登記書類は見ていたサトウさん
忙しない午前十時の来訪者
ある夏の朝、蝉の声が窓の外でやかましく鳴いていた。 僕が冷えた麦茶に口をつける間もなく、ドアが開き、男が飛び込んできた。 白いワイシャツの袖にはうっすらと汗染み、目には焦燥の色が浮かんでいた。
依頼人は嘘をつくとき鼻を触る
「父が亡くなって、相続登記をお願いしたいんです」と男は言った。 だが話している途中、彼は何度も鼻に手をやった。 これはサザエさんの波平がごまかすときと同じクセだった。
サトウさんの塩対応と鋭い視線
「登記簿謄本と評価証明、それと戸籍関係は?」と淡々とサトウさん。 彼女の指は冷たく、正確にチェックリストを指差していた。 男が書類を出し渋ると、サトウさんの目が一瞬、鋭く光った。
申請書に潜む違和感
提出された申請書の中身に目を通し、僕は小さく首を傾げた。 フォーマットは完璧だが、どうにも「作られた」印象が拭えない。 筆跡も、委任状の文面も、何かが腑に落ちない。
一通の委任状が語る裏の顔
「この委任状、実際にお父様が書いたものですか?」と僕が尋ねると、 男は目を逸らし、曖昧な笑いを浮かべた。 サトウさんはすぐに複写のインク濃度をスキャンしていた。
やれやれ、、、俺の出番か
どこかで見たような構図だ。昔、コナンが変装した怪盗キッドのトリックを暴くシーンが頭をよぎる。 サトウさんが静かにプリンターの検出記録を出してくれた。 僕は深いため息をついてから立ち上がった。「やれやれ、、、俺の出番か」
印鑑証明書の発行日がすべてを物語る
印鑑証明書の日付は二年前、被相続人が元気だった頃のものだった。 だが委任状の日付は先月。つまり、死人が意思表示をしていることになる。 これは、登記界のオカルトでは済まされない大問題だ。
地目変更の裏に隠された罠
調査を進めるうち、男が申請しようとしていた土地は、 実は市街化調整区域に指定された場所で、売買は制限される。 しかし男はその情報を伏せ、相続名義人として速やかな登記を目論んでいた。
サトウさんの静かな逆襲
午後、サトウさんが一枚のFAXを僕の机に置いた。 そこには「筆跡鑑定済み」と赤字で書かれた報告書が貼られていた。 彼女は黙っていたが、すでに裏では全てを終わらせていたのだ。
登記完了通知が導いた真実
僕は、男に静かに言った。「この書類は、警察に提出されます」 男は目を見開き、何かを言いかけたが、そのまま崩れるように椅子に座った。 登記の世界において、書類は嘘をつかない。
警察より早く動いた司法書士
その夜、地元の警察から電話がかかってきた。 「早かったですね。司法書士さんの情報提供が決定打でした」 僕は電話を切り、コーヒーをすすった。少しぬるかった。
犯人の口から出た登記の知識
後日、男は供述の中で「登記は簡単にできると思っていた」と言った。 その言葉を聞いて、なぜか少し哀しくなった。 制度は人を守る盾にもなるが、知らぬ者には牙を剥くこともある。
逆転劇と午後のほうじ茶
事務所では、午後のほうじ茶が湯呑みに注がれていた。 サトウさんは何も言わず、机の書類を整理している。 「ありがとうな」と声をかけると、彼女は小さくうなずいた。
サトウさんは今日も塩対応だった
「昼、何か食べに行くか?」と誘ってみたが、 「コンビニで買います」と即答された。 ま、そんなもんだ。慣れてる。
俺はただの司法書士ですから
事件が片付いた後も、机の上には変わらぬ書類の山。 登記簿、固定資産税評価証明、そして今日も新たな依頼が来る。 俺はただの司法書士ですから。今日も地味に、事件と向き合う。