サトウの逆襲と封印された契約書
朝のコーヒーと違和感の始まり
朝のコーヒーがいつもより苦かった。いや、味の問題ではない。隣に座るサトウさんの無言が、まるで裁判所の沈黙のように重たく感じた。 机に置かれた一通の登記完了通知が、今日の異変を告げる始まりだった。
不機嫌なサトウと無神経なシンドウ
「この登記、変ですね」 サトウさんが言った。声は静かだが、目は鋭かった。私はただ「ああ?」とだけ返す。昨晩の飲みすぎが祟って、脳がまだボールを追っていた。 そんな私を一瞥して、サトウさんは何も言わずパソコンに向かった。
古びた書類に忍び込んだ不在者
提出された委任状の日付が妙に古い。しかも依頼人のサインが、最近のものとは明らかに筆跡が違う。 「あれ、これってもしかして…」 思わず声に出したが、サトウさんはすでにスキャンデータと照合を始めていた。
登記完了通知が示すありえない記録
登記簿には、すでに完了として処理されている記録が載っていた。だがその日、依頼人は海外にいたはずだ。 パスポートの出入国記録を確認すれば、簡単にバレる矛盾。なのに、誰かがそのまま通している。 「こんな雑な偽造、逆に気になるな…」と私は呟いた。
誰が偽造したのか
依頼人本人に連絡を取ってみたが、「そんな委任状は書いていない」とのことだった。 つまり、何者かが委任状を偽造し、法務局に提出したことになる。 だが、肝心の提出者情報が、なぜか不自然に伏せられていた。
ファイルサーバのタイムスタンプ
サトウさんは、黙々と事務所のファイルサーバを調べていた。 「これ、変更されたのは先週の金曜、19時32分」 その時間、私は確かにサザエさんを観ていた…いや、あの回はフネがやけにカッコ良くて、感動してたっけ。
サトウが見抜いた一文字の違和感
「この“権”という字、旧字体を使ってます」 言われて見ると、確かに異常だった。登記関係で旧字体を使う依頼人は、まずいない。 「これはフォントを変換して打ち込んだ痕跡です。つまり、誰かが意図的に作った」
昼休みの沈黙と告発の視線
昼休み、私はおにぎりを噛みながらサトウさんの横顔を見ていた。まるで劇場版コナンの灰原みたいな冷静さだった。 そのとき、彼女がぽつりと言った。 「この件、所長の元同期…〇〇先生が関わってるかもしれません」
依頼人の秘密と破られた契約条項
登記原因証明情報のコピーを見直すと、ある条項が不自然に消されていた。 もともと存在していた契約条件が削除され、所有権移転の要件が軽く見えるように細工されていた。 「…あいつ、何をやってるんだ」私は握っていたペンを強く机に置いた。
サトウの単独行動と鍵の謎
その日の夕方、サトウさんが姿を消した。置き手紙もなかった。 翌朝、机の上に一つの封筒。中にはUSBと、謄本の原本コピー、そして一枚の鍵。 「やれやれ、、、また置いてけぼりか」私は天井を見上げた。
司法書士としての最後の確認作業
私はその鍵の意味を理解するのに少し時間がかかった。それは、元同期の先生が管理する古い書庫の鍵だった。 USBには、その書庫内に保管された書類のファイル名と日時が記録されていた。 つまり、証拠はすべてそこにある。
封印された契約書の在処
私は休日にも関わらずスーツを着て、その書庫に向かった。昭和の香り漂う金属棚の奥、封筒に包まれた契約書を見つけた。 そこには、依頼人が実際に署名した、まったく別の契約内容が記されていた。 あの偽造は、すべて隠蔽のためだった。
不正を暴く登記官との対峙
提出先だった法務局の担当官に面会を求めた。 「これは見逃せる話ではありませんよ」 登記官の顔色が変わった。どうやら、彼もこのことには感づいていたようだった。 あとは、静かに処理されるだけだ。
サトウの一手と真実の開示
週明け、サトウさんが何事もなかったように出勤してきた。 「おはようございます」 私は苦笑しながら言った。「勝手な真似をしてくれて、ありがとう」 サトウさんは「はい」とだけ言って、またパソコンに向かった。
そしていつもの事務所に戻って
すべてが片付いたあと、私は机に肘をついて一息ついた。 「やれやれ、、、結局、俺の出番は最後だけか」 だが、それでいいのかもしれない。この事務所には、サザエさんのフネのように冷静な存在が必要なのだから。