印鑑証明がすべてを支配する日常
依頼人が持ってきた封筒の中身
月曜の朝、コーヒーの香りも立ち上る前に事務所のドアが開いた。「登記お願いできますか?」と言いながら、無造作にA4の茶封筒を差し出してきたのは、見るからに“急ぎです”オーラ全開の依頼人だった。
サトウさんの一言が事件の始まり
「これ、印鑑証明だけやたらと新しいですね」 封筒の中身をさっと確認したサトウさんがぼそっとつぶやいた。彼女は事務員というより、もはや“鑑定士”だ。私が気づく前に、大抵の違和感を拾ってくる。
なぜか揃っていた印鑑証明だけ
登記原因証明情報が不鮮明、委任状はコピーが薄い。にもかかわらず、印鑑証明書だけが光り輝くようにピカピカだった。提出日も昨日。妙に“できすぎ”ていた。
足りないのは登記原因証明情報だった
「これ、もしかして…誰かが入れ替えてませんか?」 サトウさんが小さくつぶやいた瞬間、私の中でサザエさんの“タラちゃんがいない!”級の警報音が鳴った。
印鑑証明だけが語ること
誰かがこの証明書に頼って、全体を正当化しようとしている。そんな気配が濃厚だった。
提出された書類の中の違和感
契約書の日付、委任状の日付、印鑑証明の日付――バラバラ。けれど、見るからに一連の手続きに見せかけようとしていた。
なぜそこだけ日付が新しいのか
印鑑証明書の日付は“昨日”。だが契約書は“1か月前”。どこかで誰かが“今”の意思を作ろうとした証拠だ。
差し替えられた証明書の謎
「この証明書、過去の別案件と同じ番号ですよ」 法務局から取り寄せた前回の謄本と照合すると、同じ人物の印鑑証明が2度使われていた。
証明書の番号が導いたもの
番号を辿れば人物が浮かび、意図が浮かび、やがて“真の申請人”が誰かも見えてくる。
前の登記との照合作業
データベースを漁っていると、妙に似た名前が複数あった。「あ、これは…法人の乗っ取り系だな」と直感が囁いた。
法務局では気づかれなかった矛盾
印鑑証明が“最新”であることが逆に盲点だった。誰もが「ちゃんと取ってるからOK」と思い込んでしまう。
浮かび上がる真の申請人
実際に登記を申請した人物は、委任状の本人ではなかった。書類の筆跡が微妙に違う。「フジコかよ…」と、私は心の中でツッコんだ。
書類を超えて存在する圧
印鑑証明という一枚の紙が、ここまで全体を支配するとは。さながら『名探偵コナン』の黒の組織ばりに、背後に誰かがいそうだった。
印鑑証明が持つ妙な信用力
不思議なもので、「印鑑証明があります」と言われると、つい納得してしまう。だが、それが罠だったりもする。
依頼人の口ぶりに見え隠れする焦り
「あの…それ急いでまして…」と言いながら、視線を逸らす依頼人。急いでるのは登記ではなく、“ごまかし”の可能性。
シンドウの直感が動き出す
こういうときに限って、うちのコピー機が紙詰まりを起こす。「やれやれ、、、そう来るか」と私は思わずつぶやいた。
やれやれまたかと思いつつ
こういう地味な書類の矛盾が、一番やっかいだ。騒ぎにならないが、確実におかしい。
サトウさんの推理が核心を突く
「多分これ、前の所有者に無断で進めてるパターンです」 サトウさんはパソコンをたたきながら、もう“結末”まで予測していた。
最後に足りなかったのは常識だった
依頼人に確認を取ると、案の定「よくわからないままハンコ押しました」との返事。…それでいいのか、世の中。
印鑑証明に騙されるなと心に刻む
その日、私は一枚の印鑑証明にひっかけられかけた自分を反省しつつ、コーヒーを淹れ直した。「やれやれ、、、今日は長くなりそうだ」と。