朝一番の依頼人
別紙という言葉に潜む違和感
「先生、これが登記に必要な書類一式です」と差し出された封筒には、丁寧に綴じられた書類が数枚。だがその中に、どこか引っかかる一枚が混じっていた。表題のない紙、妙に新しいホチキスの跡、そして端に書かれた「別紙参照」の走り書き。
シンドウはペラペラと紙をめくりながら、嫌な予感を感じていた。登記の世界では、たった一枚の紙が事実をねじ曲げる力を持つ。何より、その「別紙」が意図的に加えられたような気がしてならなかった。
サトウさんの冷たい指摘
事務所に残された謎のファイル
「これ、先生。綴じ方が変ですよ。普通なら日付順に並ぶはずです」 サトウさんが指摘した瞬間、背筋が凍った。確かに、最初の契約書が令和4年、次のが令和5年、そして問題の別紙だけが平成31年だった。
「え?平成?」とシンドウがうっかり声を漏らすと、サトウさんは「確認しないで提出してたんですか?」と冷たく返す。そのトーンは、カツオの言い訳を一蹴するフネさん並みだった。
封筒に綴じられた三枚目の書類
差出人の署名と日付の謎
三枚目の「別紙」は一見、ただの覚書に見えた。だが署名欄には、今回の依頼人とは別人の名が書かれていた。しかも、日付は登記申請日の「前日」。あり得ない。 なぜなら、依頼人はその日、入院中だったはずだからだ。
「この署名、筆跡が違いますね」とサトウさん。彼女の観察眼は、まるでコナンのように容赦がない。そしてそれが、ひとつの仮説を導いた。「この別紙、後から誰かが差し込んだんじゃないですか?」
依頼人の足取りを追う
かすれた電話番号と誰かのメモ
登記簿のコピー裏に書かれていたかすれた電話番号は、別人のものであることが判明した。それは依頼人の遠縁にあたる人物で、かつて相続争いをしていた相手だった。
「これは怪しいですね」とシンドウ。久々に血が騒ぐ。かつて野球部でエースを任されたときの感覚に似ていた。何かがおかしい。だが、証拠が足りない。
やれやれと愚痴をこぼしながら
元野球部の記憶が鍵になる
「ああ、やれやれ、、、なんで俺がこんなことまで」と愚痴を吐きながらも、手は止まらない。昔、キャッチャーの癖を見抜いて盗塁を決めたことを思い出した。
「癖はどこかに出る」。その言葉を胸に、別紙の署名を改めて見ると、そこには微妙な“くせ字”が。昔見た印鑑証明と一致していたのは、依頼人の従兄弟だった。
過去の登記と現在の整合性
矛盾する法務局の登録情報
古い登記情報を精査すると、かつて同じ土地に関わっていた不動産業者の存在が浮かび上がった。そして、今回の別紙の提出者がその業者と関係していたことも。
どうやらこの偽造書類で登記を操作し、土地の一部を自分のものにしようとしていたようだ。しかも司法書士のチェックを信じて、誰も疑問を持たなかったというのが厄介だった。
真相に近づく別紙の裏面
不自然なホチキスの留め方
「先生、このホチキスの針、他のと形が違います」 サトウさんの言葉で、最後のピースがはまった。他の書類は事務所の備品で留められていたが、この一枚だけ違う留め具だった。
つまりこの「別紙」は、事務所外で作られ、後から誰かが封入したものだ。依頼人の無実は明らかになったが、さて、誰がそれを?
サザエさん的展開のあとで
犯人が仕掛けた小さな細工
まるでマスオさんが知らぬ間に波平の釣竿を壊してしまったような展開だった。犯人は善意を装いながら、じつは書類を“ちょっとだけ”いじったのだ。
「ほんの1ミリの違いが、人生を変えるって知ってます?」と、その従兄弟は笑った。だがその1ミリが、司法書士の執念によって白日のもとにさらされた。
サトウさんの決定的な一言
すべては一枚のコピーから
「このコピー、光沢紙なんですよ。先生の複合機、普通紙しか入れてませんよね?」 言われてみればそうだ。つまりこの別紙だけ、外部で複製された証拠になる。
これで書類の捏造が確定した。サトウさんの鋭さに舌を巻くしかなかった。「お前、コナンの親戚か?」と冗談を言えば、「黙ってください」と一蹴された。
綴じられた用紙が語った真実
司法書士シンドウの逆転劇
すべての証拠を揃え、登記の取り下げと共に、依頼人の名誉は守られた。警察に提出された書類の中で、あの「別紙」だけが赤くチェックされていた。
シンドウは背もたれに体を預け、ふぅと一息つく。「やれやれ、、、結局俺がやらないとダメなのか」。だがどこか嬉しそうな顔をしていた。