サトウさんがいない日だけ来客がやたらと多い理由
朝から違和感 サトウさん不在の日の始まり
朝、事務所に一番乗りした私は、ひとりコーヒーを淹れながら、今日は静かな一日になると勝手に思い込んでいた。サトウさんは珍しく有休を取っており、「先生、明日は電話少ないといいですね」と笑って帰っていった。……その言葉がすでにフラグだったのかもしれない。
コーヒーをゆっくり淹れる余裕があったはずなのに
ちょっとした静けさを楽しみながら、机に向かう。パソコンの電源を入れ、スケジュールを確認しながら、今日こそはあの申請書を片付けようと思っていた。
事務所の静けさにちょっとした不安を覚える
でも静かすぎた。まるで嵐の前のサザエさん一家のような――磯野家が誰も喋っていないときの、妙なざわつき。まさか……と思ったその瞬間、チャイムが鳴った。
ピンポンの音が止まらない 不思議な午前中
最初の来客は突然の相談者。二人目は飛び込み営業。三人目はなぜか迷い込んできた宅配業者。そして四人目は……猫だった。
一人で応対する寂しさと苛立ち
「やれやれ、、、」とつぶやきながら、応接テーブルを片付けては元に戻す無限ループに突入した。
説明も書類もぜんぶ自分
名義変更の説明、相続の概要、必要書類のチェック。全部ひとりでこなすのは、まるでコナンくんが阿笠博士の発明も、蘭ねえちゃんの空手も、毛利小五郎のポーズも全部やってる状態だ。
電話とチャイムの同時鳴りは拷問レベル
しかも固定電話と携帯が同時に鳴り出し、そこへ宅急便のピンポンが加わると、音の洪水だ。音の三重奏じゃない、もう拷問の協奏曲。
来客が重なると発生する“紙の地獄”
お客様が重なると、誰にどの書類を渡したかも怪しくなる。しかもサトウさんの手書きメモが見当たらない。あの人の暗号めいた付箋は、我が事務所の羅針盤だったのだ。
サトウさんのありがたみが骨身に染みる
サトウさんは普段は控えめだが、影の司令塔だった。あの人がいないだけで、私はただの忙しそうな中年男性になる。
普段は感じない絶妙な段取り力
来客スケジュールの事前整理、書類のファイリング、合間の電話応対。全部一人でやると、三人くらい必要に感じる。
書類の配置場所がサトウさん仕様
書類棚も、引き出しも、サトウさんの独特なルールで整理されている。私はその地図を持たずに、宝探しをしているようなものだった。
自分じゃ気づかない小さな手配の積み重ね
「あの封筒、昨日のうちに出しときました」と言っていたあの一言が、どれほど助かっていたか。今日ほど思い知った日はない。
頭の切れる人がいないと凡人は露呈する
私の凡庸さが事務所にむき出しになる。それはまるで、ルパン三世から次元も五ェ門もいなくなったようなものである。
午後のトドメ 来客4連発と不在票の山
午後は完全に崩壊した。昼ごはんを買いに行こうとしたら、ドアの前に人影。お客様が帰ったと思ったら、すぐ別の人。
一人ランチの夢が遠のいた瞬間
コンビニにたどり着く暇もなく、結局冷めきったコーヒーと昨日のクッキーがランチになった。司法書士の食生活って、これでいいのか。
来客が途切れたと思ったら郵便局
最後の来客が帰った直後に、玄関のチャイム。今度は郵便局。もう笑うしかない。
書留と配達証明と内容証明が同時に来る不思議
なぜ一日に固まるのか? 書留と内容証明がまるで連携して攻めてくる。まるでブラックジャックの一話に全部詰め込まれたような密度。
やれやれと思ったらFAXが詰まるオチ
「やれやれ、、、」二度目のつぶやきは、詰まったFAX用紙を見ながらだった。
終業時刻に気づくのはいつも最後の来客が帰った後
事務所の時計を見たときには、すでに午後七時を回っていた。誰もいない事務所。冷めたポットのお湯。無音のプリンタ。
電気ポットも冷め切っていた現実
もう一杯淹れようと思ったコーヒーは、ただの水になっていた。今日一日の私のテンションのように。
ふと鏡を見て「誰だこの疲れたおっさん」と思う瞬間
鏡の中には、クマがくっきりと目立つ疲れた中年がいた。それが私、シンドウである。
サトウさんに伝えたいありがとうと少しの怒り
翌朝、サトウさんが出勤してきた瞬間、「先生、昨日どうでした?」と笑ってきた。
「いない日に限って」とは伝えにくいもの
私はニコリともせずに言った。「おかげさまで、事務所は繁盛しておりましたよ」
明日は笑って報告できると信じたい
彼女は「先生も少し痩せましたね」と言いながら、私の机の上にコーヒーを置いてくれた。やっぱり彼女は名探偵だ。私の疲れを見抜いていた。