封印された登記簿の謎

封印された登記簿の謎

朝一番の違和感

「おはようございます」とサトウさんが言った瞬間、何か空気が違うことに気づいた。 いつもの無愛想なトーンなのに、妙にピリッとした緊張感が漂っていた。 机の上には昨日片付けたはずの登記簿の写しが戻ってきていた。そんなはずはない。

サトウさんの冷たい指摘

「これ、昨日の午後の分、戻ってきてましたけど」 彼女は冷たい目をしながら、書類を突き出してきた。 僕は思わず首をひねった。確かにこれは、法務局に出したままのはずだ。

地下保管室の鍵がない

書類の出入りを記録しているノートを確認してみたが、返却の記録はない。 僕が法務局に電話をかけようとした瞬間、さらに異変が起きた。 鍵の保管箱にあるはずの「地下保管室」の鍵が、忽然と姿を消していた。

謎の封筒と旧登記簿

午後、法務局から電話があった。僕の署名の入った「登記簿開示申請書」が出てきたという。 だが、僕はそんな申請をしていない。宛名の筆跡も、どこか古臭い万年筆のインクだった。 一緒に送られてきた封筒の中には、昭和三十年の登記簿の写しが入っていた。

封も切られていない資料

その資料は、なぜか未開封だった。紙の質感も、今では見かけないボソボソとしたものだ。 「これ、郵便で来たんですか?」と尋ねると、法務局の職員は「地下保管庫の整理で出てきたんですよ」と言った。 つまり、それは長年誰の目にも触れず、封印されていたということになる。

昭和三十年の奇妙な名義人

問題の登記簿には、妙な名義が記されていた。名字と名前の間に点が打たれていたのだ。 しかも、その人物は戦後に死亡したはずの人物と同姓同名だった。 「これ、偽名ですね」とサトウさんはさらりと断言した。

調査開始と奇妙な電話

その日、見知らぬ番号から電話がかかってきた。「これ以上調べない方がいい」 男の声はくぐもっていたが、どこかで聞き覚えがある気がした。 気味が悪くなって電話を切ったが、僕の背筋は冷たくなっていた。

なぜか怒鳴られたシンドウ

翌日、法務局に確認に行くと、いつも温厚な登記官が怒鳴りつけてきた。 「そんな古い資料を持ち出したら困るんです!」 まるで、僕が意図的に過去を暴こうとしているとでも言わんばかりだった。

登記官の過去と秘密

その登記官、調べてみると昔、別の管轄で問題を起こして異動していたことが分かった。 そして、その異動時期と問題の登記簿の日付が奇妙に一致していた。 偶然にしては、できすぎている。

地下室に忍び込む

「夜中に行きますよ」とサトウさんが言い出した。僕は全力で止めたが、彼女は聞かない。 法務局の裏口、まるでルパン三世が忍び込む時のような滑らかさで彼女は鍵を開けた。 やれやれ、、、司法書士の仕事って、ここまでやるもんかね。

真夜中の法務局

地下室の扉は思いのほかあっさり開いた。中には古びた棚がずらりと並び、埃と紙の匂いが漂っていた。 一つだけ、明らかに不自然なほど新品の鍵が差し込まれているキャビネットがあった。 そこには、焼け焦げた登記簿の断片が入っていた。

記録と焼かれた登記簿

焦げた紙片の中から、サトウさんは辛うじて読める部分を見つけ出した。 それは現在の登記とは異なる、別の所有者を示していた。 つまり、現在の土地の持ち主は、本来の名義人ではないという証拠だ。

サトウさんの推理

「この人、戦後すぐに死亡したことになってるけど、実は生きてたんですよ」 サトウさんはそう言って、旧姓と新姓の変更履歴を調べあげていた。 「だから別人に見えてたけど、同一人物なんです」

失踪した名義人の正体

戦後の混乱期、戸籍の操作が横行していた。その中で、自分の死を偽装した人物がいたのだ。 そしてその人物が、後に別人として土地を売却し、利益を得ていた。 まるで『名探偵コナン』の犯人のような入れ替わりトリックだった。

鍵を握る古い委任状

棚の奥から、折りたたまれた古い委任状が見つかった。 そこには、偽名で登記を依頼した当時の署名が残っていた。 筆跡は、現在の土地所有者の父親のものと一致していた。

決定的証拠と一通のFAX

「これ、マスコミに出すべきですか?」サトウさんが聞いたとき、僕は少し考えた。 でも僕たちは司法書士、正義のヒーローではない。証拠はしかるべき機関へ提出するべきだ。 翌日、法務局と検察庁に証拠一式をFAXで送った。

司法書士が命を狙われる

その夜、見知らぬ男が事務所に侵入しようとしていたが、警備会社が通報して未遂に終わった。 明らかに、何者かが僕たちを黙らせようとしていた。 だけどもう、止まらない。真実は、封印できないのだ。

やれやれ、、、なんでこうなる

僕は警察の事情聴取の後、事務所で頭を抱えていた。 「登記の相談だけ受けてればよかったんだよなあ、、、」 でも、どこかスッキリした気分だった。

登記簿が暴いた罪

後日、その土地の登記は職権で抹消され、新たな手続きが開始された。 違法に取得された土地は国庫に帰属される見込みだ。 世間には知られていないが、ひとつの悪事が静かに葬られようとしていた。

昭和の借名登記と現代の罠

戦後の混乱と名義の不備、そして現代の相続問題が絡み合っていた。 登記制度の隙を突いた巧妙な仕掛けだった。 でも、最後には記録がすべてを語る。それが司法書士の信じる真実だ。

真犯人は今も業界の中に

逮捕されたのは土地の所有者の叔父だった。だが彼は単なる実行犯にすぎなかった。 裏で糸を引いていた者は、いまだ業界の中にいる。 でもそれを追うのは、僕の仕事じゃない。僕は、司法書士だから。

事件の結末とその後

数週間後、静けさを取り戻した事務所で、また登記の依頼が舞い込んできた。 何事もなかったようにサトウさんは書類を処理している。 僕は、ほんの少しだけ彼女の横顔を見て「ありがとう」と呟いた。

依頼人の涙と帳簿の余白

土地を取り戻した依頼人の娘は、涙を流してお礼を言った。 帳簿の最後のページに、控えめな字でその名義を書き込んだとき、少し手が震えた。 登記簿の余白が、ようやく意味のある空白になった。

サトウさんの微笑みは見えない

事務所を出ると、サトウさんはコーヒーを片手に窓際に立っていた。 顔は見えなかったが、肩の揺れで少し笑っているような気がした。 それだけで、今日も少しだけ、頑張れる気がした。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓