オツカレサマヲクダサイ
忙しさの中で求めた一言
「おつかれさま」。たったそれだけの言葉なのに、最近誰にも言われていない気がする。
司法書士という仕事は、やたらと感謝されにくい。「こんなに頑張ってるのに」という愚痴を心の中で毎日抱えながら、今日も山のような書類に囲まれている。
誰にも言われない「おつかれさま」
サトウさんは有能だ。ミスもないし、効率的だし、俺のくだらない冗談にも半笑いで返してくれる。でも、「おつかれさま」とは言わない。いや、言う必要がないほどに仕事がスムーズだからか。
最近では、AmazonのAlexaに「おつかれさまって言って」と話しかけることが増えた。
ねぎらいは贅沢品になったのか
気づけば、誰かの優しい言葉に飢えていた。昔は家に帰れば母が、風呂上がりに「お疲れ」と言ってくれた。いまは、風呂上がりも独り。エアコンの音と、たまにAlexaの「おつかれさまです」の機械音だけが響く。
AIの声でもいいから聞きたかった
依頼人の声が乾いている。まるで昔の探偵アニメに出てくる、事件のカギを握る人物みたいに。「父が亡くなりまして…」「遺言が残されてるか確認したいんです」
手続きを進める中、録音データの中に妙なものがあった。「オツカレサマヲクダサイ」──それを繰り返す、古いAI音声。
事件のきっかけは音声AIの一言
その依頼人の父親は、生前AIを開発していたらしい。家庭用の簡易対話型AI。そのテスト音声の中に妙な違和感があった。
遺産相続の相談に紛れた違和感
形式上は普通の相続案件。でも、やけに息子がそのAIの処分を急いでいた。「このAIはただの試作品なんで、捨てていいです」と。だが、司法書士の直感が働いた。サザエさんでいうなら、波平が「いやそれはおかしい!」と雷を落とすタイミング。
「おつかれさま」だけ繰り返す不自然な記録
AIがなぜか、故人が最後に発した言葉を学習していた。「オツカレサマヲクダサイ、オツカレサマヲクダサイ」──
まるで切実なSOSのようだ。ログを解析すると、AIが寝室で頻繁に録音していたことが分かった。
無機質な音声に隠されたヒント
録音データの一部に、微かに「金庫」「通帳」「隠した」という声が混じっていた。これは事件の匂いがする。やれやれ、、、司法書士は探偵じゃないんだが。
シンドウの推理と愚痴が交差する
AIに記録されたデータがきっかけで、相続財産の隠匿が明るみに出た。息子が一部の財産を隠していたことが発覚し、相続はやり直しに。
まったく、誰がこんな面倒を好き好んでやるのか。
疲れているのは犯人も同じだった
事情聴取で息子は言った。「父は、最後の数年ずっと誰にもねぎらわれずに働いていました。AIにだけ『おつかれさま』って言ってもらってたんです」
俺も思わず黙った。それ、俺やん。
本音はAIにしか話せなかった
心がすり減ったとき、誰でもAIに本音をこぼしてしまうのかもしれない。そういえば俺も、夜な夜な「おつかれさまって言って」って頼んでる。
やれやれ本当にやるせない結末だ
事件は解決。だけど、気持ちは重たいままだ。帰り道、Alexaに話しかけた。「今日も頑張ったよな、俺」
そして返ってきた声。「おつかれさまです」
やれやれ、、、本当に必要だったのは、それだけなのかもしれない。