誰にも見せられないノートの中身と僕の事件簿

誰にも見せられないノートの中身と僕の事件簿

誰にも見せられないノートの中身と僕の事件簿

封印されたノートが開くとき

引き出しの奥にしまっていたあの黒いノート。決して他人には見せられない、僕だけの記録。スケジュール帳と見せかけて、実際は“本音の墓場”みたいなものだ。愚痴も、嫉妬も、名前を出せない依頼人の裏話も全部そこに綴ってある。ところが、そのノートがある日、事務所の机の上にぽんと置かれていた。……開かれていた形跡と共に。

誰にも見せたくなかった理由

司法書士とはいえ、人間だ。腹も立つし、泣き言もある。特に夜中に帰ってきてインスタントラーメンをすする孤独な時間には、誰かにぶつけようのないモヤモヤをあのノートに吐き出すしかなかった。あのノートだけは、僕の“サザエさん症候群”の解毒剤だったんだ。

書き留められた「ある名前」

数日前のページに「モリオカ」と走り書きしてあった。珍しい苗字ではないが、僕にとっては忘れたい依頼人の名前だった。2年前、相続放棄の手続きを依頼され、揉めに揉めた末に消えた人物。その名前が、なぜ今またノートに現れている?

過去と現在がつながる瞬間

「シンドウ先生、これ……封筒の中身、見ました?」とサトウさんが静かに差し出した一通の封筒。開けると、かつてのモリオカ氏からの手紙と、僕のノートのコピーが数枚。内容は……見覚えがある。いや、確かに僕が書いた。だが、このページは……燃やしたはずの。

サトウさんの鋭い一言

「先生、モリオカさん、たぶんまだ生きてますよ。これは、挑戦状です」 そう言ったサトウさんの目が、まるで怪盗キッドに騙されたコナンくんのように、確信を帯びていた。探偵役は彼女に任せよう、僕はそろそろ胃薬でも飲む時間だ。

ノートに書かれた文字のクセ

コピーを見比べると、一部が明らかに僕の筆跡ではなかった。細く、やや右上がりの筆跡。加えて漢字の「誤」の字が旧字体で書かれていた。これは……他人が“僕のふり”をして書いたものだ。

法務局での小さな違和感

ちょうどその日、法務局で見かけた不自然な男を思い出す。異様にこちらの手元を覗き込んできた、薄笑いの男。思い返すと、あの目は明らかに“何かを試す”目だった。まるでルパンが次の獲物を探すように。

机の引き出しに隠されたメモ

事務所に戻り、引き出しを開けると“試された側”であることを確信させるメモが出てきた。「次は君の番だ、司法書士さん」。……やれやれ、、、カツオがまたイタズラをした後の波平みたいな気分だ。

依頼者が残した最後のヒント

過去の記録を洗い直すと、モリオカ氏が最後に遺した文書の中に「資料保管庫の鍵は“記録にない場所”に隠した」とあった。まるでシャーロックホームズの暗号文だ。記録にない場所、つまり……非公式の書類の中。

嘘をついたのは誰か

一見、善良な依頼人の顔をしていたモリオカ氏。しかし実際には偽名を使い、複数の名義で土地取引をしていたことが発覚。司法書士として、僕は騙されていた。それに気づいていながら、見て見ぬふりをしていたのかもしれない。

雨の日に交わした会話

2年前の雨の日、彼が帰り際に言った。「記録ってのは、あんたの味方ばかりとは限らないぜ」。その言葉が、今になって胸に刺さる。僕は書類にだけ頼りすぎていた。ノートの中身が感情の墓場なら、彼はその墓荒らしだった。

ボールペンのインクの色に気づく

真相を裏付けたのは、意外にもインクの色だった。通常、僕が使うのは青。だが偽筆跡は黒。しかも海外製の特有のにじみ。サトウさんが言うには「フランス製ですね、たぶんモンブラン」。……なぜそんなのに詳しいんだ。

やれやれノートの正体は

事件はひとまず幕を下ろした。モリオカ氏は国外逃亡していたが、法務局の記録と彼の手紙を照合することで、詐欺の一端を突き止めた。僕のノートは、一見ただの愚痴帳だったが、実は事件を解く鍵にもなっていた。

真実はいつも地味にやってくる

探偵漫画のような派手さはない。ただ、書類の端や手書きの癖、誰かの言葉の裏にこそヒントがある。そういう地味な“日常の推理”が司法書士には求められる。ま、僕にとってはいつものことだが。

見せられなかったのは秘密じゃなく弱さ

結局、誰にも見せられなかったのは“秘密”じゃない。弱さと情けなさだった。でもそれを認めたとき、ほんの少しだけ、誰かに話してもいいかなと思えた。少なくとも、サトウさんには。

事件が終わってもページは続く

ノートはまた引き出しに戻した。今日のページにはこう書いてある。「やれやれ、、、また忙しくなりそうだ」。だけど、少しだけその文字の形が、前より整って見えた。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓