謄本の影に消えた真実

謄本の影に消えた真実

謄本の影に消えた真実

朝の事務所に届いた一本の電話

朝のコーヒーがまだぬるい。机の上には未処理の書類が山積みだというのに、また電話が鳴る。 発信者は町外れの古い屋敷に住む老婆で、相続登記の相談だった。 「謄本に妙なことが書かれてるんですの」と、か細い声が言う。

旧家の相続登記に隠された違和感

古びた登記簿には確かに、見慣れない書き込みがあった。 明治時代の筆跡らしき書き込みが、所有権移転の記載の欄外に鉛筆で残されている。 通常なら法的効力などないものだが、それはあまりに「意味深」だった。

サトウさんの冷静な一言

「これ、明らかに誰かが『意図的に』残してますね」 サトウさんは小声で言いながらも、目の奥はいつものように鋭い。 彼女の言葉に、胸の奥が少しざわついた。まるで、『キャッツアイ』の瞳が何かを見抜いたようだった。

一通の公図が語る矛盾

役所から取り寄せた公図は、昭和初期のものと一致しない。 隣地との境界が数メートルズレており、現地と食い違っていた。 そのズレが何かを隠そうとしているようにも思えた。

旧謄本の裏面に見つかった走り書き

登記官時代のクセだろうか。私は謄本の裏も光に透かして見てしまう癖がある。 そこにうっすらと「アイヲケシタ」という筆跡を見つけたとき、背筋が寒くなった。 万年筆で書かれたようなそれは、まるで誰かの懺悔のようだった。

あの日の登記官と謎のメモ

法務局の元職員を訪ねると、「あの土地か…あそこには色々あったよ」と渋い声。 彼の机の奥から取り出されたメモには、赤いペンで「第三者の影あり」とだけ記されていた。 まるで『コナン』の犯行予告のようなその一文が、事態を不穏にした。

相続人の一人が語った秘密

屋敷に戻ると、依頼者の姪が待っていた。 彼女はぽつりと、「実は、祖母には結婚を認められなかった恋人がいたんです」と語り出す。 その男は地主の息子で、反対され、土地と共に消えたのだという。

近隣住民が目撃した奇妙なやりとり

近くに住む老夫婦の証言によると、昔その土地の境界で、夜中に言い争う声を何度か聞いたという。 「愛してるって叫んでたよ、まるでドラマみたいにさ」 その話を聞いたサトウさんが小さく笑った。「昭和のサザエさんって感じですね」

やれやれ、、、元野球部の勘が当たったか

法務局の古い保管庫からもう一冊、裏謄本の原本が見つかった。 そこには鉛筆ではなくインクで、「所有権は○○に帰す」と明記されていた。 やれやれ、、、この感覚だけは昔から冴えてたんだよな、と思わず口元が緩む。

すれ違った愛が生んだ法定外の行為

祖母は生前、恋人に土地を渡すつもりであったが、登記はされず、想いだけが書き残された。 それを知った息子が、こっそりメモを消し、所有権を隠し通したのだ。 愛と嫉妬と所有欲、三つ巴の人間模様がそこにあった。

真実の登記は心に残された

結局、その筆跡の法的効力はない。 だが、祖母の意志を尊重し、家族は土地を彼女の恋人の息子に贈与することを選んだ。 静かな決断だった。

サトウさんの塩対応に救われた午後

「でも先生、書類の提出期限は明日ですから。感傷に浸ってる場合じゃないですよ」 冷静な彼女の声に、現実へと引き戻される。 やっぱりこの事務所は、彼女がいないと回らない。

登記簿の隅に今も残る名前

古い謄本の裏側には、鉛筆で書かれた名前がまだうっすら残っていた。 正式な登記ではない、ただの落書きかもしれない。 それでもそこには、確かに愛の痕跡があった。

またひとつ、謄本が物語を閉じる音がした

ファイルを閉じる音が、妙に静かに響いた。 どんなに法で定められていても、登記簿は人の感情までは記せない。 今日もまた、ひとつの物語が「事実」として封じられていく。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓