複製の向こう側

複製の向こう側

朝のプリンターが鳴った日

朝一番、事務所のプリンターがうなり声を上げていた。
カタカタという印刷音は、今日もまた誰かが急ぎの登記を持ち込んでくる予兆のように思えた。
嫌な予感は、えてして的中するものだ。

申請書に潜む違和感

依頼人は、やけにニコニコとした男だった。印鑑証明書付きの委任状、登記識別情報通知、そして一枚の申請書。
「完璧です」と自信満々に言い放つその表情が、なぜか気になった。
いや、別に怪しいってわけじゃない。だけど、書類の綺麗さが逆に鼻についた。

スキャンされたはずの原本

件の申請書は、いかにも整っていて、朱印も鮮やかだった。
ただ、その印影が、どこか見たことのあるパターンに似ている気がした。
気のせいだと思いつつ、俺は過去のデータをパソコンで探し始めた。

依頼人の瞳の揺らぎ

サトウさんが「ちょっとおかしくないですか?」とつぶやいたのは、依頼人が帰ったあとだった。
朱印のかすれ具合が、先月の別案件と酷似しているという。
確かに同じ位置、同じ大きさ、同じ向き。まるでコピペのような印影だった。

押印のタイミングをめぐって

本来、委任状への押印は原本に対して行うものだ。
しかしこの申請書、どう見てもスキャンしたものに後から朱肉だけ「貼った」ような印象を受けた。
俺はPDFのプロパティを確認し、サトウさんは紙の厚みや繊維をチェックした。

データの中の矛盾

PDFファイルには不可解なことに、スキャン日よりも前の日付で「編集履歴」が存在していた。
どうやら別の文書から切り貼りされたようだ。
つまり、これは原本ではなく「複製」だった可能性が高い。

サトウさんの冷静な指摘

「この委任状、フォントもズレてます。多分、切り貼りミスですね」
そう言ってサトウさんは、まるで名探偵のように指摘を並べていく。
俺はと言えば、その横でうなずくだけのアシスタント状態だった。

PDFファイルは語る

PDFを細かく解析していくと、画像編集ソフトを経由した痕跡が見つかった。
おまけに朱印の部分だけ解像度が微妙に異なっている。
「やれやれ、、、」思わず漏れた言葉は、サザエさんのエンディングくらいの脱力感だった。

一枚の紙に隠された罠

ただの一枚の申請書に、これだけの偽装が詰まっているとは。
それに気づけたのは、日々の地味な作業と、サトウさんの眼力のおかげだ。
俺ひとりじゃ見過ごしていただろう。

やれやれと言いながらの調査

件の男には、軽く調査の旨を伝えると、あからさまに態度が変わった。
「え、いや、そんなつもりじゃ…」と言い訳がましい言葉が漏れる。
やれやれ、、、まるで名探偵コナンに出てくる小悪党だ。

元野球部の勘が冴えるとき

ふと、俺の野球部時代のクセが蘇る。
「ここで牽制球を投げたら、走らないやつは逃げる」
そう言って男の話をひとしきり聞いた後、軽く法務局にも念のため問い合わせを入れた。

登記識別情報の不在

そして返ってきた回答は衝撃だった。「その登記識別情報、既に使われています」
つまり、原本どころかすでに「使い回された書類」だったというわけだ。
俺の首筋に冷たい汗が流れた。

真犯人はスキャナーの先に

結局、男は他にも数件の偽造案件を抱えていたことが発覚した。
スキャナーと編集ソフトを駆使し、まるでルパン三世のように巧妙に証拠を作っていた。
ただし、彼に不二子ちゃんのような華はなかった。

画像データの編集跡

画像ファイルのヒストリーを司法書士会の顧問弁護士に渡すと、話は一気に動いた。
「これは刑事事件になるかもしれません」
俺の胃がさらに痛むやつだ。

サザエさんのエンディングみたいな解決

とはいえ、依頼人の不正を未然に防げたのは不幸中の幸いだった。
「じゃあ、夕方の申請はどうします?」と聞くサトウさんの顔は、いつも通り冷たい。
だがその目は、少しだけ誇らしげに見えた。

書類が語る真実

この仕事をしていると、紙の中に人の欲や嘘が滲んでいるのを感じるときがある。
今回もまさにそれだった。
コピーは真実を写せても、心までは写さない。

実印は語らない

朱印は語らない。ただ、黙ってそこに在る。
だがそれを読むのが、俺たち司法書士の仕事なんだ。
やれやれ、、、とまた呟いて、次の依頼のファイルを開いた。

机の引き出しに残された証拠

机の中から、使いかけの朱肉と、印影のサンプルが見つかった。
依頼人が忘れていったのか、それともわざと残したのか。
ま、どっちにしろ俺の勝ちだ。

謎解きは午後の申請のあとで

午後になり、別の依頼人がやってきた。今度は誠実そうな老夫婦だった。
彼らの登記を滞りなく済ませると、ようやく一息つけた。
やれやれ、、、今日もまた、俺の一日は事件とともに始まり、静かに終わる。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓