この職業どうしても孤独がつきまとう日々
司法書士のシンドウは、今朝も事務所の古びたポットで湯を沸かしていた。外はまだ薄暗い。山間の町にあるこの事務所は、開業からもう十五年経つ。壁のカレンダーには「司法書士会からのお知らせ」がぶら下がっているが、もう何ヶ月もめくっていない。
「今日は、相続と登記変更と…あとは、公正証書の確認か…」
独りごとにしては少し大きい声で、彼は机に座った。
誰も返事などしない。返事をくれるのは、お昼を過ぎてから出勤してくる頭の切れる事務員、サトウさんくらいだ。いや、彼女は返事どころか、たまにツッコミが強すぎる。
孤独を感じる職業としての司法書士という現実
日々の業務のほとんどは一人きり
相談者がいても、最後は自分の責任
静かな時間が続くときの心の沈み方
午前中は、戸籍とにらめっこの時間。ひたすら手書きの除籍謄本を読み解いていく。文字は薄れ、筆跡は癖だらけ。まるで昭和の怪盗が残した暗号を解読しているようだった。
「まるでルパンの遺言状だなこりゃ…やれやれ、、、」
そうつぶやいても、空気すら動かない。
誰にも相談できない意思決定の連続
失敗が許されないプレッシャー
事務所の壁とだけ向き合う夜
相談者との打ち合わせも、結局は一瞬だ。ほとんどの時間は、調査と書類作成、そして締切との戦い。ふと気づくと、3時間以上誰とも話していない。スマホにメッセージが来ていても、業者か金融機関からの確認連絡だけ。
孤独に向き合う司法書士シンドウの一日
朝のルーティンに救われる気持ち
声を発するのは電話だけの日も
今日もサトウさんのツッコミに救われる
午後になってようやく、事務所のドアが開いた。サトウさんが無言で自分の席につき、軽やかにパソコンを立ち上げる。
「先生、また独りでしゃべってたんでしょ。録音してYouTubeでもやったら?」
「…いや、著作権の問題がな」
「しゃべってるの自分の言葉でしょ」
苦笑いして、シンドウはまたパソコンに目を落とした。
周囲との温度差が孤独感を増幅させる
相談者の感情を受け止めることの難しさ
感謝されても埋まらない心の穴
誰にも見せられない弱音
スーパーのレジで、後ろの主婦が電話越しに「家の名義ってさ〜」と話しているのが聞こえた。つい、声をかけたくなるのをぐっと堪えた。
余計なお節介は仕事に戻ってくる。それがこの仕事の難しさ。
孤独とうまくやっていくための工夫
定期的な運動と習慣化の力
野球部だった頃の仲間との連絡
話しかけられないけど話しかけたくなる朝の鏡
依頼者に「本当に助かりました」と言われることもある。でも、その瞬間だけだ。次の日には、また違う案件で心が重くなる。
「司法書士って、透明人間みたいなもんだな」とシンドウはつぶやいた。
帰宅後、鏡に映った自分に言った。「やれやれ、、、」
誰もいない部屋で、今日の一日を終えるための呪文みたいに。
野球のバットを壁に立てかけてある。素振りはしてない。眺めるだけでいい。
「まだ、戦ってる感があるからな」
湯船に沈みながら、サトウさんの今日の一言を思い出した。
「先生、結婚とか考えたことないんですか?」
「…サトウさん、やめてくれ」
それだけ言って、お湯に顔を沈めた。明日も、孤独と書類と、ちょっとだけ笑いに向き合う日が来る。
終わり