誰にも必要とされていない気がした夜に僕がとった行動

誰にも必要とされていない気がした夜に僕がとった行動

誰にも必要とされていない気がした夜に僕がとった行動

朝いつも通りの無言の出勤

朝7時15分。アラームより5分早く目覚めてしまう自分が、もはや情けない。
冷めた味噌汁を温め直しながら、無言でトーストをかじる。
地方都市の朝はとても静かだ。騒がしさの代わりに、存在の薄さだけが重くのしかかる。

サトウさんの「おはよう」は今日も機械的

「おはようございます」
サトウさんが言った。言葉はたしかに発されたのだが、表情が伴っていない。
まるでサザエさんのエンディング直前、波平が言う「こらカツオ!」ぐらいの儀式感。
反射的に「おはよう」と返したが、気持ちは置き去りだった。

誰からも頼られていない感覚の始まり

事務所の椅子に腰を下ろしても、PCの画面は昨日のまま。
スケジュール表には「何もない午後」と書かれているような空白。
いや、書いてはいないが、そんな気がした。
今日も一日、自分の存在は必要とされないのだろうか――そんな予感だけがあった。

依頼も来ない静かな午前中

9時から12時まで、事務所には誰も来なかった。
郵便受けに入ったのは町内会報とクリーニングの割引チラシだけ。

FAXの受信音だけが事務所に響く

「ピーーッ、ガガガッ」
久々に鳴ったFAXに、条件反射的に体が反応する。
だがそれは司法書士会からの無機質な通知だった。
「登記オンライン研修のご案内」
やれやれ、、、この仕事、案外人間味は薄い。

電話が鳴らないという地味なプレッシャー

電話が鳴らない日ほど、司法書士は孤独になる。
必要とされることで存在を感じる職業だから、呼ばれないことは、存在しないことと同義だ。
まるで探偵ものの最終話、登場しなかった黒幕のように、僕の今日という日も締め切られていく。

弁当のふたを開けた瞬間に込み上げる虚しさ

12時ぴったりに弁当を開けるのが癖になっている。
今日のメニューは昨晩の残りの卵焼きと、冷凍シュウマイ。
事務員のサトウさんは「外で食べてきます」と出ていった。
独りきりの事務所に電子レンジの音が響く。

誰かと食べる昼食が恋しいと思ってしまった

コンビニのベンチで野球部仲間と食べた弁当、
「冷めてても旨いな」と言い合ってたあの頃が恋しい。
もう誰にもそんなふうに言ってもらえないと思うと、唐突に胸が締めつけられた。

元野球部の頃の弁当時間がフラッシュバック

あのときはポジション争いも、監督の無茶な指導も、
誰かと一緒にいたから耐えられた。
今の僕には、競う相手も、監督も、ベンチもない。
ただ孤独な昼と、静かな椅子だけがある。

午後の打ち合わせキャンセル連絡

14時に予定されていた相続相談が、ドタキャンされた。
「急用で伺えません、また連絡します」
――また、が来た試しはない。

「先生また今度に」その言葉の裏側

「また今度」は「もう結構です」の婉曲表現。
依頼者も気を遣ってくれてるのはわかるが、
それが一番堪えるのだ。

必要とされていない現実のような幻のような

窓から差す西日が、机の上の判子にだけ当たっていた。
誰にも押されることなく、ただそこに在るだけのシャチハタ。
それが、今の僕に思えて、苦笑いした。

サトウさんが気を遣ってくれるのが逆に辛い

「今日は早めに閉めますか?」
サトウさんが声をかけてくれるが、
その優しさすら、必要とされていない証明のようで、
僕は「いや、まだやることある」と嘘をついた。

机の引き出しの奥に眠っていた手紙

退屈しのぎに、久々に引き出しを整理すると、
そこには5年前の封筒があった。
淡いピンク色の便箋。差出人は、ある女性の依頼者。

昔の依頼者からの感謝のメモ

「先生が話を聞いてくれて救われました。心から感謝しています」
それだけの、たった一行だったが、
インクのにじみ方が、あの時の本気を物語っていた。

やれやれ僕にも誰かの役に立った過去はあった

やれやれ、、、僕は忘れていたようだ。
必要とされていたことを。
確かに一度でもそういう瞬間があったのなら、
今日という日は、それを思い出すための日なのかもしれない。

サトウさんが一言だけ言った

帰り際、サトウさんがふとつぶやいた。

「先生いないと困りますよ いちおう」

その言葉は、カツオのズル休みを責める波平のように、
不器用で、でも確かな愛があった。

その“いちおう”に救われる僕がいる

“いちおう”がついていてもいい。
“いちおう”でも、必要とされるなら、それでいい。
僕はシャッターを下ろしながら、小さく呟いた。
「明日は、もう少し電話が鳴ってもいいかな」

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓