抜けて、どっと疲れが出た。たぶん、張り詰めた緊張が一気に解けたんだと思います。けれど、それを共有する相手がいないからこそ、達成感がどこか行き場を失ってしまったような気がしました。

スマホを置いたあと空を見上げるだけの夜

登記完了メールを確認してから、スマホを机の上に置いて、ぼんやりと天井を見上げました。そのまま椅子に身を預けて、しばらく動けませんでした。まるで空に何か答えがあるかのように。夜風が入る窓を少しだけ開けて、深く息を吸って、それでもどこか虚しい気持ちが残っていました。

商業登記は順調なのに私生活は止まったまま

仕事は順調です。設立登記も、相談業務も、信頼も増えているはずです。でも、それと反比例するように、私生活は停滞しています。気づけば、プライベートの連絡先は変わらず、交友関係も広がっていない。予定表には「打合せ」「登記完了」の文字は並ぶけれど、「食事」「デート」なんて文字はとうに見ていないのです。

恋愛も結婚も何年も手をつけていない

恋愛のことを真面目に考えたのはいつだったか、思い出せません。仕事に集中していたら自然とそうなった、というよりも、最初からあきらめに似た感情を抱いていたのかもしれません。自分の生活に誰かが入り込む余地なんてない。そんな風に勝手に決めつけていたように思います。

元野球部仲間はもうパパになっている

昔の野球部仲間と久しぶりに会ったら、すっかり「お父さん」になっていました。試合中にどんなにふざけていた奴も、今では子どもの写真をスマホで見せてくる。その笑顔を見て、どこか羨ましさと悔しさが入り混じった感情が湧いてきました。自分もあの輪の中に入りたかった。でも、もう戻れない気もしています。

こんな気持ちは誰に相談すればいいのか

こうした気持ちを、誰かに正直に話したことはありません。仲のいい友人にも、「設立登記終わったよ」とだけ言っておしまい。でも本当は、「寂しい」「孤独だ」「誰かと喜びを分かち合いたい」と言いたかったのかもしれません。だけど、それを口にする勇気が、今の自分にはなかなか出ません。

専門職ほど孤独が染み込んでくる矛盾

司法書士という仕事は、信頼と責任の重さが常についてまわります。だからこそ、簡単に人に弱音を吐けない。でも、そうやって強がっているうちに、気づけば自分の中に孤独が染み込んでいる。専門職だからこそ、自立しているように見えて、実は誰よりも支えを欲している。そんな矛盾に悩まされています。

自分で選んだ道だけれどたまには弱音も吐きたい

この道を選んだのは自分です。文句を言える筋合いではないと思っています。それでも、たまには誰かに「大変だったね」と言ってもらいたい。弱音を吐ける相手がいれば、もっと肩の力を抜いて仕事に向き合えるのかもしれません。そんなことを考えながら、今夜も一人で電気を消します。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓