朝の司法書士事務所に鳴る一本の電話
不自然な依頼に潜む違和感
静かな朝、いつものようにドリップしたコーヒーをすすっていたところ、事務所の電話がけたたましく鳴った。 「至急、土地の現地確認をお願いしたいんです。今日中に…できれば今すぐに」と依頼人の声は切羽詰まっていた。 その内容は、一見ただの登記境界確認のようでいて、どこか作られた芝居がかった雰囲気があった。
不動産登記簿と一枚の地図
カーブに隠された古い道
サトウさんが黙々と法務局から取り寄せた登記簿謄本と、地元の測量図。 そこに描かれていた道は、現地で見るよりもわずかに東に寄っていた。 「これは…昔の測量基準がそのまま使われてるかもしれませんね」とサトウさんがぼそっと言った。
土地のカーブが犯人の視線を制限した
目撃者の証言が一致しない理由
件の土地は大きくカーブしており、角度によっては完全な死角ができる。 近隣の住人たちの証言は、肝心の時刻になると皆バラバラだった。 「やれやれ、、、結局誰も見てないってことじゃないか」と俺は肩を落とした。
遺産分割の火種が隠されていた
現れた謎の相続人
名義は先代のまま。相続登記もされていない土地。 そこに突然現れた「長男」を名乗る男。しかも戸籍上の記録は曖昧で、数年前に転入していた形跡すらない。 「この書類、本物ですね。でも…妙に新しい」とサトウさんが目を細めた。
犯行ルートはどこから来たのか
誰も通れなかった道を通った人物
警察はあくまで防犯カメラに映っていた市道側からの侵入を想定していた。 だが、現場周辺の地図をくまなく調べていた俺は、一本の消えた旧道に目を留めた。 そこは測量図には残っていても、現地では藪に隠れて誰も気づかなかった道だ。
防犯カメラが捉えていなかったもの
盲点をついた犯行の巧妙さ
最寄りの商店の防犯カメラは、被害者の最後の姿を映していた。 しかしその後、誰も出入りした形跡はない。映っているはずのない人物も、消えていた。 問題はカメラの設置角度。カーブの内側には、まったく死角ができていたのだった。
サトウさんの一言で解けたトリック
偶然を装った誘導
「もしかして…目撃者の立ち位置、誘導されてませんか?」 その言葉に、俺の中の点と点がつながった。 曲がり角にいた証人が“ちょうどいい位置にいた”のは、誘導された結果だったのだ。
シンドウの推理と決定打
登記簿の盲点に潜んでいた動機
旧道に地役権が設定されていた記録を見つけたのは偶然ではなかった。 そこを通行できたのはただ一人、依頼人の弟を名乗る人物だった。 動機は遺産の独占。証人の証言を操り、自分を外から来た無関係な人物に見せかけていたのだ。
犯人の動機ともうひとつの嘘
真相が語る皮肉
「兄が突然死したのも、登記が放置されていたのも、すべては俺のせいじゃない」 そう語る犯人の目には涙のようなものが浮かんでいたが、それすらも演技のように見えた。 彼が一番隠したかったのは、“正当な相続人ではなかった”という事実だった。
土地が語った真実
線の歪みが暴いた嘘
測量図と現況のわずかなズレが、犯行の経路を示し、犯人の計画を打ち砕いた。 土地は何も語らないが、境界線と古い道はすべてを見ていた。 「サザエさんのエンディングじゃないけどさ、家の裏にも何かがあるんだよな」と俺はつぶやいた。